73 / 90
73 邸の立地
しおりを挟む
エカルテが向かったのは隣国。マクレナン侯爵領のこの北の外れは隣国との国境に近い。邸から一番近い街へ行けば、数日おきに国境を越える長距離乗合馬車もある。
マクレナン侯爵がレイチェルをこの北の外れに住まわすことに同意したのには様々な理由があるが、この国境が近いというのも理由の一つだった。
この国の貴族が隣国へ行く際には、マクレナン侯爵領から行くことを好む。侯爵領の街道は整備されていて、比較的治安が良いからだ。また、貴族が好む宿泊施設が所々にあり滞在先を選ぶのにも苦労しない。もっと言ってしまうと、湖畔の街、シャトーが営む風情ある宿泊施設、狩場と隣国へ足を伸ばすのは観光のついでと思わせやすい理由がいくつもある。勿論長期滞在ならば、そこに誰かが訪ねてくることも可能だ。
侯爵はどの貴族が隣国のどの貴族と結びつこうとしているのか、新たな情報をロイに集めさせていたのだ。
結婚報告パーティに辺境伯や騎士伯を招いたのもその為だった。彼らに付き添う騎士を含め一人でも多くロイに顔を覚えさせたかったのだ。見掛ければ直ぐに探れるように。
些細な情報も、いつ役に立つか分からない。その考えに基づき、侯爵はロイに情報を集めさせていた。
その逆も然り。レイチェルには些細な情報も入らないこの場所はちょうど良い軟禁場所だったのだろう。他の貴族令嬢達からの余計な情報は入らず、ロイが本来の働きをしていればレイチェルのマインドをしっかりコントロールできているはずだったのだから。
「いい?、おさらいをしよう」
「必要ないわ。わたしは、この地であなたによるコントロールでノア様への気持ちが日々膨らんでいる、でいいのよね。本当は違っても」
「そう。最後は余計だけどね。タウンハウスに向かう時が来たらそのスタンスで。特に侯爵の前では」
「アナベルとナタリアはちゃんとわたしに嫌味を言ってくれるかしら」
「大丈夫だと思うよ。彼女達こそ後がないんだから必死だよ。ノア様が勃ってくれなければ、彼女達は役目が果たせないんだから」
「ふふ、ロイは実は元気なのにね」
「レイチェル、ダメだってば」
「じゃあ、キスをして、唇に」
新しい計画を立ててから、ロイはレイチェルに共寝は止めたいと伝えた。万が一を起こす気は勿論ない。けれど、自信がないのも事実だった。
しかし、レイチェルの『わたしの幸せな時間を守って』という一言は重かった。ロイが言った『守りたい』を上手く使われてしまったのだ。
結局、ロイにとって甘美なのに地獄のような時間は続いている。それどころか、レイチェルの行動はエスカレートした。唇への口付け。素肌での触れ合い。どれをとっても、その先がチラつく行為ばかり。だからこそ、先を望むのであれば踏みとどまらなくてはいけないし、計画を有利に進めなくてはならないとロイは思った。
マクレナン侯爵がレイチェルをこの北の外れに住まわすことに同意したのには様々な理由があるが、この国境が近いというのも理由の一つだった。
この国の貴族が隣国へ行く際には、マクレナン侯爵領から行くことを好む。侯爵領の街道は整備されていて、比較的治安が良いからだ。また、貴族が好む宿泊施設が所々にあり滞在先を選ぶのにも苦労しない。もっと言ってしまうと、湖畔の街、シャトーが営む風情ある宿泊施設、狩場と隣国へ足を伸ばすのは観光のついでと思わせやすい理由がいくつもある。勿論長期滞在ならば、そこに誰かが訪ねてくることも可能だ。
侯爵はどの貴族が隣国のどの貴族と結びつこうとしているのか、新たな情報をロイに集めさせていたのだ。
結婚報告パーティに辺境伯や騎士伯を招いたのもその為だった。彼らに付き添う騎士を含め一人でも多くロイに顔を覚えさせたかったのだ。見掛ければ直ぐに探れるように。
些細な情報も、いつ役に立つか分からない。その考えに基づき、侯爵はロイに情報を集めさせていた。
その逆も然り。レイチェルには些細な情報も入らないこの場所はちょうど良い軟禁場所だったのだろう。他の貴族令嬢達からの余計な情報は入らず、ロイが本来の働きをしていればレイチェルのマインドをしっかりコントロールできているはずだったのだから。
「いい?、おさらいをしよう」
「必要ないわ。わたしは、この地であなたによるコントロールでノア様への気持ちが日々膨らんでいる、でいいのよね。本当は違っても」
「そう。最後は余計だけどね。タウンハウスに向かう時が来たらそのスタンスで。特に侯爵の前では」
「アナベルとナタリアはちゃんとわたしに嫌味を言ってくれるかしら」
「大丈夫だと思うよ。彼女達こそ後がないんだから必死だよ。ノア様が勃ってくれなければ、彼女達は役目が果たせないんだから」
「ふふ、ロイは実は元気なのにね」
「レイチェル、ダメだってば」
「じゃあ、キスをして、唇に」
新しい計画を立ててから、ロイはレイチェルに共寝は止めたいと伝えた。万が一を起こす気は勿論ない。けれど、自信がないのも事実だった。
しかし、レイチェルの『わたしの幸せな時間を守って』という一言は重かった。ロイが言った『守りたい』を上手く使われてしまったのだ。
結局、ロイにとって甘美なのに地獄のような時間は続いている。それどころか、レイチェルの行動はエスカレートした。唇への口付け。素肌での触れ合い。どれをとっても、その先がチラつく行為ばかり。だからこそ、先を望むのであれば踏みとどまらなくてはいけないし、計画を有利に進めなくてはならないとロイは思った。
30
*ご訪問ありがとうございました*
長い間更新しませんで…申し訳ございませんでした。感想をいただいていたのに、漸く気付き心を入れ替えようと思ったところです。
長い間更新しませんで…申し訳ございませんでした。感想をいただいていたのに、漸く気付き心を入れ替えようと思ったところです。
お気に入りに追加
198
あなたにおすすめの小説
前世と今世の幸せ
夕香里
恋愛
【商業化予定のため、時期未定ですが引き下げ予定があります。詳しくは近況ボードをご確認ください】
幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。
しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。
皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。
そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。
この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。
「今世は幸せになりたい」と
※小説家になろう様にも投稿しています
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
白い結婚がいたたまれないので離縁を申し出たのですが……。
蓮実 アラタ
恋愛
その日、ティアラは夫に告げた。
「旦那様、私と離縁してくださいませんか?」
王命により政略結婚をしたティアラとオルドフ。
形だけの夫婦となった二人は互いに交わることはなかった。
お飾りの妻でいることに疲れてしまったティアラは、この関係を終わらせることを決意し、夫に離縁を申し出た。
しかしオルドフは、それを絶対に了承しないと言い出して……。
純情拗らせ夫と比較的クール妻のすれ違い純愛物語……のはず。
※小説家になろう様にも掲載しています。
貴方を捨てるのにこれ以上の理由が必要ですか?
蓮実 アラタ
恋愛
「リズが俺の子を身ごもった」
ある日、夫であるレンヴォルトにそう告げられたリディス。
リズは彼女の一番の親友で、その親友と夫が関係を持っていたことも十分ショックだったが、レンヴォルトはさらに衝撃的な言葉を放つ。
「できれば子どもを産ませて、引き取りたい」
結婚して五年、二人の間に子どもは生まれておらず、伯爵家当主であるレンヴォルトにはいずれ後継者が必要だった。
愛していた相手から裏切り同然の仕打ちを受けたリディスはこの瞬間からレンヴォルトとの離縁を決意。
これからは自分の幸せのために生きると決意した。
そんなリディスの元に隣国からの使者が訪れる。
「迎えに来たよ、リディス」
交わされた幼い日の約束を果たしに来たという幼馴染のユルドは隣国で騎士になっていた。
裏切られ傷ついたリディスが幼馴染の騎士に溺愛されていくまでのお話。
※完結まで書いた短編集消化のための投稿。
小説家になろう様にも掲載しています。アルファポリス先行。
【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
【完】婚約者に、気になる子ができたと言い渡されましたがお好きにどうぞ
さこの
恋愛
私の婚約者ユリシーズ様は、お互いの事を知らないと愛は芽生えないと言った。
そもそもあなたは私のことを何にも知らないでしょうに……。
二十話ほどのお話です。
ゆる設定の完結保証(執筆済)です( .ˬ.)"
ホットランキング入りありがとうございます
2021/08/08
生まれ変わり令嬢は、初恋相手への心残りを晴らします(と意気込んだのはいいものの、何やら先行き不穏です!?)
夕香里
恋愛
無実の罪をあえて被り、処刑されたイザベル。目を開けると産まれたての赤子になっていた。
どうやら処刑された後、同じ国の伯爵家にテレーゼと名付けられて生まれたらしい。
(よく分からないけれど、こうなったら前世の心残りを解消しましょう!)
そう思い、想い人──ユリウスの情報を集め始めると、何やら耳を疑うような噂ばかり入ってくる。
(冷酷無慈悲、血に飢えた皇帝、皇位簒だ──父帝殺害!? えっ、あの優しかったユースが……?)
記憶と真反対の噂に戸惑いながら、17歳になったテレーゼは彼に会うため皇宮の侍女に志願した。
だが、そこにいた彼は17年前と変わらない美貌を除いて過去の面影が一切無くなっていて──?
「はっ戯言を述べるのはいい加減にしろ。……臣下は狂帝だと噂するのに」
「そんなことありません。誰が何を言おうと、わたしはユリウス陛下がお優しい方だと知っています」
徐々に何者なのか疑われているのを知らぬまま、テレーゼとなったイザベルは、過去に囚われ続け、止まってしまった針を動かしていく。
これは悲恋に終わったはずの恋がもう一度、結ばれるまでの話。
【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる