年に一度の旦那様

２７ 欲

暖炉にロイからメモを投げ入れ、レイチェルは頭の中を整理した。

暖炉に火が焚べられているというのは、残したくないメモを燃やすには便利だ。しかし、レイチェルにとって暖炉は本来の役割だけでなく、時間の流れを突きつけるものでもある。
誕生日の頃ノアと婚約し、半年後ここに来た時にはまだ暖炉は必要なかった。それが今は燃え盛り、火がなくなる頃には結婚をしなくてはならない。

『二人と会う前に、レイチェル様が今後ノア様とどうありたいかお知らせ下さい。それと、わたしは愛人二人と直接は話をしませんのでご安心下さい』
燃やしてしまったロイの美しい文字がレイチェルの脳裏に蘇る。特に後半部分が。きっとロイはレイチェルの表情を読み取ったのだろう、アナベルとナタリアに接触して欲しくないという。だからこそ、メモにも二人の名前は書かず愛人と表記したのではないかと思える。

レイチェルも貴族の娘として最低限の教育は受けてきた。表情を保つ術だって身に付けている。それなのに、ロイはレイチェルの表情を読んで心の中まで見透かしてしまった。問題はどこまで読み取られたかどうかだ。レイチェルが抱いている独占欲を知られるわけにはいかない。

図書館で名前など尋ねることなく会っていたロイ。あの頃のレイチェルはこの時間がずっと続けば良いと思っていた。居ないものとして扱われている自分に笑みを向けてくれる人と過ごす穏やかな時間が。
それが、今は柵はあるものの傍にいて名前まで知っているというのに『もっと』を求めてしまう。

レイチェルの書く文字もロイに読まれた後は、火の中へ放られるだけ。
それだったら『ノアとの今後』だけではなく、レイチェルの望む今後を書いてしまいたいと思った。どうせ、灰になるのだから。





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長い前置きもそろそろ終われそうです。
カテゴリーの通りそろそろ恋愛要素を…