年に一度の旦那様

五十嵐

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44 静養に向けて

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宣言通り、ノアはレイチェルを初夜に訪ねることはなかった。初夜に行うべき行為は明け方まで楽しんだが。

「困ったものだ、ノアにも。宣言をしたとは言え、律儀に守らなくても。」
「いえ、ノア様は奥様を守りたかったのでしょう。侯爵様の決定通り領地から奥様が戻らなければ、そのうちお二人は元に戻ります。今まではお二人で奥様を排除するという協力体制でしたが。」
「そうだな。結婚前におまえが言っていたように、二人は醜い争いをまた始めるだろう。醜悪な姿にノアの百年の恋も一時に冷めるといいのだが。」
「邪魔者を蹴落とす興奮を知ったお二人にとって、次なる興奮はどういうものでしょうか。」
「厄介なことをこの邸内で起こさないよう見張らせないといけないな。外でする分には構わないが。ところで、使用人はあの三人だけで良いのか。若い女が欲しければ、この邸の中の者を与えるが。」
「それは丁重にお断り致します。お願いしたように、馬も扱えるあの馴染みの者を連れていけるだけで十分です。若い女性は面倒ですので。」
「おまえはああいう荒々しいタイプが好みだったんだな。」

マクレナン侯爵領へレイチェルのお披露目を兼ねた結婚報告パーティへ向かう数日前、レイチェルの静養先での使用人が決まった。
一人は侯爵がロイの相手だと思い込んでいる男、リンデル。歳の頃は二十代後半に見えるが、実際には三十代だとロイからは報告を受けている。リンデルもまた馬丁として、いくつかの貴族家で働いていたことから粗野な部分は見受けられるが、それなりの振る舞いを心得ているようだ。

女手としてロイが連れてきたのは四十代の女性二人だった。こちらも元は貴族家で働いたことがあったようで、言葉遣いなどに一切問題はない。問題があるとすれば、レイチェルが向かう最終目的までの体力ではないかと侯爵に思わせた。

「本当に若い女はいらないのか。」
「面倒が増えるだけです。北の外れの邸では、若い女性では何か楽しいことがなければ務まらないでしょう。わたしはそのお楽しみにはなりたくありません。」
「レイチェルはそこで暮らせるだろうか。」
「だからこそ、母親を思わせるような女性使用人二人を見繕いました。そして、しっかり情報操作をいたします。侯爵様が手配してくださる定期物資の中に手頃な宝石をお願いしたのはその為です。全て、ノア様からのお心遣いとして渡し、奥様が常にノア様に感謝し会えるのを楽しみに待つよう管理に努めます。」
「他のことにもしっかり励めよ。」
「はい。」

侯爵は使い勝手が良いロイをレイチェルに付けることを最初は渋った。しかし、先を見越して動き続けていたロイはここでも上手く勝ちを手にしたのだった。
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