年に一度の旦那様

五十嵐

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30 愛人二人との段取り

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「コリンス伯爵令嬢からアナベル様とナタリア様それぞれとお話しする機会を得たいとの申し出がありました」
「おまえの段階で遇らわなかったということは何か理由があるんだな」
「はい。ご令嬢はこの邸での立場を十分に理解したようです。ですから、アナベル様とナタリア様と話すこと自体には問題はありません」
「おまえは話す内容を知っているのか?」
「恐らく。ノア様からお二人と話す許可を得られれば、勿論事前にご令嬢には釘を刺しますが」
「分かった。二人には伝えておこう」
「ありがとうございます。そうしましたらもう一点、お願いがございます。ご令嬢に事前に話をする時だけ、侍女のスカリーを遠ざけていただければと。刺す釘を侯爵様に見られたくはありません」
ロイの物言いにノアは頷いた。勝手にノアの都合が良いように解釈してくれたということだろう。
そして茶化すように言葉を続けた。

「あのおまえに腰を振りたがっているメス犬なら抱いてやれば簡単に言うことを聞くんじゃないか」
「無理です。いくら盛られても」
「ああ、そうだったな。メス犬は少しのあいだ追っ払ってやるから、しっかり釘を刺せよ」


ノアがメス犬と呼ぶ侍女のスカリーはレイチェルがこの邸に来てからずっと側仕えをしている男爵家の次女だ。もう随分前からロイは言い寄られていた。それが本心からなのか、侯爵がロイの性癖を確認する為の差金かは分からない。ただスカリーからは随分際どいことを度々されている。身分社会の侯爵邸内では、貴族の娘であるスカリーの方が立場は上。ロイは自分の体が反応を示さないようにしていつもやり過ごしている。

スカリーだけではない。侯爵家で働く貴族の娘達の中にはロイに粉をかける者が数人いた。見目の良いロイを侍らして、彼女達の中でのマウントを取りたいのだろう。その度にロイは女性には興味がないと言い続けている。正確に言うならば、『レイチェル以外の女性に興味はない』なのだが。

しかし貴族の娘としてのプライドを持つ彼女達は、ロイが男色だから自分に振り向かないのだと話を勝手に広めて行く。スカリーに至っては、反応しない男性器にロイは不能なのかもしれないと他の女性に話していた。そんなことを話したら、他者にスカリーが何をしたのか知られることになるというのに。

邸内で話が巡り巡ってアレクに知られたから、ノアはスカリーをメス犬と呼ぶようになったのだろう。懲りずに何度も腰を振に行く。そして、アレクはアレクでロイを常に嘲笑うような目で見てくる。ロイにしてみれば、アレクのそれは誰かからの情報を何らかの方法で得たと言っているようなものなのだが。しかしアレクなどいつでも簡単に潰せるロイとしては構う必要など全くない。

重要なのはレイチェルのこと。アレクを放っておいているのも、いつかレイチェルの為に役立てる時があるかもしれないと思うから。

それにロイはこの男色という状況すら利用している。レイチェルの傍に控える役目を得たのは、これが理由の一つだと分かっている以上この設定を続けなくては。更には次の計画の為にも。
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