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黒い秘密とオーレリア1
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―――コポコポ…コポッ……ブクブク…ッ…ッ…
人魚の森奥深く、ブルーグレーに近い水底の視界、微かに陽のベールが届くか届かないか。
魚達の話し声も少ない、水流に漂う泡の音が時折聴こえる。
一見、昼なのか夜なのか分からない。
そんな静かな水中を、優雅に尾を動かし、長い髪を揺らしながら真っ直ぐに進む、一人の人魚の姿があった。
優雅だが、何処か焦っている様子で人魚の進む速度は加速していた。
水中の水底にある白い砂が時折舞い上がる。
暫くすると、幾つかの鉱物の断面模様の様な縞模様の岩が何個も佇む岩場が見えて来た。
迷う事無く、その岩場の奥へ奥へと進む。
辿り着いた場所には、上半分が半円型の大きなブラックオパールの扉が聳え立っていた。
―――ドンドンドン…
その扉を、躊躇せず人魚は叩いた。
「…――…ぁ………開いてよ…っ」
―――ドンドンドン……ドンドンドン………
どれくらい叩いただろう。
揺れるブラックオパールの扉が観念したように、ゆっくりと開いた。
中へ腕を入れると、そこは水の無い一室だった。
扉の外は確かに水中だが、何かのベールが掛けられているように、地上と同じ空気で満たされた空間。
しかし、水が無くても動き辛さは無かった。
ブラックオパールの扉は人魚が中に入ると勝手に閉まった。
室内に入った人魚の体は微かに浮いていた。
例えるなら、まるで宇宙空間で浮遊するように。
見渡すと室内の中央には台が一つ置かれていた。
薄暗く、よくよく見ると如何にも毒があるような全体が濃い紫色で、斑点模様が妖しく光るイソギンチャクが台の上でウヨウヨと数本の触手を動かしている。
台の上には、イソギンチャク以外にも人間の頭蓋骨の型をした、所謂髑髏の黒水晶のような物もあった。
少し進んみ止まった人魚はその場で口を開けた。
「おば様!」
一室全体に人魚の声が響き渡る。返事は無い。
「…ねぇ、居るのでしょ!!?」
「おば様!!……―っ…」
上半身を動かし、人魚は室内を左右に見ながら声を上げた。
「…五月蝿いね。誰よ?」
―カツ…カツ……
薄暗い室内に煩わしそうな声と共に足音が響いた。
顔を上げた人魚の視線の先に、動く影が見えた。
全体にウェーブのかかったロングヘアに、血の気の無い肌、鼻は高く髪から少し覗く。
肩は露出しているが、足元まで広がるゆったりとした髪と同じ黒色のレースのワンピース。
センターに別れた前髪から覗く顔には、切れ長の目。
しかし大きめの瞳には、光が宿っていないような様子だ。
左手中指には大きめの黒水晶の指輪があった。
薄暗い中、現れた者は闇に同化する事無く、姿形が淡く光を纏っているようだった。
一室の主、メラークル・モールである。
「メラークルおば様!!」
人魚は叫んだ。
「その“おば様”は辞めなさい。と何度言わせるだ?……オーレリア。」
メラークルは真顔の継、静かに息を吐くと右手で自身の前髪を掻き上げた。
メラークルから名を呼ばれた人魚のオーレリアはその仕草を気にする事無く、メラークルに近付いた。
「――それはご免なさい!だけど、それどころじゃ無いの!!」
メラークルの顔に身を乗り出し、ピンクカルサイトの尾をバタバタさせ、オーレリアは真剣な顔を向けた。
「……近い」
近付けられた顔をメラークルは細長い指輪でムニッと掴み、軽く押した。
掴まれたオーレリアの頬に指が食い込む。
「ひょっ…メラーふルはマ…―」
「取り敢えず、落ち着け。いつも以上に騒がしい。」
「ファ…!…慌てて当然でしょ?!大変なんだからっ」
メラークルの指から首を振って顔を避けると、尚もオーレリアはメラークルに前のめりで食い下がった。
「だから、何がそんなに大変なんだ?分かるように説明しなさい。」
オーレリアの圧に左瞼をピクリと動かし、光の宿らない目でメラークルはオーレリアの目を見据えた。
「あ、怒らないで!」
メラークルの気に障ってしまったと思い慌てるオーレリア。
「……ならば、早くしろ。」
「アルメリアが…妹が行方不明で……」
先程の勢いは何処へ行ったのか。
オーレリアは言いながら段々と語尾が小さくなった。
メラークルと合わせていたオーレリアの目は、小さくなる声と共に外れ下へ向かった。
「アルメリアとは。…オーレリア、貴女何人妹が居た?」
「あ、二人。」
「次女か?三女か?」
「一番下の妹よっ…あの嵐の日に、渦潮が」
メラークルは「三女ね」と呟き、髑髏の黒水晶を掴むと自分の目の前へ移動させた。
何かをジッと見詰め始める。
オーレリアはそんなメラークルと髑髏を交互に見て、メラークルの言葉を待った。
―――数分後。
沈黙の継、髑髏を見詰めていたメラークルは、事が終わったようで、移動させた髑髏を元の場所へ戻した。
髪を掻き上げ、見守っていたオーレリアの方へ首を動かした。
「安心しろ。生きてはいる。」
「!!…本当に!?」
「あぁ。だが、近い場所では無さそうね。」
「そんな…っ……じゃぁ、助けには行けないって事!?」
メラークルの言葉に、伏せた頭を上げ、一瞬パッと明るくなったオーレリアの表情がサーッと青ざめる。
メラークルは表情を変えずに続けた。
「誰もそこまでは言っていない。……居場所を掴まなければ、助けにも行けないだろう。先ずは、生きているかを確認したまでだ。」
「―――じゃぁ、…」
オーレリアの目がくるっと見開かれた。
オーレリアが続けようとした言葉は、まるで犬に待てをするように真正面の目の前で止められた、メラークルの掌によって遮られた。
「慌てるな。それと探しに行くのなら、一人では無理だ。仲間が要る。」
オーレリアはゴクリと喉を鳴らした。
「場所が確認出来る迄に、迎えに行く仲間を集めよ。……オーレリアなら出来るだろう?」
メラークルの口元は口角が上がり、不敵な笑みを描いた。
「一先ず、家へお帰り。……真っ暗になる前に」
オーレリアはコクコクと頷き、メラークルと自分しか居ない辺りを見渡すと、入って来たブラックオパールの扉の方へ向かおうとした。
が、ハタと動きを止める。
「……えっと、居場所はメラークル様が突き止めてくれるの?」
「………可愛いオーレリアの頼みだからねぇ」
「流石おば様!」
メラークルの言葉に笑顔になったオーレリアは、直ぐ様ブラックオパールの扉へと進み、扉は待ってましたと勢いよく開いた。
後ろこらメラークルが「だからおば様じゃないと言っているだろう!」と叫んだが、オーレリアには届いていなかった。
メラークルが叫び終わる頃には、オーレリアの体は水中の中だった。
「どうやって騙したんだ?ババア。」
オーレリアが去った後、メラークルの背後で声がした。
「おや?……居たのかい。ネル」
声の方に振り向き、よく知っている妖精の姿にメラークルは含んだ笑みを浮かべた。
「…口の聞き方には気を付けな。」
「人魚のオーレリアだろ、今の。」
怠そうな表情浮かべるネルは、頬杖を付きながらメラークルを見下ろした。
メラークルの忠告など聞いていない。
「そうね、アンタの言う通りオーレリアだ。ただ、騙してないさ。」
「――ハッ…嘘吐けよ。イブリース。」
ネルの言葉に、メラークルの表情が一変した。
笑いは消え、ヒリヒリとした怒りを滲ませ、ドス黒いオーラを放った。
ネルが口にした名はメラークルの本来の名。
「……その名で呼ぶとは…余程、私を怒らせたいらしいな。」
「いや、待て。そうじゃない―――」
少々やりすぎたか?と思い、心の中でネルは舌打ちをする。
悪態をつきながらも無闇に怒らせたい訳では無い。
ネルにとってメラークルは厄介な相手であった。
「何が言いたい?」
「ババアにとってオーレリア…つまり、人魚はお客とかじゃない筈だ。だから、」
「……騙していると?」
「あぁ。」
「確かに、お客では無いな。あの娘は忘れているだろうが、あの娘の尾を脚にならなくさせたのは私なのだから。」
そう言うとメラークルは口元に微笑みを描き、喉の奥でクツクツと笑った。
人魚の森奥深く、ブルーグレーに近い水底の視界、微かに陽のベールが届くか届かないか。
魚達の話し声も少ない、水流に漂う泡の音が時折聴こえる。
一見、昼なのか夜なのか分からない。
そんな静かな水中を、優雅に尾を動かし、長い髪を揺らしながら真っ直ぐに進む、一人の人魚の姿があった。
優雅だが、何処か焦っている様子で人魚の進む速度は加速していた。
水中の水底にある白い砂が時折舞い上がる。
暫くすると、幾つかの鉱物の断面模様の様な縞模様の岩が何個も佇む岩場が見えて来た。
迷う事無く、その岩場の奥へ奥へと進む。
辿り着いた場所には、上半分が半円型の大きなブラックオパールの扉が聳え立っていた。
―――ドンドンドン…
その扉を、躊躇せず人魚は叩いた。
「…――…ぁ………開いてよ…っ」
―――ドンドンドン……ドンドンドン………
どれくらい叩いただろう。
揺れるブラックオパールの扉が観念したように、ゆっくりと開いた。
中へ腕を入れると、そこは水の無い一室だった。
扉の外は確かに水中だが、何かのベールが掛けられているように、地上と同じ空気で満たされた空間。
しかし、水が無くても動き辛さは無かった。
ブラックオパールの扉は人魚が中に入ると勝手に閉まった。
室内に入った人魚の体は微かに浮いていた。
例えるなら、まるで宇宙空間で浮遊するように。
見渡すと室内の中央には台が一つ置かれていた。
薄暗く、よくよく見ると如何にも毒があるような全体が濃い紫色で、斑点模様が妖しく光るイソギンチャクが台の上でウヨウヨと数本の触手を動かしている。
台の上には、イソギンチャク以外にも人間の頭蓋骨の型をした、所謂髑髏の黒水晶のような物もあった。
少し進んみ止まった人魚はその場で口を開けた。
「おば様!」
一室全体に人魚の声が響き渡る。返事は無い。
「…ねぇ、居るのでしょ!!?」
「おば様!!……―っ…」
上半身を動かし、人魚は室内を左右に見ながら声を上げた。
「…五月蝿いね。誰よ?」
―カツ…カツ……
薄暗い室内に煩わしそうな声と共に足音が響いた。
顔を上げた人魚の視線の先に、動く影が見えた。
全体にウェーブのかかったロングヘアに、血の気の無い肌、鼻は高く髪から少し覗く。
肩は露出しているが、足元まで広がるゆったりとした髪と同じ黒色のレースのワンピース。
センターに別れた前髪から覗く顔には、切れ長の目。
しかし大きめの瞳には、光が宿っていないような様子だ。
左手中指には大きめの黒水晶の指輪があった。
薄暗い中、現れた者は闇に同化する事無く、姿形が淡く光を纏っているようだった。
一室の主、メラークル・モールである。
「メラークルおば様!!」
人魚は叫んだ。
「その“おば様”は辞めなさい。と何度言わせるだ?……オーレリア。」
メラークルは真顔の継、静かに息を吐くと右手で自身の前髪を掻き上げた。
メラークルから名を呼ばれた人魚のオーレリアはその仕草を気にする事無く、メラークルに近付いた。
「――それはご免なさい!だけど、それどころじゃ無いの!!」
メラークルの顔に身を乗り出し、ピンクカルサイトの尾をバタバタさせ、オーレリアは真剣な顔を向けた。
「……近い」
近付けられた顔をメラークルは細長い指輪でムニッと掴み、軽く押した。
掴まれたオーレリアの頬に指が食い込む。
「ひょっ…メラーふルはマ…―」
「取り敢えず、落ち着け。いつも以上に騒がしい。」
「ファ…!…慌てて当然でしょ?!大変なんだからっ」
メラークルの指から首を振って顔を避けると、尚もオーレリアはメラークルに前のめりで食い下がった。
「だから、何がそんなに大変なんだ?分かるように説明しなさい。」
オーレリアの圧に左瞼をピクリと動かし、光の宿らない目でメラークルはオーレリアの目を見据えた。
「あ、怒らないで!」
メラークルの気に障ってしまったと思い慌てるオーレリア。
「……ならば、早くしろ。」
「アルメリアが…妹が行方不明で……」
先程の勢いは何処へ行ったのか。
オーレリアは言いながら段々と語尾が小さくなった。
メラークルと合わせていたオーレリアの目は、小さくなる声と共に外れ下へ向かった。
「アルメリアとは。…オーレリア、貴女何人妹が居た?」
「あ、二人。」
「次女か?三女か?」
「一番下の妹よっ…あの嵐の日に、渦潮が」
メラークルは「三女ね」と呟き、髑髏の黒水晶を掴むと自分の目の前へ移動させた。
何かをジッと見詰め始める。
オーレリアはそんなメラークルと髑髏を交互に見て、メラークルの言葉を待った。
―――数分後。
沈黙の継、髑髏を見詰めていたメラークルは、事が終わったようで、移動させた髑髏を元の場所へ戻した。
髪を掻き上げ、見守っていたオーレリアの方へ首を動かした。
「安心しろ。生きてはいる。」
「!!…本当に!?」
「あぁ。だが、近い場所では無さそうね。」
「そんな…っ……じゃぁ、助けには行けないって事!?」
メラークルの言葉に、伏せた頭を上げ、一瞬パッと明るくなったオーレリアの表情がサーッと青ざめる。
メラークルは表情を変えずに続けた。
「誰もそこまでは言っていない。……居場所を掴まなければ、助けにも行けないだろう。先ずは、生きているかを確認したまでだ。」
「―――じゃぁ、…」
オーレリアの目がくるっと見開かれた。
オーレリアが続けようとした言葉は、まるで犬に待てをするように真正面の目の前で止められた、メラークルの掌によって遮られた。
「慌てるな。それと探しに行くのなら、一人では無理だ。仲間が要る。」
オーレリアはゴクリと喉を鳴らした。
「場所が確認出来る迄に、迎えに行く仲間を集めよ。……オーレリアなら出来るだろう?」
メラークルの口元は口角が上がり、不敵な笑みを描いた。
「一先ず、家へお帰り。……真っ暗になる前に」
オーレリアはコクコクと頷き、メラークルと自分しか居ない辺りを見渡すと、入って来たブラックオパールの扉の方へ向かおうとした。
が、ハタと動きを止める。
「……えっと、居場所はメラークル様が突き止めてくれるの?」
「………可愛いオーレリアの頼みだからねぇ」
「流石おば様!」
メラークルの言葉に笑顔になったオーレリアは、直ぐ様ブラックオパールの扉へと進み、扉は待ってましたと勢いよく開いた。
後ろこらメラークルが「だからおば様じゃないと言っているだろう!」と叫んだが、オーレリアには届いていなかった。
メラークルが叫び終わる頃には、オーレリアの体は水中の中だった。
「どうやって騙したんだ?ババア。」
オーレリアが去った後、メラークルの背後で声がした。
「おや?……居たのかい。ネル」
声の方に振り向き、よく知っている妖精の姿にメラークルは含んだ笑みを浮かべた。
「…口の聞き方には気を付けな。」
「人魚のオーレリアだろ、今の。」
怠そうな表情浮かべるネルは、頬杖を付きながらメラークルを見下ろした。
メラークルの忠告など聞いていない。
「そうね、アンタの言う通りオーレリアだ。ただ、騙してないさ。」
「――ハッ…嘘吐けよ。イブリース。」
ネルの言葉に、メラークルの表情が一変した。
笑いは消え、ヒリヒリとした怒りを滲ませ、ドス黒いオーラを放った。
ネルが口にした名はメラークルの本来の名。
「……その名で呼ぶとは…余程、私を怒らせたいらしいな。」
「いや、待て。そうじゃない―――」
少々やりすぎたか?と思い、心の中でネルは舌打ちをする。
悪態をつきながらも無闇に怒らせたい訳では無い。
ネルにとってメラークルは厄介な相手であった。
「何が言いたい?」
「ババアにとってオーレリア…つまり、人魚はお客とかじゃない筈だ。だから、」
「……騙していると?」
「あぁ。」
「確かに、お客では無いな。あの娘は忘れているだろうが、あの娘の尾を脚にならなくさせたのは私なのだから。」
そう言うとメラークルは口元に微笑みを描き、喉の奥でクツクツと笑った。
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