年に一度の旦那様

８８ アレクの目論み

二人との関係を清算するにも、二人を再教育するにも良い機会。そんな役目を担わされるのは困る、それがアレクの正直な気持ちだ。どうせ毎月同じ額面の賃金を貰うなら、面倒なことはしたくない。
ロイが北の邸へ向かってから数年、アレクの仕事量は増えたというのに賃金は上がらなかった。それなのに、また厄介な仕事が増えるとは。なんて割に合わないのだろうかとアレクは思った。

しかし考えようによっては使えるかもしれない。
関係を清算、即ちそれは愛人としてのお役御免を意味する。そして再教育は、分を弁えさせるということだ。それをアレクが担うということは、アナベルとナタリアの今後を握ったも同然。二人にその事実を知らせ、毎月のアレクへの上納金を引き上げるのもいいかもしれない。
『ロイはこれくらいの仕事をおまえよりも安い賃金で当たり前にやっていた』、何度も言われたこの言葉。アレクにしてみれば、平民のロイを引き合いに出されることは業腹だった。身分が違うのだ、アレクは職務内容を選び、ロイは何でもやるべき階級だというのに。けれど、ロイが行うべきだった仕事を代わりにこなしてやった手当を回収する機会が訪れたようだ。

これは侯爵の命。
ノアは確かにそう言った。ならば、直接命を受けたのはノア。しかしノアは自分が二人を切ることは出来ないと理解している。教育に関しても、それぞれと二人きりになったら違う勉強になってしまう。だからアレクにその役目を振ってきたのだ。そして近々戻ってくる雑用専門のロイに振らなかったことにこそ理由がある。それは、ロイならば間違いなく二人を排除する道を選ぶとノアは思っているからだ。マクレナン侯爵が再教育などという猶予を愛人二人に与える程優しくはないと良く知るロイが選ぶのは排除。

ロイではなくアレク。それはノアが再教育を望んでいるということだ。そこまで考えてアレクは侯爵がノアに再教育などという選択肢を与えたのか疑問に思った。だったら、両者の意見を実現する方がいい。幸い愛人は二人。一人を排除し、一人を再教育すれば、それこそアレクの手腕を見せることになる。

それに、その方がアレクにとっても好都合。愛人としてここに残りたければ、アレクに対しどういう態度を取るべきかそこも教育出来るというものだ。

厄介な仕事だが、上手く利用すれば甘い汁を吸えるとアレクはほくそ笑んだ。