年に一度の旦那様

五十嵐

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40 泣きっ面にハチ

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夫人は大きく儲ける為に、投資先が上昇を始めるとすぐに手持ちの資金のみならず伯爵家の金にも手をつけていた。それを伯爵に気づかれないよう補填する為に、宝石を売り出したのだ。

「あの人、偽造証書も見分けられないなんて本当に馬鹿だよな。いくらオレが誠実な業者を紹介するって言ったからって。」
「おまえを信じきっているんだろ。あのリストの先はほとんどが焦げついているのに気付かないくらい。自分で調べないから馬鹿を見る。」

男と誠実な仲介業者は二人で顔を見合わせほくそ笑んだ。

「自分には才能がないって気付かないのが愚かだよな。買い足しているんだから。」
「それもオレのお陰だ。マイナスになった時もあったけれど、投資で取り返したって話は何度もして刷り込んだからな。」
「おまえが宝石の買取業者を紹介した時に気付けよ、って感じだよな。」
「今はそれどころじゃないんだろ。おまえが二束三文で手に入れた疾うに回収不能の本物の紙切れをそろそろプレゼントしてやれよ。その場でひっくり返るかもな。」
「あの人が買ったやつと同じのを探した手間代なんてどうってことない程儲けさせてもらったから、リボンでも付けてプレゼントするか。」
「それはいい。しかしあのロイってやつ凄いよな。」
「ああ。本当に。」
「だって見抜いていたってことだぜ。あの女がオレと寝たがるって。誘われても絶対に寝るなって最初から言ってたんだから。」
「おまえだって好みでもない女に腰を振らずに楽に儲けさせてもらったんだ、言われた通りにして良かったじゃないか。」
「違いねえ。」

本当に欲しいものが近くにあるというのに、手に入れられない気持ちをロイは誰よりも良く知っている。だから、男には夫人とは関係を持つなと事前に伝えていたのだ。
距離は縮まるのに、決して手が届くことがあってはいけないと。


伯爵夫人のことは適当に話し、既に売る宝石も大して残っていないであろうことをロイは侯爵へ告げた。
残る宝石は、伯爵家に代々伝わるような売りづらいものくらい。勿論、ノアが贈った宝石は真っ先に売られただろうと付け足すことも忘れなかった。

実際には、あのイミテーションは売られていない。否、買い取ってもらえなかったというのが正しい。
伯爵夫人は宝石店で恥をかいただけだった。店で被害者を装い、自分はイミテーションを掴まされたと言いたくとも、出どころが侯爵家では何も言えない。仮にそんなことを口走れば、伯爵家の立場が危うくなる。そもそも侯爵家からレイチェルへ贈られたものを夫人が換金しようとしていたこと自体がおかしいのだ。

夫人はただただ羞恥で顔を赤くしながら宝石店を出るしかなかった。イミテーションと本物の区別もつかない伯爵夫人として。

こうして、ロイが作らせたイミテーションは闇の中へ消えていった。
夫人に早急にどうにかして金を作らなければならないという焦燥感を残して。
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