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56 それぞれの印
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ベテルリナの力はなんだったのだろうか。
考えたところで、もう知りようのないことだ。ラドルはようやく見ることが出来たベテルリナの額、しかも髪の生え際にあった力を所有する者であろう印を思い返していた。女性の額にあるからか、タスルともう一人の力の所有者プルケテとは全く違う忘れられない美しい印を。
そして自分の力を今一度考えた。
タスルとプルケテの印は似ているが、多少の違いがある。母数が少なすぎる上に、肝心な祖父はもういない。だから、推測の域でしかないが、ラドルは力の所有者に浮かぶそれぞれの印を見ることが出来るのではないだろうか。そう考えると辻褄が合うのだ。
コリンス伯爵の額にも確かに印があった。色の薄い、タスルともプルケテとも違う印が。当時、印は一人一人違うものを持つのかと思った。しかし、その予想はリンデルによって打ち消された。リンデルの額にもコリンス伯爵と同じ印があったのだ。血族でもない二人が同じ印を持つことが不思議で、何度も確認したから間違いない。ただ個体が違うからか、リンデルの額にあったのは色の濃いものだった。
侯爵はコリンス伯爵には弱いながらも呪術の力があると言い、ベテルリナを嫁がせた。コリンス伯爵家にどこでどう混じったのか、一族の血が入ったことは額が物語っている。
弱い力だから額の印も薄いとすると、リンデルには強い呪術の力があることになる。
祖父がラドルの額の印に気付いた時に言ったのは、『自分と同じ力がある』という言葉。同じ血筋に同じ力が生まれやすいと聞いていたから今まで疑問に思わなかったが、祖父は同じ印を見てああ言った可能性がある。
その後、侯爵に連れられ祖父同様隣国の貴族に匿われている力の持ち主に言われた言葉は『仲間を見分けられる』だ。てっきり、一族と他者を見分けられる力だと思っていたが、力を持つ者の仲間同士を見分けられるともとれる。
あの男は左手を力を持つ者の右首筋に当てることで、どのような力なのか知ることが出来ると言っていた。だから、伯爵夫人であるベテルリナが何の力を持つのか易々調べることが出来なかったのだ。
タスルの持つ真実を見抜く力にしても、あの男の言葉。厳密に言うならば、タスルは質問に対する答えを聞いてそれが本当か嘘か判断する力だ。
もう国が無くなってしまった以上、自分達の力を正しく理解するには限界がある。多くの人も情報も知識も奪われた。それでも、ラドルは出来る全てを今やらなくてはいけないと思った。
「お願いがあります。わたしに残された時間で仲間を少しでも見つけられるよう以前訪れたあの男に再び会う機会を作ってもらえないでしょうか。一族の多くがどこへ向かったか、何か情報を持っていないか知りたいのです」
この願いを前侯爵へ伝えるには、ラドルの力があと僅かな今は最適に思えた。
その証拠に、前侯爵は少し考えるとラドルが隣国のあの貴族を訪ねる為の紹介状を書いてくれたのだった。
レイチェルの額に印はあるかと数年前に前侯爵に尋ねられた時、ラドルは『ありません』と答えた。それはタスルにも証明されている。仮に今同じ質問を受けても答えは同じ。そもそもレイチェルの額に印は見えようがない。ロイがあんなに守っているのだ。
しかし、その時が来ればレイチェルの額には美しい印が浮かぶ気がする。一族の血が知らせるのか、ラドルにはそう思えてならない。だからこそ、日々消えていく一族の情報を今一度調べようとラドルは決心した。
そして、唯一愛する妻であるフリカへ宛て『長引きそうだ』とだけ書いた紙を巻いた鳩を放った。
考えたところで、もう知りようのないことだ。ラドルはようやく見ることが出来たベテルリナの額、しかも髪の生え際にあった力を所有する者であろう印を思い返していた。女性の額にあるからか、タスルともう一人の力の所有者プルケテとは全く違う忘れられない美しい印を。
そして自分の力を今一度考えた。
タスルとプルケテの印は似ているが、多少の違いがある。母数が少なすぎる上に、肝心な祖父はもういない。だから、推測の域でしかないが、ラドルは力の所有者に浮かぶそれぞれの印を見ることが出来るのではないだろうか。そう考えると辻褄が合うのだ。
コリンス伯爵の額にも確かに印があった。色の薄い、タスルともプルケテとも違う印が。当時、印は一人一人違うものを持つのかと思った。しかし、その予想はリンデルによって打ち消された。リンデルの額にもコリンス伯爵と同じ印があったのだ。血族でもない二人が同じ印を持つことが不思議で、何度も確認したから間違いない。ただ個体が違うからか、リンデルの額にあったのは色の濃いものだった。
侯爵はコリンス伯爵には弱いながらも呪術の力があると言い、ベテルリナを嫁がせた。コリンス伯爵家にどこでどう混じったのか、一族の血が入ったことは額が物語っている。
弱い力だから額の印も薄いとすると、リンデルには強い呪術の力があることになる。
祖父がラドルの額の印に気付いた時に言ったのは、『自分と同じ力がある』という言葉。同じ血筋に同じ力が生まれやすいと聞いていたから今まで疑問に思わなかったが、祖父は同じ印を見てああ言った可能性がある。
その後、侯爵に連れられ祖父同様隣国の貴族に匿われている力の持ち主に言われた言葉は『仲間を見分けられる』だ。てっきり、一族と他者を見分けられる力だと思っていたが、力を持つ者の仲間同士を見分けられるともとれる。
あの男は左手を力を持つ者の右首筋に当てることで、どのような力なのか知ることが出来ると言っていた。だから、伯爵夫人であるベテルリナが何の力を持つのか易々調べることが出来なかったのだ。
タスルの持つ真実を見抜く力にしても、あの男の言葉。厳密に言うならば、タスルは質問に対する答えを聞いてそれが本当か嘘か判断する力だ。
もう国が無くなってしまった以上、自分達の力を正しく理解するには限界がある。多くの人も情報も知識も奪われた。それでも、ラドルは出来る全てを今やらなくてはいけないと思った。
「お願いがあります。わたしに残された時間で仲間を少しでも見つけられるよう以前訪れたあの男に再び会う機会を作ってもらえないでしょうか。一族の多くがどこへ向かったか、何か情報を持っていないか知りたいのです」
この願いを前侯爵へ伝えるには、ラドルの力があと僅かな今は最適に思えた。
その証拠に、前侯爵は少し考えるとラドルが隣国のあの貴族を訪ねる為の紹介状を書いてくれたのだった。
レイチェルの額に印はあるかと数年前に前侯爵に尋ねられた時、ラドルは『ありません』と答えた。それはタスルにも証明されている。仮に今同じ質問を受けても答えは同じ。そもそもレイチェルの額に印は見えようがない。ロイがあんなに守っているのだ。
しかし、その時が来ればレイチェルの額には美しい印が浮かぶ気がする。一族の血が知らせるのか、ラドルにはそう思えてならない。だからこそ、日々消えていく一族の情報を今一度調べようとラドルは決心した。
そして、唯一愛する妻であるフリカへ宛て『長引きそうだ』とだけ書いた紙を巻いた鳩を放った。
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