年に一度の旦那様

五十嵐

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46 クリスタル

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マクレナン侯爵領にあるカントリーハウスは王都のタウンハウスよりも更に大きな建物で、領地管理を任された者達や使用人の他にノアの母であるクリスタルが暮らしていた。
ロイにとっては今の状況を招いた元凶の一人であるクリスタルが。

クリスタルはレイチェルとはまた違った美しさを持つ侯爵が愛してやまない女性。しかし、ノアを産んでから元々弱かった体が更に弱まり、もうずっとカントリーハウスで暮らしている。だから、侯爵は持て余した熱を発散する為につまみ食いをするのだ。アリエルはつまみ食いどころではなく、貪られたが。

もしクリスタルがタウンハウスの管理をしていてくれたら、侯爵との閨を持ち続けてくれていたなら、アリエルには別の道もあったのではないかとロイは思わずにはいられない。
そしてノアが年上の女性にばかり関心を持つのは、母からの愛情に飢えているから。侯爵もそれが分かるから、ノアに何も言わないのだろう。

「母上、ご無沙汰しております。こちらがコリンス伯爵家から妻に迎えたレイチェルです」
「レイチェルです。これから宜しくお願いいたします」
「ごめんなさいね、このような姿で。こちらに滞在中、起き上がれることがあれば庭でお茶でもしましょうね」
名前の通り透き通るような声に病に伏せがちだというのに輝くような美しさ。侯爵が策と金で子爵家から娶ったクリスタルは寝台の上で結婚したばかりの息子夫婦に挨拶をした。

後ろで控えていたロイもクリスタルの姿を見るのは数年振りだが、ノアも同じ。親子だというのに、たまにしか会えないノアにとってもこの機会は重要なものなのだろう。クリスタルに母への思慕を浮かべている。クリスタルとノア、その顔は二人が見紛うことなく親子であることを雄弁に物語っていた。
これも侯爵がノアを甘やかす理由の一つだ。愛するクリスタルに良く似たノアだからこそ。

侯爵にそれぞれ愛されている二人がどうして頻繁に会えないのか。
それは侯爵がクリスタルの体調を気遣い過ぎているからだ。年端もいかない頃のノアは母に甘え、体調のことなど知らずに走ったり抱きついたりした。子供としての当然の行い。しかし、それを見ていた侯爵は早々にノアをクリスタルから離した。クリスタルの負担を減らす為に。

侯爵は日に日に、クリスタルにとって負担になるであろうことを排除しこのカントリーハウスという箱庭での限られた生活だけを与えたのだった。
己の性欲、支配欲は他者で晴らすという屈折した感情を抱えながら。

ロイにしてみれば、ノアのあの愛人への傾倒は侯爵が招いたことに他ならない。そして、ロイがこうなってしまったのも。
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