年に一度の旦那様

五十嵐

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50 いつもと同じ朝、辛い朝

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*R15な雰囲気で読んで下さい。敢えて色々は書きませんが、ご想像の通りだと思います。*


ノアが去ってから十日。ロイとレイチェルは年に一度やって来る旦那様がいない、いつもの朝を迎えていた。

先に起きたロイが、レイチェルの寝顔を目覚めるまで見つめるという朝。そして目覚めたレイチェルの額に朝の口付けをロイが捧げる。
あの嵐の夜からずっと続く添い寝。寝台の上ではロイとレイチェルは友人に戻るという約束。
「おはよう、ロイ。」
「おはよう。」

レイチェルがどんなに強請ってもロイは額以外にキスをしてくれない。大抵のレイチェルの願いは叶えてくれるというのに。
「わたし結婚しているし、二十二歳にもなったというのに、未だ唇と唇を合わせたことがないのよ。してみたっていいじゃない。」

何を言っても無駄なのはレイチェルも分かっている。ロイは案外そういうところに厳しいのだ。
だから最近レイチェルは楽しい悪戯を覚えた。もしかしたらロイがレイチェルを女に変えてくれるだろう悪戯を。

ロイの無防備な首筋から肩口にかけてレイチェルは唇を這わす。時には舌で舐めてみる。
「レイチェル、ダメだってば。」
「なんで?恥ずかしがらないで。わたしがちゃんと習ったってロイだって知ってるでしょ。閨の先生は言ってたじゃない、男性には重要なことだって。あの二人だって当て擦りのように散々閨のことを話してくれたから、わたし案外耳年増なのよ。」
「だから、僕と君は友人で、」
「友人は普通寝所を共にしないわ。」
「普通じゃなくたっていいよ。僕たちは特別だと思えば。」
「じゃあ口付けをする特別な友人になりたい。お願いロイ。」
「ダメだよ、レイチェル、今はまだ。」
「いつならいいの?わたしが今の身分を無事に捨てられれば?でも、あなたの計画ではそこをいつも教えてくれないわ。」
「ごめん、レイチェル。」
「謝らないで。」
「ごめん。っうう、レイチェル、ダメだ。」
「いいの。近くの一番大きな街にだって大人の男性が遊ぶ場所がないんだから、わたしがロイの友人としてこうして遊ぶわ。」

ロイはもう数ヶ月、この苦行のような朝を耐えていた。
口付けが出来ないのは怖かったからだ。もうそれだけで終われない気がして。しかし、レイチェルの純潔は守らなくてはいけない。今後、レイチェルが再び陽の当たる場所へ出る可能性がある限り。選りに選ってロイが足を引っ張るわけにはいかなかった。
レイチェルは貴族、ロイは平民、それは変えようのない事実。そして、ロイがレイチェルの幸せを願っているのも事実だった。
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