年に一度の旦那様

五十嵐

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79 侯爵の問い

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レイチェルに見せられた記号は力の内容を意味する、ロイはそう結論付けた。
「この記号は力を持つ者達が使っていた、その力を表すシンボルマーク、若しくは文字なのでは。加法の呪術を使う者の手帳にはこの記号だけが書かれていました。見る者が見れば、何の力か分かったということです。都合が良かったのでしょう、力の内容を知られない為には。そして、ラドルが額に見える印はこの記号ではないと思われます。動いたラドルが得た情報を、送ってきたのでしょうから」

フリカはロイの推測に納得したようで、『そういうことね』と呟いた。

「それと報告が」
「報告?」
「侯爵からわたし宛に手紙が来ました。今までだったら、レイチェル様には伝えない手紙の存在です」

この北の外れにある邸に来てから、ロイは定期的に侯爵から指示や命令が書かれた手紙を受け取っていた。それは調査、工作、レイチェルに対する指示と多種多様。執事業務の傍ら、侯爵に忠誠を誓っていると見せかける為にロイは全てを行っていた。

「今回はとても面白いことが書いてありました。侯爵はとてもお優しい。使用人のわたしの体調を心配して下さっています。『不能になっていないか』と」

ロイは手紙の内容を話すとレイチェルを見た。

「どう思いますか、レイチェル様?」
「…意地悪」
「侯爵の意地が悪いのは今に始まったことではありませんが…」
レイチェルが侯爵ではなくロイに意地悪と言ったことなど百も承知。それでも、ロイは毎朝大胆な悪戯をするレイチェルに分からない振りという意地悪をしたのだった。

「それで侯爵の質問からロイはどう考える?」
赤くなって俯くレイチェルに代わりフリカがロイの意見を尋ねた。

「ノア様は体の不具合を侯爵に伝えたのでしょう。そして、原因はこちらに来た時に体調を崩したことになっていたレイチェル様ではないかと疑った。侯爵はそれならば、傍でお仕えしているわたしにも同じ症状が出ているのではないかと考えた、といったところでしょうか」
「リンデルの作ったものは効いているようだね。カルセナが追加分を上手く届けるから、ノアは引き続き症状が出続けるよ。否、この場合は出ないと言った方がいいのか」
「どちらでも。後は都合の良いターゲットをカルセナが見つけるだけですね。そしてわたしは至って問題ないと侯爵へ返します」
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