年に一度の旦那様

五十嵐

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62 二度目の春

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「また春が来たのかしら?」
「さあ、どうでしょう。タウンハウスに急いで戻ってくるようにという催促でしょうか」
「ふふ、違うわ。その反対。準備があるから、それまではここに居るようにって。迎え入れることが出来るようになったら教えてくれるそうよ。ねえ、あなた、何をしたの?ラドルは何をしに行ったの?」
「このことに関して、わたしは何もしていません。そして、ラドルもまた何もしていないと思います」
ロイは表情を変えることなくレイチェルの質問に答えた。これ以上は何も言うことはないという意志と共に。

「じゃあ、リンデルね。いいわ、本人に聞くから」
「それは、ちょっと」
「あら、あなたでも言い淀むことがあるのね」
「少々、無垢なレイチェル様には聞かせづらい話なもので」
「無垢じゃないわ、特にあなたも知っているようにわたしの手はね。まあ、男性を受け入れたことはないけれど。あなたと違って」
「ですから、それは噂話です」
「ね、色々耳にしていることは分かったでしょ。あなたが言うように無垢ではないと思うの。だから、本当のことを話して。点と点ではなく、線で結んで話してちょうだい」

「分かりました。本日、午後、この邸の使用人全員とレイチェル様でお茶をいただきましょう。ただ、カルセナとフリカに関してはわたしも知らないことが多々ございます。だから、彼女達がレイチェル様のご希望通りの話をするかは分かりません。ですが、ここでの滞在がしばらく伸びることを含め理由を伝えておいたほうがいいのは確かです。計画の変更もありますから」

レイチェルの願いを叶えることが、ロイの役目。
ロイは心の中でそう呟き、腹を括った。全てを話すというリスクを負ってでも、カルセナとフリカの協力を仰ごうと。
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