31 / 90
31 大切な友人
しおりを挟む
「ノア様からお二人に会う許可をいただきました。」
「ありがとう。」
「ここからは友人と話したいのですが。」
「わたしもそうしたいわ。でもスカリーが、」
「大丈夫。でなければ、こんな風にレイチェル様にわたしは話し掛けません。ノア様からの依頼であの二人の為の菓子を買いに行っています。だからご安心下さい。ちなみに向かわせた店はスカリーが好きな菓子店です。間違いなくスカリーは自分の分も買うでしょう。それも吟味して。だから時間は十分あります。」
「何でもお見通しね。」
「どうでしょう?」
「もう、わたしの友人のロイはそんな話し方をしないわ。」
「そうだった、ごめん、レイチェル。君との会話が久しぶり過ぎて本来の話し方を忘れていたよ。常に自分を作っているうちに、本当の自分を忘れそうだ。」
「あなたはあなただわ。大丈夫、いつでもロイに戻れるから。」
「ありがとう。また僕が自分を見失ったらレイチェルが助けて。」
「ええ。あなたを助けるわ。」
「そして僕が君を助ける。」
ロイはレイチェルとノアが初夜を迎えない為の策に始まり、結婚後ノアから離れマクレナン領へ行けるようにすることなどを事細かに伝えていった。
「わたしの立場がこの邸で悪くなることなど、ノア様と初夜を迎えることに比べたらどってことはないわ。でも、そう上手く行くかしら。」
「行かせる、その為に全力を尽くす。」
「ロイ、ありがとう。わたしも頑張る。ロイと一緒に居られるように。ねえ、わたし達は友人よね。」
「ああ、一緒に本を読んだり、話したり、笑い合える友人だ。」
「それはいつまで?」
レイチェルの質問は期限を問うもの。それは言葉通りなのか、違う意味があるのか寧ろロイの方が聞き返したくなった。
図書館でただ顔を合わしていた時だって双方理解していたはずだ、互いの身分を。分かっているから敢えて聞かない、それが声を掛け合う為の暗黙のルール。平民と貴族の令嬢では住む世界が違い過ぎる。この邸で働く貴族の娘だって、ロイをあわよくば連れ歩く犬程度にしか思っていない。躾けて毛並みを良くして、連れ歩き自尊心を満たすだけの。だから気安く何度でも声を掛ける。
貴族の娘であるレイチェルの質問の真意はなんだろうか。質問に質問で返すのは答えることを逃げていると思われてしまうかもしれないが、それでもロイは聞かずにはいられなかった。
「君はいつまでを望むの?」
まさか家を出て、のんびり暮らせる目処が立ったらロイを友人とは看做したくないのだろうか。
「ずっと…、ロイがわたしの友人でいても良いと思う限りずっと。わたしにとってあなたは大切な友人だから。でもね、わたし、大切なものを持つのが怖いの。だって、大切なものは全部取り上げられてしまうでしょ。だったら大切な友人でなくなれば、ずっと傍にいれるのかしら。」
「ねえ、レイチェルは僕を大切だと思ってくれているの?」
「当たり前じゃない。」
「ありがとう。安心して大丈夫だよ。僕はものではなく、意志のある人間だから誰も君から取り上げられない。」
「でも…」
「信じて。僕が君から離れたくないんだ。」
「信じる。わたしも、ロイが傍にいて欲しい。」
もうこれ以上レイチェルが大切なものを失わないよう、ロイは別の計画も早々に進め始めなくてはいけないと心に決めたのだった。
「ありがとう。」
「ここからは友人と話したいのですが。」
「わたしもそうしたいわ。でもスカリーが、」
「大丈夫。でなければ、こんな風にレイチェル様にわたしは話し掛けません。ノア様からの依頼であの二人の為の菓子を買いに行っています。だからご安心下さい。ちなみに向かわせた店はスカリーが好きな菓子店です。間違いなくスカリーは自分の分も買うでしょう。それも吟味して。だから時間は十分あります。」
「何でもお見通しね。」
「どうでしょう?」
「もう、わたしの友人のロイはそんな話し方をしないわ。」
「そうだった、ごめん、レイチェル。君との会話が久しぶり過ぎて本来の話し方を忘れていたよ。常に自分を作っているうちに、本当の自分を忘れそうだ。」
「あなたはあなただわ。大丈夫、いつでもロイに戻れるから。」
「ありがとう。また僕が自分を見失ったらレイチェルが助けて。」
「ええ。あなたを助けるわ。」
「そして僕が君を助ける。」
ロイはレイチェルとノアが初夜を迎えない為の策に始まり、結婚後ノアから離れマクレナン領へ行けるようにすることなどを事細かに伝えていった。
「わたしの立場がこの邸で悪くなることなど、ノア様と初夜を迎えることに比べたらどってことはないわ。でも、そう上手く行くかしら。」
「行かせる、その為に全力を尽くす。」
「ロイ、ありがとう。わたしも頑張る。ロイと一緒に居られるように。ねえ、わたし達は友人よね。」
「ああ、一緒に本を読んだり、話したり、笑い合える友人だ。」
「それはいつまで?」
レイチェルの質問は期限を問うもの。それは言葉通りなのか、違う意味があるのか寧ろロイの方が聞き返したくなった。
図書館でただ顔を合わしていた時だって双方理解していたはずだ、互いの身分を。分かっているから敢えて聞かない、それが声を掛け合う為の暗黙のルール。平民と貴族の令嬢では住む世界が違い過ぎる。この邸で働く貴族の娘だって、ロイをあわよくば連れ歩く犬程度にしか思っていない。躾けて毛並みを良くして、連れ歩き自尊心を満たすだけの。だから気安く何度でも声を掛ける。
貴族の娘であるレイチェルの質問の真意はなんだろうか。質問に質問で返すのは答えることを逃げていると思われてしまうかもしれないが、それでもロイは聞かずにはいられなかった。
「君はいつまでを望むの?」
まさか家を出て、のんびり暮らせる目処が立ったらロイを友人とは看做したくないのだろうか。
「ずっと…、ロイがわたしの友人でいても良いと思う限りずっと。わたしにとってあなたは大切な友人だから。でもね、わたし、大切なものを持つのが怖いの。だって、大切なものは全部取り上げられてしまうでしょ。だったら大切な友人でなくなれば、ずっと傍にいれるのかしら。」
「ねえ、レイチェルは僕を大切だと思ってくれているの?」
「当たり前じゃない。」
「ありがとう。安心して大丈夫だよ。僕はものではなく、意志のある人間だから誰も君から取り上げられない。」
「でも…」
「信じて。僕が君から離れたくないんだ。」
「信じる。わたしも、ロイが傍にいて欲しい。」
もうこれ以上レイチェルが大切なものを失わないよう、ロイは別の計画も早々に進め始めなくてはいけないと心に決めたのだった。
13
お気に入りに追加
198
あなたにおすすめの小説
前世と今世の幸せ
夕香里
恋愛
【商業化予定のため、時期未定ですが引き下げ予定があります。詳しくは近況ボードをご確認ください】
幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。
しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。
皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。
そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。
この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。
「今世は幸せになりたい」と
※小説家になろう様にも投稿しています
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
白い結婚がいたたまれないので離縁を申し出たのですが……。
蓮実 アラタ
恋愛
その日、ティアラは夫に告げた。
「旦那様、私と離縁してくださいませんか?」
王命により政略結婚をしたティアラとオルドフ。
形だけの夫婦となった二人は互いに交わることはなかった。
お飾りの妻でいることに疲れてしまったティアラは、この関係を終わらせることを決意し、夫に離縁を申し出た。
しかしオルドフは、それを絶対に了承しないと言い出して……。
純情拗らせ夫と比較的クール妻のすれ違い純愛物語……のはず。
※小説家になろう様にも掲載しています。
生まれ変わり令嬢は、初恋相手への心残りを晴らします(と意気込んだのはいいものの、何やら先行き不穏です!?)
夕香里
恋愛
無実の罪をあえて被り、処刑されたイザベル。目を開けると産まれたての赤子になっていた。
どうやら処刑された後、同じ国の伯爵家にテレーゼと名付けられて生まれたらしい。
(よく分からないけれど、こうなったら前世の心残りを解消しましょう!)
そう思い、想い人──ユリウスの情報を集め始めると、何やら耳を疑うような噂ばかり入ってくる。
(冷酷無慈悲、血に飢えた皇帝、皇位簒だ──父帝殺害!? えっ、あの優しかったユースが……?)
記憶と真反対の噂に戸惑いながら、17歳になったテレーゼは彼に会うため皇宮の侍女に志願した。
だが、そこにいた彼は17年前と変わらない美貌を除いて過去の面影が一切無くなっていて──?
「はっ戯言を述べるのはいい加減にしろ。……臣下は狂帝だと噂するのに」
「そんなことありません。誰が何を言おうと、わたしはユリウス陛下がお優しい方だと知っています」
徐々に何者なのか疑われているのを知らぬまま、テレーゼとなったイザベルは、過去に囚われ続け、止まってしまった針を動かしていく。
これは悲恋に終わったはずの恋がもう一度、結ばれるまでの話。
貴方を捨てるのにこれ以上の理由が必要ですか?
蓮実 アラタ
恋愛
「リズが俺の子を身ごもった」
ある日、夫であるレンヴォルトにそう告げられたリディス。
リズは彼女の一番の親友で、その親友と夫が関係を持っていたことも十分ショックだったが、レンヴォルトはさらに衝撃的な言葉を放つ。
「できれば子どもを産ませて、引き取りたい」
結婚して五年、二人の間に子どもは生まれておらず、伯爵家当主であるレンヴォルトにはいずれ後継者が必要だった。
愛していた相手から裏切り同然の仕打ちを受けたリディスはこの瞬間からレンヴォルトとの離縁を決意。
これからは自分の幸せのために生きると決意した。
そんなリディスの元に隣国からの使者が訪れる。
「迎えに来たよ、リディス」
交わされた幼い日の約束を果たしに来たという幼馴染のユルドは隣国で騎士になっていた。
裏切られ傷ついたリディスが幼馴染の騎士に溺愛されていくまでのお話。
※完結まで書いた短編集消化のための投稿。
小説家になろう様にも掲載しています。アルファポリス先行。
愛し子は自由のために、愛され妹の嘘を放置する
紅子
恋愛
あなたは私の連理の枝。今世こそは比翼の鳥となりましょう。
私は、女神様のお願いで、愛し子として転生した。でも、そのことを誰にも告げる気はない。可愛らしくも美しい双子の妹の影で、いない子と扱われても特別な何かにはならない。私を愛してくれる人とこの世界でささやかな幸せを築ければそれで満足だ。
その希望を打ち砕くことが起こるとき、私は全力でそれに抗うだろう。
完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
【完結】愛してました、たぶん
たろ
恋愛
「愛してる」
「わたしも貴方を愛しているわ」
・・・・・
「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」
「いつまで待っていればいいの?」
二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。
木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。
抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。
夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。
そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。
大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。
「愛してる」
「わたしも貴方を愛しているわ」
・・・・・
「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」
「いつまで待っていればいいの?」
二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。
木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。
抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。
夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。
そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。
大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
だが夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる