年に一度の旦那様

五十嵐

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38 コリンス夫人への罠

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「失礼致します。」
「して、報告とはなんだ。」
「はい、レイチェル様のご様子です。思い詰めることが増えたように思います。また、体調が悪そうにも見えます。」
「それは、スカリーからも既に上がっている。おまえは優秀な割には女の様子に疎いな。」
「申し訳ございません。」

侯爵の表情は、ロイが女に疎いのは仕方がないと物語っていた。既に九分九厘、ロイを男色と見做していることだろう。

「実は気になる情報も仕入れて参りました。ノア様とお二人の噂が結婚前のお遊びではないと思われている節がございます。」
「だろうな。二人を宥めるつもりだろうが、ノアは随分と装飾品を買い与えている。」
「はい。その時に周囲にいた人物の確認がてら小切手を届けに行ってきたのですが、アナベル様もナタリア様もノア様にべったりだったようです。その姿はいくつかの貴族家に見られていたとのことでした。」
「そうか。」
「それと、もう一つ、そこでコリンス伯爵夫人の姿を見ました。購入ではなく、買取希望で。ご令嬢の結婚祝いに宝石を購入するなら分かりますが、買取です。気になったので、探ったところ面白いことが分かりました。」


伯爵夫人が自身の持つ宝石を現金化しているのは随分前から始まっていた。最初は小さなものから。そして、とうとう手をつけたエメラルドを買い取ったのは何を隠そうロイだ。

ロイは自らが仕組んだことを然も調べてきたかのように侯爵へ報告した。報告の多くは事実だが、意図的に侯爵が憤慨する要素を散りばめながら。

事実はこうだ。
伯爵夫人にはレイチェルが侯爵家へ移り住んだ後くらいから、とある男を近づけさせた。見目の良い二十代中頃の割には若く見える甘え上手の男を。最初は警戒していた夫人も次第にその男に心を開いた。開いた時には、もう戻れなくなるとは知らずに。

男の報酬はロイからの手当と出来高で決まる。その出来高はどれだけ夫人から毟り取れるかだった。男は、夫人に塩一粒分の愛情どころか情けも持ち合わせてはいない。それはどんな手段を用いても、枯れるまで毟り取れることを表す。

その手段はロイが用意したものだった。自分が良く知る投資という。
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