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49 カルセナとフリカ(2)
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夕食のテーブルはいつも七人で囲む。この北の外れにやって来て、少ししてからの約束であり習慣だ。
そう、七人。実はカルセナとフリカそれぞれの夫もここにやって来た。夫二人もまた元々は侯爵家の使用人だった。
四人が祖国を離れて、この国にいたのには当然理由がある。その理由の一つにレイチェルの成長を見守ることがあった。まだレイチェルが伯爵家にいた頃、図書館へ何事もなく無事に通えていたのは彼らのお陰だった。
「あれだけ美しいお嬢様が人攫いに遭わずに出掛けられていたことを疑問に思いなさい。」
後にフリカに言われたことに、ロイは納得するしかなかった。そして幼い頃から諜報の術を叩き込まれたロイを上回る能力を持つフリカに驚いたのだった。
「年齢を考えなさい。経験値が違うわ。それにあなたの容姿では周囲に溶け込み難いけど、わたし達は簡単に同化して記憶に残らないのよ。あなたの雇い主はどうしてもっと、こう、どこにでもいるタイプを選ばなかったのかしら。」
ロイの容姿を褒めれば、自分を貶すことになるフリカの言葉は彼女にしてはあやふやだった。言っていることは正しいのだろう。しかし、ロイにもフリカから諜報に向かないタイプだと言われてもそれなりのプライドがある。だから、マクレナン侯爵を擁護するつもりはないが『敢えてそうして同業者の目を誤魔化したのでは?』と言葉にしていた。
そんな気安い会話をするようになっても、ロイとフリカ達四人が決して超えない一線があった。ロイはフリカ達がこの国に来た当初の目的、その後カルセナ達までもが来るようになった理由だけは決して聞かなかった。同じ侯爵家の諜報を担う人間としての礼儀として。そこに触れないことの礼をレイチェルにさえ返してくれれば、ロイはそれで良かった。
ただ、何かあるのは分かっている。フリカとカルセナを名目上メイドと雇う為に、本当に問題がないかロイは十分過ぎるほど調べた。変に足が付き、どこでどう侯爵の耳に入るかは分からないのだから。
もし、どちらかがレイチェルの母、ベテルリナがこの国に嫁ぐ時に連れてきた侍女なりメイドだったらリスクが高まる。しかし、フリカと夫はベテルリナが結婚したくらいに入国したようだが、居住希望の平民としてやって来ている。カルセナに至っては、ベテルリナが亡くなった後。どう考えても、何かの為にやって来たことは明白だ。
マクレナン侯爵はベテルリナは他国の侯爵令嬢で、その血筋には王族の血まで入っていると言っていた。しかもその王家の血は数カ国になる。歴史ある有力高位貴族ではそういうことはままあることだ。そして、これも良くあること。高位貴族は種を落としたり、落とされた種を後の政治活動の為に敢えて拾う。
ベテルリナは後者。書類上は実子届けだが、髪と目の色に問題がなかった為に侯爵が手に入れた子供。伝手を使ってこの国に嫁がせたのは、ベテルリナを出生地、もしくは出自を辿れなくする為。そうまでしたのに、若くして亡くなったベテルリナ。
何も聞かなくても十分だった。ロイがしっかりと表と裏を調べたらここまで辿り着くのだから。まあ、マクレナン侯爵家の人間でここまで辿り着ける人間はいないだろう。今更調べようとしても、既にロイが全てを綺麗にしてしまった後なのだから。
それに、キーパーソンのリンデルは既にレイチェルへ忠誠を誓っている。
そう、七人。実はカルセナとフリカそれぞれの夫もここにやって来た。夫二人もまた元々は侯爵家の使用人だった。
四人が祖国を離れて、この国にいたのには当然理由がある。その理由の一つにレイチェルの成長を見守ることがあった。まだレイチェルが伯爵家にいた頃、図書館へ何事もなく無事に通えていたのは彼らのお陰だった。
「あれだけ美しいお嬢様が人攫いに遭わずに出掛けられていたことを疑問に思いなさい。」
後にフリカに言われたことに、ロイは納得するしかなかった。そして幼い頃から諜報の術を叩き込まれたロイを上回る能力を持つフリカに驚いたのだった。
「年齢を考えなさい。経験値が違うわ。それにあなたの容姿では周囲に溶け込み難いけど、わたし達は簡単に同化して記憶に残らないのよ。あなたの雇い主はどうしてもっと、こう、どこにでもいるタイプを選ばなかったのかしら。」
ロイの容姿を褒めれば、自分を貶すことになるフリカの言葉は彼女にしてはあやふやだった。言っていることは正しいのだろう。しかし、ロイにもフリカから諜報に向かないタイプだと言われてもそれなりのプライドがある。だから、マクレナン侯爵を擁護するつもりはないが『敢えてそうして同業者の目を誤魔化したのでは?』と言葉にしていた。
そんな気安い会話をするようになっても、ロイとフリカ達四人が決して超えない一線があった。ロイはフリカ達がこの国に来た当初の目的、その後カルセナ達までもが来るようになった理由だけは決して聞かなかった。同じ侯爵家の諜報を担う人間としての礼儀として。そこに触れないことの礼をレイチェルにさえ返してくれれば、ロイはそれで良かった。
ただ、何かあるのは分かっている。フリカとカルセナを名目上メイドと雇う為に、本当に問題がないかロイは十分過ぎるほど調べた。変に足が付き、どこでどう侯爵の耳に入るかは分からないのだから。
もし、どちらかがレイチェルの母、ベテルリナがこの国に嫁ぐ時に連れてきた侍女なりメイドだったらリスクが高まる。しかし、フリカと夫はベテルリナが結婚したくらいに入国したようだが、居住希望の平民としてやって来ている。カルセナに至っては、ベテルリナが亡くなった後。どう考えても、何かの為にやって来たことは明白だ。
マクレナン侯爵はベテルリナは他国の侯爵令嬢で、その血筋には王族の血まで入っていると言っていた。しかもその王家の血は数カ国になる。歴史ある有力高位貴族ではそういうことはままあることだ。そして、これも良くあること。高位貴族は種を落としたり、落とされた種を後の政治活動の為に敢えて拾う。
ベテルリナは後者。書類上は実子届けだが、髪と目の色に問題がなかった為に侯爵が手に入れた子供。伝手を使ってこの国に嫁がせたのは、ベテルリナを出生地、もしくは出自を辿れなくする為。そうまでしたのに、若くして亡くなったベテルリナ。
何も聞かなくても十分だった。ロイがしっかりと表と裏を調べたらここまで辿り着くのだから。まあ、マクレナン侯爵家の人間でここまで辿り着ける人間はいないだろう。今更調べようとしても、既にロイが全てを綺麗にしてしまった後なのだから。
それに、キーパーソンのリンデルは既にレイチェルへ忠誠を誓っている。
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