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77 夢
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あともう少しで青空色の瞳がレイチェルを見つめてくれる。閉じられた瞼の動きを見つめながらレイチェルはそう思った。
けれど不思議なもので、見つめて欲しいのにこのまま寝顔を眺めていたいと思う。揺れる長い睫毛にそっと口付けたいとも。そしてロイを真横で見つめていると、レイチェルは錯覚を起こしてしまう。これが現実、ロイが旦那様なのではないかと。
見えている現実が夢なのか、それとも今のこの現状こそが夢なのか…分からない。そして夢とは願望の別の名なのかとも思う。
「おはよう。起こしてくれれば良かったのに」
「ふふ、この時間が好きなの。夢を見れるこの時間が」
「起きているのに、夢を」
「ええ。とても素敵な夢」
不思議そうに尋ねたロイの鼻先に、レイチェルは悪戯心を込めてキスをした。それからロイの体の上に乗ると、両腕をついて見下ろしたのだった。
「不思議」
「何が?」
「青空がわたしの下にある」
「青空?」
「ずっと思ってたの、ロイの瞳は青空みたいって。辛い時に見上げる青空、雨上がりに見える青空、雲の切れ間から覗く青空、色々あるあの青空。わたしが俯くことなく上を見上げられるような青空。なのに今は下だわ」
「…今は眼下に広がる青空で、良いと思う」
「残念」
「…」
「分かってる。困らせたいわけじゃないの。ただこの青空に包まれたいだけ」
レイチェルの言葉にロイが頷く。そして優しく抱きしめてくれた。
「レイチェル、僕も君の瞳の色をいつも例えていた。翡翠のようだと。中でもインペリアル翡翠のような、その新緑を思わせる色が僕に何かを教えてくれるのではないかと思っていた。新緑が芽吹くように、僕に新しい何かを教えてくれるって」
「新しい何か?わたしはロイにそれを伝えられたのかしら?」
「ああ、それまで僕の中に存在しなかった感情を教えてくれた」
「例えば?」
「…愛しい。きっとこれが愛なんだと思う」
この夢こそ覚めずにこのまま続けばいいとレイチェルは思った。でも、これはいつまでも人妻が見て良い夢ではない。それでも終わりを告げる王都への呼び出しの手紙が来るまでは、この夢を大切にしたいとレイチェルは思った。
けれど不思議なもので、見つめて欲しいのにこのまま寝顔を眺めていたいと思う。揺れる長い睫毛にそっと口付けたいとも。そしてロイを真横で見つめていると、レイチェルは錯覚を起こしてしまう。これが現実、ロイが旦那様なのではないかと。
見えている現実が夢なのか、それとも今のこの現状こそが夢なのか…分からない。そして夢とは願望の別の名なのかとも思う。
「おはよう。起こしてくれれば良かったのに」
「ふふ、この時間が好きなの。夢を見れるこの時間が」
「起きているのに、夢を」
「ええ。とても素敵な夢」
不思議そうに尋ねたロイの鼻先に、レイチェルは悪戯心を込めてキスをした。それからロイの体の上に乗ると、両腕をついて見下ろしたのだった。
「不思議」
「何が?」
「青空がわたしの下にある」
「青空?」
「ずっと思ってたの、ロイの瞳は青空みたいって。辛い時に見上げる青空、雨上がりに見える青空、雲の切れ間から覗く青空、色々あるあの青空。わたしが俯くことなく上を見上げられるような青空。なのに今は下だわ」
「…今は眼下に広がる青空で、良いと思う」
「残念」
「…」
「分かってる。困らせたいわけじゃないの。ただこの青空に包まれたいだけ」
レイチェルの言葉にロイが頷く。そして優しく抱きしめてくれた。
「レイチェル、僕も君の瞳の色をいつも例えていた。翡翠のようだと。中でもインペリアル翡翠のような、その新緑を思わせる色が僕に何かを教えてくれるのではないかと思っていた。新緑が芽吹くように、僕に新しい何かを教えてくれるって」
「新しい何か?わたしはロイにそれを伝えられたのかしら?」
「ああ、それまで僕の中に存在しなかった感情を教えてくれた」
「例えば?」
「…愛しい。きっとこれが愛なんだと思う」
この夢こそ覚めずにこのまま続けばいいとレイチェルは思った。でも、これはいつまでも人妻が見て良い夢ではない。それでも終わりを告げる王都への呼び出しの手紙が来るまでは、この夢を大切にしたいとレイチェルは思った。
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*ご訪問ありがとうございました*
長い間更新しませんで…申し訳ございませんでした。感想をいただいていたのに、漸く気付き心を入れ替えようと思ったところです。
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