年に一度の旦那様

五十嵐

文字の大きさ
上 下
75 / 90

74 左手の男

しおりを挟む
ラドルが、テーラーに擬態し力を持つ者を探す男に会う。簡単な話に思えるが、なかなかそうはいかない。前侯爵も隣国の貴族も大切な手駒を失いたくはないからだ。

特に一番最悪なケース、力を持つ者二人が結託し逃げることだけは避けなければならない。その為に、ラドル同様テーラーも大切な何かを貴族に押さえられているであろうことは想像に容易い。しかしラドルの力はあと少しで尽きようとしている。だからなのか、前回は付き添った前侯爵は書状を信頼のおける執事に持たせラドルの共に付けただけだった。失ったところで然程惜しくないと思っているのだろう。若しくは、本当にその時期が近づいているので、ラドルに賭けてみようと思ったのか。最も考えられないのは、前侯爵も年を重ね多少は力を持つ者への憐れみを感じたというところだろう。


テーラーに会うとラドルは自分の能力はそろそろ尽きることを伝えた。
「首に触れても?」
「ああ。触れれば何の能力を持つか以外にその力の強さが分かるのか?」
「違う。俺に分かるのは何の能力を持つのかだけ。ただ、気になっていたんだ。手への感覚の強弱の意味を。今まではおまえが言うように、力の強弱かと思っていたが、それが力のピークなのか終わりを意味するのかの可能性もあると。そして、今ならばそれが確かめられると思い」

テーラーもラドル同様自分の力がどういうものか正確には理解出来ていないということだ。

「俺はおまえに聞きたかった。力を持つ者が見つかる傾向があるのかどうか。例えば地域や特定の階級のように。それに、手で触れてどうしてその力を持つと分かるのか」

ラドルは視力で印を見る。では、テーラーはどうやって手で能力を知るのか。触覚に何か秘密があるのか知りたかった。ルーツは同じ国だというのに、互いを知らなさすぎるとラドルは思ったのだ。

この力に縛られてきた。時には繁殖目的の家畜のようにも扱われた。だからなのか、力のことを知ろうとしなかった。若しくは当人達よりも良く知る前侯爵が、敢えてそう誘導していた可能性も考えられる。でも、いつか美しい印を額に浮かべるであろうレイチェルの為に、ラドルは少しでも知らなければならない。執事が少し離れたところで監視をしていようと。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

前世と今世の幸せ

夕香里
恋愛
【商業化予定のため、時期未定ですが引き下げ予定があります。詳しくは近況ボードをご確認ください】 幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。 しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。 皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。 そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。 この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。 「今世は幸せになりたい」と ※小説家になろう様にも投稿しています

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】 エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

悪役令嬢になったようなので、婚約者の為に身を引きます!!!

夕香里
恋愛
王子に婚約破棄され牢屋行き。 挙句の果てには獄中死になることを思い出した悪役令嬢のアタナシアは、家族と王子のために自分の心に蓋をして身を引くことにした。 だが、アタナシアに甦った記憶と少しずつ違う部分が出始めて……? 酷い結末を迎えるくらいなら自分から身を引こうと決めたアタナシアと王子の話。 ※小説家になろうでも投稿しています

白い結婚がいたたまれないので離縁を申し出たのですが……。

蓮実 アラタ
恋愛
その日、ティアラは夫に告げた。 「旦那様、私と離縁してくださいませんか?」 王命により政略結婚をしたティアラとオルドフ。 形だけの夫婦となった二人は互いに交わることはなかった。 お飾りの妻でいることに疲れてしまったティアラは、この関係を終わらせることを決意し、夫に離縁を申し出た。 しかしオルドフは、それを絶対に了承しないと言い出して……。 純情拗らせ夫と比較的クール妻のすれ違い純愛物語……のはず。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

生まれ変わり令嬢は、初恋相手への心残りを晴らします(と意気込んだのはいいものの、何やら先行き不穏です!?)

夕香里
恋愛
無実の罪をあえて被り、処刑されたイザベル。目を開けると産まれたての赤子になっていた。 どうやら処刑された後、同じ国の伯爵家にテレーゼと名付けられて生まれたらしい。 (よく分からないけれど、こうなったら前世の心残りを解消しましょう!) そう思い、想い人──ユリウスの情報を集め始めると、何やら耳を疑うような噂ばかり入ってくる。 (冷酷無慈悲、血に飢えた皇帝、皇位簒だ──父帝殺害!? えっ、あの優しかったユースが……?) 記憶と真反対の噂に戸惑いながら、17歳になったテレーゼは彼に会うため皇宮の侍女に志願した。 だが、そこにいた彼は17年前と変わらない美貌を除いて過去の面影が一切無くなっていて──? 「はっ戯言を述べるのはいい加減にしろ。……臣下は狂帝だと噂するのに」 「そんなことありません。誰が何を言おうと、わたしはユリウス陛下がお優しい方だと知っています」 徐々に何者なのか疑われているのを知らぬまま、テレーゼとなったイザベルは、過去に囚われ続け、止まってしまった針を動かしていく。 これは悲恋に終わったはずの恋がもう一度、結ばれるまでの話。

身代わりの私は退場します

ピコっぴ
恋愛
本物のお嬢様が帰って来た   身代わりの、偽者の私は退場します ⋯⋯さようなら、婚約者殿

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

影の王宮

朱里 麗華(reika2854)
恋愛
王立学園の卒業式で公爵令嬢のシェリルは、王太子であり婚約者であるギデオンに婚約破棄を言い渡される。 ギデオンには学園で知り合った恋人の男爵令嬢ミーシャがいるのだ。 幼い頃からギデオンを想っていたシェリルだったが、ギデオンの覚悟を知って身を引こうと考える。 両親の愛情を受けられずに育ったギデオンは、人一倍愛情を求めているのだ。 だけどミーシャはシェリルが思っていたような人物ではないようで……。 タグにも入れましたが、主人公カップル(本当に主人公かも怪しい)は元サヤです。 すっごく暗い話になりそうなので、プロローグに救いを入れました。 一章からの話でなぜそうなったのか過程を書いていきます。 メインになるのは親世代かと。 ※子どもに関するセンシティブな内容が含まれます。 苦手な方はご自衛ください。 ※タイトルが途中で変わる可能性があります<(_ _)>

処理中です...