年に一度の旦那様

五十嵐

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28 次の未来

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ロイは何度も躊躇った末に、一枚のメモ用紙を火に焚べた。残しておいては不味いレイチェルの意志。しかし書かれている内容がロイにとっては希望であり未来だった。それを灰にしてしまうのは忍びなく思えたのだ。

レイチェルはノアとの結婚で伯爵家から出ようとしている。結婚は家を出る為の手段ということだ。
問題は離婚。離婚するという行為が問題というのではなく、その後が問題なのだ。出戻ったところで、伯爵家から直ぐにどこかへ嫁がされてしまう。

色々な要素を踏まえて考えると、レイチェルにとってノアとの結婚は上手くいけばそれなりのメリットを見込めるものだ。勿論ここでの上手くいけばは、ノアとの関係ではない。結婚をしている状態のことを指す。

愛人二人にレイチェルが接触したい理由は、今後も二人に頑張ってもらう為だとメモには書かれていた。レイチェルは侯爵家に嫁ぐが、ノアの本当の意味での妻にはなりたくない。書類上の妻であればいいだけなのだ。それには、アナベルなりナタリアがノアのレイチェル訪問を阻めばいい。だから二人を焚き付ける為にも会いたいとメモには書いてあった。

いずれは侯爵夫人としてその仕事に専念し、それをロイが支えてくれる未来があればいいとレイチェルは最後に一文を付け加えたのだろう。そこだけインクの滲み具合が違っている。インク瓶にペン先を付けては書くかどうするか悩んだに違いない。

ロイは、レイチェルの望む未来はこのままではやってこないと知っている。
侯爵もノアも今は愛人二人をレイチェルが許容し管理することを望んでいるが、結婚後の考えはそうではない。

ノアは恐らく結婚後もレイチェルには同じスタンスで愛人二人と上手く過ごすことを望んでいる。しかし、侯爵は後継を産むのはレイチェルしかいないと考えているはずだ。いくら愛人二人が頑張ったとしても、侯爵家での絶対的権力は侯爵にある。ノアだって後継指名をちらつかされれば、早々にレイチェルと閨を共にするだろう。

以前のレイチェルの希望は伯爵家を出ることだった。
そして、今では更なる希望がある。そこにはロイの場所も。
結婚まであと数ヶ月、ロイは様々な策を巡らせるべく動かなくてはいけないと決心した。
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