年に一度の旦那様

五十嵐

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73 邸の立地

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エカルテが向かったのは隣国。マクレナン侯爵領のこの北の外れは隣国との国境に近い。邸から一番近い街へ行けば、数日おきに国境を越える長距離乗合馬車もある。

マクレナン侯爵がレイチェルをこの北の外れに住まわすことに同意したのには様々な理由があるが、この国境が近いというのも理由の一つだった。

この国の貴族が隣国へ行く際には、マクレナン侯爵領から行くことを好む。侯爵領の街道は整備されていて、比較的治安が良いからだ。また、貴族が好む宿泊施設が所々にあり滞在先を選ぶのにも苦労しない。もっと言ってしまうと、湖畔の街、シャトーが営む風情ある宿泊施設、狩場と隣国へ足を伸ばすのは観光のついでと思わせやすい理由がいくつもある。勿論長期滞在ならば、そこに誰かが訪ねてくることも可能だ。

侯爵はどの貴族が隣国のどの貴族と結びつこうとしているのか、新たな情報をロイに集めさせていたのだ。
結婚報告パーティに辺境伯や騎士伯を招いたのもその為だった。彼らに付き添う騎士を含め一人でも多くロイに顔を覚えさせたかったのだ。見掛ければ直ぐに探れるように。

些細な情報も、いつ役に立つか分からない。その考えに基づき、侯爵はロイに情報を集めさせていた。
その逆も然り。レイチェルには些細な情報も入らないこの場所はちょうど良い軟禁場所だったのだろう。他の貴族令嬢達からの余計な情報は入らず、ロイが本来の働きをしていればレイチェルのマインドをしっかりコントロールできているはずだったのだから。


「いい?、おさらいをしよう」
「必要ないわ。わたしは、この地であなたによるコントロールでノア様への気持ちが日々膨らんでいる、でいいのよね。本当は違っても」
「そう。最後は余計だけどね。タウンハウスに向かう時が来たらそのスタンスで。特に侯爵の前では」
「アナベルとナタリアはちゃんとわたしに嫌味を言ってくれるかしら」
「大丈夫だと思うよ。彼女達こそ後がないんだから必死だよ。ノア様が勃ってくれなければ、彼女達は役目が果たせないんだから」
「ふふ、ロイは実は元気なのにね」
「レイチェル、ダメだってば」
「じゃあ、キスをして、唇に」

新しい計画を立ててから、ロイはレイチェルに共寝は止めたいと伝えた。万が一を起こす気は勿論ない。けれど、自信がないのも事実だった。

しかし、レイチェルの『わたしの幸せな時間を守って』という一言は重かった。ロイが言った『守りたい』を上手く使われてしまったのだ。

結局、ロイにとって甘美なのに地獄のような時間は続いている。それどころか、レイチェルの行動はエスカレートした。唇への口付け。素肌での触れ合い。どれをとっても、その先がチラつく行為ばかり。だからこそ、先を望むのであれば踏みとどまらなくてはいけないし、計画を有利に進めなくてはならないとロイは思った。
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*ご訪問ありがとうございました*

長い間更新しませんで…申し訳ございませんでした。感想をいただいていたのに、漸く気付き心を入れ替えようと思ったところです。
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