嵐の夜人魚は青き竜使いに拾われる(仮)

星空凜音

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願いと約束3ー8

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(何故、そこまで……)

 レイヴァンの気配りに、アルメリアは胸元に変なむず痒さを感じた気がした。
 脳内に“?”が浮かんだものの、頭を振って掻き消した。

「レイヴァン様、お話とは……?」

 アルメリアはレイラが現れる前に話を戻すように、レイヴァンに聞く。
 アルメリアの言葉に「そうだった」と思い出した顔をして、レイヴァンは口を開いた。

「……俺が君をここへ連れて来た理由を気になっているのだろう?」

 先ず先程、水の中でアルメリアが気にしていた事を、レイヴァンは説明しようしていた。
 アルメリアと違い水の中で話す事は出来無い。
 水の中で自分の体が光っていた事を、アルメリアが戸惑っている事には気付いていた。

「はい。単なる滝じゃない…ですよね」

「あぁ。この滝は癒しの場所ではあるが、竜達の魔力を戻す場所でもある。」

「魔力を……戻す……」

「つまり、補充の場所とも言えるな…。」

 昔からここへ来ると自分の所有する竜達が、元気になる事をレイヴァンは知っていた。

「アルメリアは人魚シレーヌだから、竜とは違うが、俺は人魚には人魚の魔力があると思った。それはただの水では補充が出来無いだろう?」

 部屋で倒れていたアルメリアの様子に、レイヴァンは水分だけで無く、他にも足りないものがあるのではないかと思った。
 竜とは違う。
 だが、もしかしたら回復も早いのではないか?と考え一か八かで連れて来たのだった。

「…………っ…」

「俺が思うより、意識が早く戻ったのは意外だったが、ここへ来る時よりアルメリアの顔色は遥かに良い。―――良かったな。」

 此方を見るレイヴァンの目は優しかった。

「……ありが…とうございます」

(………どうして…何故、そこまで―――)

 その優しさを向けるのは理由は何なのか。

「…レイヴァン様。何故、ですか?」

「ん?」

「何故、こんな事までして救ってくれるのですか?」

 回復が出来る滝という事は、この国にとって大変重要な場所の筈。
 部外者にそれを知られたら、本来は不味いのではないか―――とアルメリアは思った。
 異国の地。本当なら危険な国。そう聞いて育ったアルメリアには、レイヴァンの行動があまりにも掛け離れていて何処かやはり怖かった。

「それはもう一つ、アルメリアに話したい事がある。」

 優しかったレイヴァンの目は、真剣なものに変わった。
 言い切ったレイヴァンの声色も何処と無く真剣なものだった。
 ―――何を言われるのだろう。
 無意識だがゴクリと口の中の空気を飲み込む。

「もし…いや。……アルメリア」

「はい」

「君を、アルメリアが育った人魚の棲家へ無事に還す事が出来たら、一つ頼みたい事がある。」

 ―――頼みたい事?
 レイヴァンの目を見ながら、アルメリアは黙って次の言葉を待った。

「誤解しないで聞いて欲しいが……先ず、アルメリアの血を分けて貰えないだろうか…」

「―――!」

(………今……なんて…………)

 レイヴァンの言葉に、アルメリアは固まった。

(どういう…意味……?)

「あー…アルメリア?」

 アルメリアは黙り込み、頭が真っ白になりながらも、目の前のレイヴァンの真意を探った。
 レイヴァンは自分を殺さないと言った。
 必ず、還してくれると。
 でも、今目の前のレイヴァンは、私の血を分けて欲しいと言った。―――いきなり何故?

「アルメリア?」

 動かなくなったアルメリアが何か誤解をし始めていると思ったレイヴァンは、アルメリアの名を呼びながら、アルメリアへと右手を伸ばした。
 ビクッ…!
 伸ばされたレイヴァンの手に、アルメリアは頭を少し後退させた。

「あー……済まない、違うんだ。驚かせたかった訳じゃない。最後まで聞いてくれ。」

 レイヴァンは自分が明らかにアルメリアを怖がらせてしまったと思い、罰が悪そうな顔をした。
 アルメリアへ伸ばした手をゆっくりと引っ込めた。

「レナの事なんだ。レナの為に、アルメリアに協力を頼みたいんだ。」

「…レナさ…ん?」

 下げられたレイヴァンの手を見ながら、レイヴァンの言葉に瞬きを繰り返した。

「俺の妹であるレナは、産まれた時から体が強くは無い。この国で産まれながらレナがまだ小さい頃に聞いた話では、寿命は………本来の半分と言われている。」

「…………」

 ここ数日、レナに接したアルメリアには、レナの体が弱いとは思えなかった。
 レイヴァンと同様、邸宅の主として侍女やメイド達に接しているキリッとした態度のレナしか見ていない。
 思い返しても、体調が悪い様子は全く感じられ無かった。

「それは…治らないものなのですか?」

「この国の普通の医師が診た所で、治りはしないだろう。だが………」

「?」

「一つ、レナを診た白魔女から、薬を作れる可能性を言われている。」

「……つまり、その薬を作るために私の血が必要…なのですか?」

「あぁ、必要な材料の一つとして。指定されたのは“脚を持つ人魚の血”だ。だからと言って、必要なのは少しなんだ。少しの量で良い、凡そ数滴。」

「数滴。」

 レイヴァンは真剣な顔で語り、必死に説明しながらも、口調は穏やかさを保っていた。
 アルメリアは、どうしてかその説明が嘘には聞こえなかった。
 レイヴァンと会話をしたのは、数日の内の数時間。
 先程、確かにほんの一瞬、言葉により怖かった。
 でも、今レナの為に語るレイヴァンに怖さは無い。
 例えるならば、妹の為に一生懸命な妹想いの兄という姿だろう。

「アルメリア。……その…無理にとは言わない。嫌なら断ったって良い。断ったからって、君を還さないなんて事はしない。」

「……レイヴァン様」

 ここで断ったらレナの薬は作れないのではないか。
 アルメリアは迷っていた。
 レイヴァンに拾われた日から、アルメリアはレイヴァンに嫌な思いは一切させられていない。
 寧ろ、助けられてばかりな気がした。
 レナも自分に明るく接してくれていた。
 この継、無事に還ることが出来たとして、レイヴァン達に自分は何を返せるだろうか。
 自分のこの身は、毒にも薬にもなると聞く。
 もし、数日前自分を助けたのがレイヴァンでは無かったら、今既に生きていないかも知れない。
 アルメリアは静かに左手に拳を握った。

「レイヴァン様。もし、私が協力するとして、血をお渡しするなら、私の血は何方が取るのですか?」

「それは俺がやる。専用の器具で腕から取るか、指から数滴でも良い。」

 レイヴァンの目をジッと見詰めて、アルメリアは瞼を下ろし目を閉じた。
 辺りに数秒の沈黙が流れた。
 目を閉じたアルメリアの様子に、レイヴァンは待った。

 ―――二分後。
 目を開けたアルメリアは、レイヴァンの姿を自分の目に映すと意を決し口を開いた。

「レイヴァン様、分かりました。還ることが出来たら、協力します。レイヴァン様が必要な分の血をお渡しします。」

「……本当か?………本当に、良いのか?」

 アルメリアの言葉に、レイヴァンの目は今迄で一番見開かれていた。
 頼んだ側なのにレイヴァン本人は、アルメリアが承諾してくれるとは思っていなかった。
 アルメリアの協力するという言葉が夢ではないかと錯覚するくらい。

「―――はい。レイヴァン様にもレナさんにも、私は助けて貰いました。全てを信用した訳では無いですが……あ、その代り、必ずレイヴァン様が血を取って下さい。」

「あぁ、勿論…!………ありがとう、アルメリア。」

 お礼を言いレイヴァンが見せた表情は、アルメリアが一瞬、魅入る位綺麗な笑顔だった。
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