年に一度の旦那様

五十嵐

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31 大切な友人

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「ノア様からお二人に会う許可をいただきました。」
「ありがとう。」
「ここからは友人と話したいのですが。」
「わたしもそうしたいわ。でもスカリーが、」
「大丈夫。でなければ、こんな風にレイチェル様にわたしは話し掛けません。ノア様からの依頼であの二人の為の菓子を買いに行っています。だからご安心下さい。ちなみに向かわせた店はスカリーが好きな菓子店です。間違いなくスカリーは自分の分も買うでしょう。それも吟味して。だから時間は十分あります。」
「何でもお見通しね。」
「どうでしょう?」
「もう、わたしの友人のロイはそんな話し方をしないわ。」
「そうだった、ごめん、レイチェル。君との会話が久しぶり過ぎて本来の話し方を忘れていたよ。常に自分を作っているうちに、本当の自分を忘れそうだ。」
「あなたはあなただわ。大丈夫、いつでもロイに戻れるから。」
「ありがとう。また僕が自分を見失ったらレイチェルが助けて。」
「ええ。あなたを助けるわ。」
「そして僕が君を助ける。」


ロイはレイチェルとノアが初夜を迎えない為の策に始まり、結婚後ノアから離れマクレナン領へ行けるようにすることなどを事細かに伝えていった。
「わたしの立場がこの邸で悪くなることなど、ノア様と初夜を迎えることに比べたらどってことはないわ。でも、そう上手く行くかしら。」
「行かせる、その為に全力を尽くす。」
「ロイ、ありがとう。わたしも頑張る。ロイと一緒に居られるように。ねえ、わたし達は友人よね。」
「ああ、一緒に本を読んだり、話したり、笑い合える友人だ。」
「それはいつまで?」

レイチェルの質問は期限を問うもの。それは言葉通りなのか、違う意味があるのか寧ろロイの方が聞き返したくなった。

図書館でただ顔を合わしていた時だって双方理解していたはずだ、互いの身分を。分かっているから敢えて聞かない、それが声を掛け合う為の暗黙のルール。平民と貴族の令嬢では住む世界が違い過ぎる。この邸で働く貴族の娘だって、ロイをあわよくば連れ歩く犬程度にしか思っていない。躾けて毛並みを良くして、連れ歩き自尊心を満たすだけの。だから気安く何度でも声を掛ける。

貴族の娘であるレイチェルの質問の真意はなんだろうか。質問に質問で返すのは答えることを逃げていると思われてしまうかもしれないが、それでもロイは聞かずにはいられなかった。

「君はいつまでを望むの?」
まさか家を出て、のんびり暮らせる目処が立ったらロイを友人とは看做したくないのだろうか。

「ずっと…、ロイがわたしの友人でいても良いと思う限りずっと。わたしにとってあなたは大切な友人だから。でもね、わたし、大切なものを持つのが怖いの。だって、大切なものは全部取り上げられてしまうでしょ。だったら大切な友人でなくなれば、ずっと傍にいれるのかしら。」
「ねえ、レイチェルは僕を大切だと思ってくれているの?」
「当たり前じゃない。」
「ありがとう。安心して大丈夫だよ。僕はものではなく、意志のある人間だから誰も君から取り上げられない。」
「でも…」
「信じて。僕が君から離れたくないんだ。」
「信じる。わたしも、ロイが傍にいて欲しい。」

もうこれ以上レイチェルが大切なものを失わないよう、ロイは別の計画も早々に進め始めなくてはいけないと心に決めたのだった。
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