年に一度の旦那様

五十嵐

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86 タウンハウスに向かうまでの残された時間

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残された時間ですべきことがロイとレイチェルではこうまでも違うとは。こと夜の二人きりで過ごす時間に関しては、全く対極のようだった。

ロイはレイチェルとの以前と同じ適切な距離を求めた。それはマクレナン侯爵が、二人の距離感に疑問を抱くようなことがあってはならないからだ。
「あなたは侯爵家では男色で通っているじゃない」
「でも、レイチェルが今のように僕へ視線を向けるのを侯爵が何度も見たらどう思うか」
「大丈夫。ここでの暮らしであなたを頼るようになった演技をどこかでしておくから。そしてロイは侯爵へ伝えればいいのよ、この役目をノア様に直ぐに担っていただければ良いと思います、と」

あったことを無しにしたいロイの発想と、あったことに更にプラスすることで状況を変え利用したいというレイチェルの発想。女性の方が案外大胆なのではないかとロイは思った。
こうして寝台の上で睦み合うことに関しても、結局のところロイの方が逃げ腰だ。

「王都のマクレナン侯爵邸に着いてしまったら、こうして互いの体温を感じ合うことは出来なくなる。だから、今を大切にしたいの。今、こうするから、これからを頑張れるのだと思う。早く、また、こうして触れ合えるように」

煮え切らないロイの態度を察したかのようなレイチェルの言葉。しかしロイは『今を大切にしたい』という部分から気付いてしまった、レイチェルは精一杯を尽くしていたのだと。大胆で積極的に思えていた行動こそ、レイチェルが日々を大切にしていた表れに思えた。

取り上げられ、失うことに慣れていたレイチェル。コリンス伯爵家での生活はレイチェルに諦めることばかりで、希望を持つことを教えなかった。だからレイチェルはいつここでの生活が終わってもいいように、、悔いが残らないようロイとの時間を過ごしていたのだ。

「ごめん、レイチェル、君の不安を拭い去れなくて。でも、覚えておいて、僕は君を失うつもりはない。そうならない為に、計画に柔軟性を持たせて、最終的には君に僕を得てもらう」
「信じてる、あなたもフリカ達も。でも、信じることと、事が上手く運ぶことは別でしょ。駄目ね、わたしはどこかでいつも失うことを覚悟してしまっているんだわ」
「レイチェル、僕の体温を感じることを諦めないで。勿論、僕も君に対してもっと強欲になるから」

その夜、ロイは考え方を変えた。お互いにもっと先を欲しがるよう睦み合うことにしたのだ。守らなければならない限界が今はある。けれど、ロイもレイチェルも限界の先に何があるかなど疾うに理解している年齢で、興味も体も準備だけは出来ているのだ。こうすることで欲が膨らめば、レイチェルは諦めなくなるかもしれない。それはロイの希望であり、願いでもあった。
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*ご訪問ありがとうございました*

長い間更新しませんで…申し訳ございませんでした。感想をいただいていたのに、漸く気付き心を入れ替えようと思ったところです。
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