嵐の夜人魚は青き竜使いに拾われる(仮)

星空凜音

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目覚めた人魚―6

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 アルフレッドの言葉にレイヴァンは溜め息を吐いた。
 妹であるレナの指示にはシェフも逆らい辛かったのだろう。
 出された食事を全て終えると、レイヴァンはアルフレッドやシェフに文句を言う事は無かった。

「それからレナお嬢様ですが、就寝なさっておられるかと思いましたが、既に起床されてるご様子です。」

 保護した女性の事を知らないアルフレッドは、レナが早朝に起床したと思ったようだ。
 アルフレッドがレナを呼ぶ為に様子を確認に行くと、侍女がレナの部屋に入る所だった。
 メイドが出した食後の珈琲カフェ・ウ・テを口に運びながら、首だけ頷くレイヴァン。

「―――レナは、今部屋か?」

「左様にございます。レイヴァン様がお呼びしている事はお伝えしてありますが……食堂へお呼び致しますか?」

「いや、部屋に向かう。」

 早々に飲み終えカップを置くと、レイヴァンはレナの部屋に向かった。



 ―――コンコン…ギィー……

「レナ、入る。」

「あら、兄様?お帰なさい。」

 レナの部屋に入ると、侍女が用意した紅茶が注がれたカップを手にしたまま、レイヴァンが入って来た扉の方へ振り向くレナの姿があった。
 レナの部屋はレイヴァンの部屋と造りが異なる。
 レイヴァンの部屋より一部屋少ない、三部屋が繋がっているが、どの部屋にも外から開けられる扉と内鍵が備え付けである。
 レナの侍女二人は、ティーテーブル近くの壁際で待機していた。
 部屋の中は、レナが好むジャスミンの仄かな香りが漂う。
 「兄様も飲みます?」という誘いなのか、レナは自分のカップをレイヴァンの方へ少し持ち上げたが、レイヴァンは首を左右に振る。

「………外してくれ。」

 レイヴァンがレナの侍女に外へ出るよう言うと、一瞬迷う侍女二人。
 侍女同士顔を見合わせチラッとレナの方を伺う。

「後で紅茶のお代りを貰えるかしら?今は外して大丈夫よ。」

 レナの言葉に侍女二人は一礼して、部屋を出た。
 レナの座るティーテーブルのレナの真向えのチェアに腰を降ろし、レイヴァンは本題を切り出した。

「それで、彼女の様子は?」

 レイヴァンの様子を見ながら、紅茶を一口飲み込むと、レナはレイヴァンに視線を合わせる。

「名前はアルメリアだそう。取り敢えず、水分は結構飲んでいたわね。何処の国から来たとかは話してないけれど、兄様が救けた事は伝えてあるわ。――あ、アルメリアの国にはグロッグが無いかも?グロッグを知らなかったから…」

「…そうか。」

 紅茶の入ったカップをソーサーに置くと、左人差し指を顎に当て、思い出すように時折宙を見てレナは話す。

「あ、それから彼女の背中、痣のような綺麗な模様があったわ!真珠貝の形だったの。」

「真珠貝…」

 レナの話を聞きながら、レイヴァンは思考を回転させ何かを考えるように視線を左右に動かす。
 レイヴァンがぽつりと溢す相槌に、レナは他に言う事が無いのかとレイヴァンをジッと見詰める。
 レナの視線に気付かず、三十秒程考え込んだ。

「―――兄様?」

 レナに呼ばれてハッと我に返り、レイヴァンがレナへ視線を動かすと、レナは怪訝な表情でレイヴァンにグッと身を乗り出していた。

「兄様、大丈夫?何か考え事?」

「…あ、いや、大丈夫だ。彼女は今、起きているのか?」

「食事の後、一度眠るようだったから自分の部屋に戻ったけれど、兄様が帰って来る少し前に見に行ったら、まだ寝ているみたいだったわ。」

 レナの話からアルメリアと話すタイミングを考えるレイヴァン。
 アルメリアの起床後にいきなり自分だけ部屋へ面会に行くのは躊躇われる。
 救けたとは言え、レナから説明されていても、きっと警戒心が出るだろう。
 女性では無い自分との面会は緊張して当たり前だ。
 ここはやはりレナと共に行くべきだろうとレイヴァンは思った。
 そして、寝ているなら無理に起こす気は無かった。
 レナの部屋の時計を見る。

「一時間後、彼女が起きているか確認してくれるか?」

「良いけれど……兄様、今日はこの後お休み?」

「いや、俺は夜に行く。橋が崩れていたから、四日間は休めない。」

 徹夜で帰宅して、また夜に行くと言うレイヴァンにレナの瞳は大きく見開かれた。

「!…まぁ……」

 一日位休んだってと言いたくなったレナだが、それは言うべきでは無いかもと思い口を噤む。
 妹としてレイヴァンの体が心配だった。

「…じゃ、兄様も一時間仮眠を取って?後でアルメリアを確認したら、兄様の部屋に行くわ。それまで少し体を休ませて。」

「あぁ、分かった。あれだったらアルフに起こさせれば良い。」

 レナの部屋とは違い、一番奥に寝室があるレイヴァンの部屋はレナが呼びに来るには入り難いと思ったレイヴァンは、必要なら執事のアルフレッドに頼んで良いと言う。
 レナが頷くと、立ち上がるレイヴァン。
 レナが扉の前まで見送ると、自室へと向かった。



 ―――一時間後。
 レイヴァンと話した後、部屋で過ごしたレナは仮眠を取ったレイヴァンを伴い、アルメリアの居る西側の部屋へ向かった。
 侍女や使用人達には気付かれないよう、周りを少し警戒しつつ足を進める二人。
 レイヴァンは自分を起こす事を頼んで良いとは言ったが、アルメリアの事を使用人達に知られたく無いと言っていた為、レナ自身でレイヴァンを起こしに行った。
 レイヴァンを起こす前にアルメリアの部屋へ行くと、アルメリアは起きていた。
 後で、アルメリアを救けたレイヴァンと面会して欲しい事を伝えると、アルメリアは一瞬戸惑いが滲む表情を見せたが、ゆっくり頷いて了承した。
 ―――コンコン…………
 西側の部屋の前に着くと、念の為に二回ノックをしてからレナは扉を開けた。

「…入るわね、アルメリア?」

 レナは控え目に部屋の中へ踏み入れる。
 レイヴァンはレナが良いと言うまで、一先ず、部屋の扉前で待つ。
 アルメリアの心の準備が出来たら中へ入る事にしていた。

「具合は大丈夫かしら?…少し良い?」

 レナが様子を伺えば、食事と水を用意した時より顔色が良いように見える。
 レナが入って来た事に気付いたアルメリアは、寝台からティーテーブルへ移ろうと、脚を横に下ろそうとした。

「…あ、その継で大丈夫よ。兄様は気にしないから。扉の外に居るのだけど、入れても平気?」

「でも……」

「良いの良いの。大丈夫。」

 レナの言葉で動きが止まったアルメリアだが、レナの言葉で脚を戻した。

「…はい、大丈夫です。…中へ」

 アルメリアの返事に頷き、レナは扉の方へ振り返る。

「兄様、中へ入って良いわよ。」

 レナの声にレイヴァンは中へ入る。
 ―――パタン…………
 扉を閉めると、アルメリアの居る寝台前へ歩き、レナの横で止まった。
 入って来たレイヴァンに緊張してからか、アルメリアは自分の体にかけている毛布に視線を彷徨わせる。
 レナの横でレイヴァンの動きが止まると、意を決したかのように、レイヴァンの姿を下から順に視線を上げながら眺めた。
 レイヴァンと目が合い固まるアルメリア。
 レイヴァンもアルメリアと目が合うと、ジッと見詰めた。

「―――兄のレイヴァンよ。貴女をここへ連れて来た張本人。あ、怖く無いから安心して?」

 沈黙を破ったのはレナだった。
 レナは出来る限り緊張を解そうと、明るく言う。
 レイヴァンがレナの後に続いて話そうと薄く口を開いたが、アルメリアが先に話し出した。

「…あの…救けて頂き、ありがとうございます。」

 緊張からか、アルメリアの声は少し掠れたが、レイヴァンには届いていた。
 お礼を言ってペコリと頭を下げたアルメリアに、レイヴァンは止めていた口を動かした。

「いや、構わない。当たり前の事をしただけだ。」

 アルメリアの頭に降って来たレイヴァンの言葉はぶっきらぼうだったが、アルメリアがゆっくり頭を上げてレイヴァンを見れば、言葉とは違い穏やかな視線を向けられている事に気付く。

「レナから傷は殆んど無いと聞いたが、痛む所はあるか?」

「…あ、大丈夫…です。特に…」

「そうか。念の為、貴女の名は?」

「アルメリアです。」

 会話を始めると、アルメリアの緊張は少しずつ解けていくようだった。
 レイヴァンの隣で、レナはレイヴァンのぶっきらぼうな言葉に内心ハラハラしたが、黙ってレイヴァンとアルメリアの会話を聞いていた。

「アルメリアで間違いないな?」

「…はい。」

「分かった。………アルメリア、一つ聞く。

 レイヴァンの質問に、アルメリアは目の前が真っ暗になるような感覚がして、何を言われたのか瞬時には分からなかった。
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