年に一度の旦那様

五十嵐

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70 男児を認めない理由

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マクレナン侯爵はグルーバー子爵と夫人の間に男児が生まれていたらどうしたのだろうか。

この国の法律では周辺諸国同様家督相続は男と決まっている。だからこそ、血縁者からの男児の養子縁組やその家の娘が産んだ男児への飛び相続という例外は設けられていた。

しかし、グルーバー子爵家のように本家である侯爵家から兄弟へ渡された領地なし爵位は継ぐ者がいなければ戻せばいいだけ。わざわざ養子縁組をする必要はないのだ。

クレアが産んだ二人の娘は早々に婚約者を決められ嫁に出された。侯爵から横槍が入る前に、クレア主導で決めたことなのだろう。侯爵が選んだなら、子が多く生まれない家門や女遊び好きで家にはなかなか戻らない次男以降を充てがう可能性があるとクレアは考えたはずだ。

「自分がどういうことをしていたのか知ってもらうことにしたんだ」
「それはどういうこと、ロイ?」

ロイはアーミテージ子爵が裏で商っていた堕胎薬を細かく砕き粉状にすると、二人の娘が嫁いだそれぞれの家の塩や砂糖や小麦粉の中に混ぜたのだった。大抵の貴族家はそういうものを購入する店は決まっている。配達される前の袋にちょっとした細工をすることなど、ロイには容易かった。

「でも、確実な方法ではないわよね」
「僕に必要なのはそれをやったという事実だけ。侯爵への報告が必要だったからね。熱が加えられて効果がなくなったかもしれないし、必要量に満たなかったかもしれない。でも、やった事実があれば良かったんだ。結果はリンデルがいるからね」

クレアの二人の娘は流産を経験し、そのうち妊娠もしなくなった。流産という事実は非常に残酷で、夫には子種があることを証明している。後継がなせなくなった二人の娘に残された道は愛人を許し、子を作ってもらうことしかなかった。

「子爵夫人は実家のアーミテージ子爵家が恨みを買い、その報復に二人の娘が犠牲になったのかもしれないと思ったようだよ。だから危険な堕胎薬を売らないよう実家に訴えた。以前に比べたら、あの薬は市場に出回らなくなったから、まあ良かったのかな。そうそう、グルーバー子爵という爵位はそのうちマクレナン侯爵家へ返されるだろうね」

淡々と話すロイは、話の続きをするように『こうやって僕は手を汚してきた。それでもレイチェルの傍にいてもいい?』と質問したのだった。
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