38 / 85
38 コリンス夫人への罠
しおりを挟む
「失礼致します。」
「して、報告とはなんだ。」
「はい、レイチェル様のご様子です。思い詰めることが増えたように思います。また、体調が悪そうにも見えます。」
「それは、スカリーからも既に上がっている。おまえは優秀な割には女の様子に疎いな。」
「申し訳ございません。」
侯爵の表情は、ロイが女に疎いのは仕方がないと物語っていた。既に九分九厘、ロイを男色と見做していることだろう。
「実は気になる情報も仕入れて参りました。ノア様とお二人の噂が結婚前のお遊びではないと思われている節がございます。」
「だろうな。二人を宥めるつもりだろうが、ノアは随分と装飾品を買い与えている。」
「はい。その時に周囲にいた人物の確認がてら小切手を届けに行ってきたのですが、アナベル様もナタリア様もノア様にべったりだったようです。その姿はいくつかの貴族家に見られていたとのことでした。」
「そうか。」
「それと、もう一つ、そこでコリンス伯爵夫人の姿を見ました。購入ではなく、買取希望で。ご令嬢の結婚祝いに宝石を購入するなら分かりますが、買取です。気になったので、探ったところ面白いことが分かりました。」
伯爵夫人が自身の持つ宝石を現金化しているのは随分前から始まっていた。最初は小さなものから。そして、とうとう手をつけたエメラルドを買い取ったのは何を隠そうロイだ。
ロイは自らが仕組んだことを然も調べてきたかのように侯爵へ報告した。報告の多くは事実だが、意図的に侯爵が憤慨する要素を散りばめながら。
事実はこうだ。
伯爵夫人にはレイチェルが侯爵家へ移り住んだ後くらいから、とある男を近づけさせた。見目の良い二十代中頃の割には若く見える甘え上手の男を。最初は警戒していた夫人も次第にその男に心を開いた。開いた時には、もう戻れなくなるとは知らずに。
男の報酬はロイからの手当と出来高で決まる。その出来高はどれだけ夫人から毟り取れるかだった。男は、夫人に塩一粒分の愛情どころか情けも持ち合わせてはいない。それはどんな手段を用いても、枯れるまで毟り取れることを表す。
その手段はロイが用意したものだった。自分が良く知る投資という。
「して、報告とはなんだ。」
「はい、レイチェル様のご様子です。思い詰めることが増えたように思います。また、体調が悪そうにも見えます。」
「それは、スカリーからも既に上がっている。おまえは優秀な割には女の様子に疎いな。」
「申し訳ございません。」
侯爵の表情は、ロイが女に疎いのは仕方がないと物語っていた。既に九分九厘、ロイを男色と見做していることだろう。
「実は気になる情報も仕入れて参りました。ノア様とお二人の噂が結婚前のお遊びではないと思われている節がございます。」
「だろうな。二人を宥めるつもりだろうが、ノアは随分と装飾品を買い与えている。」
「はい。その時に周囲にいた人物の確認がてら小切手を届けに行ってきたのですが、アナベル様もナタリア様もノア様にべったりだったようです。その姿はいくつかの貴族家に見られていたとのことでした。」
「そうか。」
「それと、もう一つ、そこでコリンス伯爵夫人の姿を見ました。購入ではなく、買取希望で。ご令嬢の結婚祝いに宝石を購入するなら分かりますが、買取です。気になったので、探ったところ面白いことが分かりました。」
伯爵夫人が自身の持つ宝石を現金化しているのは随分前から始まっていた。最初は小さなものから。そして、とうとう手をつけたエメラルドを買い取ったのは何を隠そうロイだ。
ロイは自らが仕組んだことを然も調べてきたかのように侯爵へ報告した。報告の多くは事実だが、意図的に侯爵が憤慨する要素を散りばめながら。
事実はこうだ。
伯爵夫人にはレイチェルが侯爵家へ移り住んだ後くらいから、とある男を近づけさせた。見目の良い二十代中頃の割には若く見える甘え上手の男を。最初は警戒していた夫人も次第にその男に心を開いた。開いた時には、もう戻れなくなるとは知らずに。
男の報酬はロイからの手当と出来高で決まる。その出来高はどれだけ夫人から毟り取れるかだった。男は、夫人に塩一粒分の愛情どころか情けも持ち合わせてはいない。それはどんな手段を用いても、枯れるまで毟り取れることを表す。
その手段はロイが用意したものだった。自分が良く知る投資という。
12
お気に入りに追加
188
あなたにおすすめの小説
白い結婚がいたたまれないので離縁を申し出たのですが……。
蓮実 アラタ
恋愛
その日、ティアラは夫に告げた。
「旦那様、私と離縁してくださいませんか?」
王命により政略結婚をしたティアラとオルドフ。
形だけの夫婦となった二人は互いに交わることはなかった。
お飾りの妻でいることに疲れてしまったティアラは、この関係を終わらせることを決意し、夫に離縁を申し出た。
しかしオルドフは、それを絶対に了承しないと言い出して……。
純情拗らせ夫と比較的クール妻のすれ違い純愛物語……のはず。
※小説家になろう様にも掲載しています。
前世と今世の幸せ
夕香里
恋愛
幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。
しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。
皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。
そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。
この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。
「今世は幸せになりたい」と
※小説家になろう様にも投稿しています
かわいそうな旦那様‥
みるみる
恋愛
侯爵令嬢リリアのもとに、公爵家の長男テオから婚約の申し込みがありました。ですが、テオはある未亡人に惚れ込んでいて、まだ若くて性的魅力のかけらもないリリアには、本当は全く異性として興味を持っていなかったのです。
そんなテオに、リリアはある提案をしました。
「‥白い結婚のまま、三年後に私と離縁して下さい。」
テオはその提案を承諾しました。
そんな二人の結婚生活は‥‥。
※題名の「かわいそうな旦那様」については、客観的に見ていると、この旦那のどこが?となると思いますが、主人公の旦那に対する皮肉的な意味も込めて、あえてこの題名にしました。
※小説家になろうにも投稿中
※本編完結しましたが、補足したい話がある為番外編を少しだけ投稿しますm(_ _)m
あなたの一番になれないことは分かっていました
りこりー
恋愛
公爵令嬢であるヘレナは、幼馴染であり従兄妹の王太子ランベルトにずっと恋心を抱いていた。
しかし、彼女は内気であるため、自分の気持ちを伝えることはできない。
自分が妹のような存在にしか思われていないことも分かっていた。
それでも、ヘレナはランベルトの傍に居られるだけで幸せだった。この時までは――。
ある日突然、ランベルトの婚約が決まった。
それと同時に、ヘレナは第二王子であるブルーノとの婚約が決まってしまう。
ヘレナの親友であるカタリーナはずっとブルーノのことが好きだった。
※R15は一応保険です。
※一部暴力的表現があります。
貴方を捨てるのにこれ以上の理由が必要ですか?
蓮実 アラタ
恋愛
「リズが俺の子を身ごもった」
ある日、夫であるレンヴォルトにそう告げられたリディス。
リズは彼女の一番の親友で、その親友と夫が関係を持っていたことも十分ショックだったが、レンヴォルトはさらに衝撃的な言葉を放つ。
「できれば子どもを産ませて、引き取りたい」
結婚して五年、二人の間に子どもは生まれておらず、伯爵家当主であるレンヴォルトにはいずれ後継者が必要だった。
愛していた相手から裏切り同然の仕打ちを受けたリディスはこの瞬間からレンヴォルトとの離縁を決意。
これからは自分の幸せのために生きると決意した。
そんなリディスの元に隣国からの使者が訪れる。
「迎えに来たよ、リディス」
交わされた幼い日の約束を果たしに来たという幼馴染のユルドは隣国で騎士になっていた。
裏切られ傷ついたリディスが幼馴染の騎士に溺愛されていくまでのお話。
※完結まで書いた短編集消化のための投稿。
小説家になろう様にも掲載しています。アルファポリス先行。
お飾りな妻は何を思う
湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。
彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。
次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。
そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。
あなたの婚約者は、わたしではなかったのですか?
りこりー
恋愛
公爵令嬢であるオリヴィア・ブリ―ゲルには幼い頃からずっと慕っていた婚約者がいた。
彼の名はジークヴァルト・ハイノ・ヴィルフェルト。
この国の第一王子であり、王太子。
二人は幼い頃から仲が良かった。
しかしオリヴィアは体調を崩してしまう。
過保護な両親に説得され、オリヴィアは暫くの間領地で休養を取ることになった。
ジークと会えなくなり寂しい思いをしてしまうが我慢した。
二か月後、オリヴィアは王都にあるタウンハウスに戻って来る。
学園に復帰すると、大好きだったジークの傍には男爵令嬢の姿があって……。
***** *****
短編の練習作品です。
上手く纏められるか不安ですが、読んで下さりありがとうございます!
エールありがとうございます。励みになります!
hot入り、ありがとうございます!
***** *****
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる