23 / 90
23 結婚準備
しおりを挟む
侯爵はロイの意見を鵜呑みにしたりはしない。ロイへの確認後、少し間をおいてからノアにも婚約者との仲を確認した。
子供の頃から侯爵に仕えているロイは、そうすることなど見越してノアとも事前に口裏合わせをし更なる手を打っていた。
「婚約者とは仲良くやっているのだろうな」
「はい。最近では表情が随分柔らかくなりました。特にカフェへ連れ出した時などは嬉しそうにしてくれます」
「そうか」
カフェでの表情など見たことはないが、ノアはロイとの打ち合わせ通りの言葉を発した。ロイが言った通り外出を共にしていることと、一緒にいる時にレイチェルが嬉しそうにしていることを強調する為に。
しかしロイがノアにそう言うことをアドバイスしたのには勿論理由がある。侯爵が深読みすることを予想したのだ。
後妻達から嫌がらせを受け暮らしていたレイチェルの過去を知る侯爵ならば、ノアの言葉をそのままに受け取らないと。レイチェルが家から出れることを喜んでいるのではないかと勘繰ると読んでいた。
「予算から毎回贈り物をしているようだな」
「はい、高価なものではありませんが渡すと喜んでくれます」
「そうか。伯爵令嬢は中身を見て喜んでいるんだな」
「中身ですか?」
「ああ、包みを開けた瞬間の女の表情は毎回よく見ておくといい。演技なのかどうかを」
「彼女はわたしからの贈り物自体に喜んでくれているようです。そういう表情をいつも見せてくれます。贈り物は荷物にならないよういつも迎えに行った時に渡すもので、開けずに包みを大切そうに執事に渡していますし。もしかしたら夜にでも部屋で喜びのあまり包みをずっと見ているかもしれません」
「そうか」
それから数日後だった、ロイが伯爵家へ侯爵からのレイチェルの花嫁修行に関する書状を届けたのは。
書状が伯爵家に到着してから一週間後、急なことにもかかわらずレイチェルは嫁入り前の勉強をする為に侯爵家へ移り住むこととなった。半年後には結婚式を挙げるのだから、ちょうど良い頃合いだろうということで。
伯爵家からは短期間で都合がつかなかったと一人の侍女も寄越すことはなかったが、そんなことは侯爵もロイも言い訳に過ぎないと承知の上だった。寧ろ、侯爵家内に他所の家の者が入り込まないことを喜んだ。
レイチェル付きの侍女はメイドが一人格上げされ対応することとなった。勿論レイチェルの荷物をしまう時には点検は欠かさない。品物の質、真新しさは特に。
そして全てが侯爵へ報告される。
嫁入りということで、新しい物が多いのは頷ける。しかし、いずれ侯爵夫人になるレイチェルへの質としては些かいただけないものばかりだった。こちらは適当に間に合わせたであろうことがこういうところから窺えるのであった。
「宝飾品は、どういう物を持たされてきたのだ?」
「はい。ワンピースに付ける程度のブローチと髪飾りくらいです。それもどちらも銀細工。宝飾品と言うには小さ過ぎる石が髪飾りに付いているだけでした」
「そうか。こちらでそれなりに見えるよう整えないといけないな」
「はい」
「レイチェルは早めに家から出れた上に、身支度も万全に整えて貰えるのだ、我が侯爵家に誠心誠意努める妻になるだろう」
侯爵は伯爵家を何年後くらいに掌中に収めるべきか考えた。レイチェルに使う金は最終的には伯爵家が担うべきなのだから。持ちかけた共同事業だっていずれは侯爵家の取り分を更に増やす予定でいる。伯爵家は程々に生かされればいいだけの家なのだ。無くしてしなったら、何も生まなくなってしまうので。
持参金なしという一見親切そうな申し出が、どれだけ危険だったかはいつか気付くだろう。否、あの伯爵でもは無理かもしれないと侯爵は思った。それはそれで一生知らぬが幸せかとも。
子供の頃から侯爵に仕えているロイは、そうすることなど見越してノアとも事前に口裏合わせをし更なる手を打っていた。
「婚約者とは仲良くやっているのだろうな」
「はい。最近では表情が随分柔らかくなりました。特にカフェへ連れ出した時などは嬉しそうにしてくれます」
「そうか」
カフェでの表情など見たことはないが、ノアはロイとの打ち合わせ通りの言葉を発した。ロイが言った通り外出を共にしていることと、一緒にいる時にレイチェルが嬉しそうにしていることを強調する為に。
しかしロイがノアにそう言うことをアドバイスしたのには勿論理由がある。侯爵が深読みすることを予想したのだ。
後妻達から嫌がらせを受け暮らしていたレイチェルの過去を知る侯爵ならば、ノアの言葉をそのままに受け取らないと。レイチェルが家から出れることを喜んでいるのではないかと勘繰ると読んでいた。
「予算から毎回贈り物をしているようだな」
「はい、高価なものではありませんが渡すと喜んでくれます」
「そうか。伯爵令嬢は中身を見て喜んでいるんだな」
「中身ですか?」
「ああ、包みを開けた瞬間の女の表情は毎回よく見ておくといい。演技なのかどうかを」
「彼女はわたしからの贈り物自体に喜んでくれているようです。そういう表情をいつも見せてくれます。贈り物は荷物にならないよういつも迎えに行った時に渡すもので、開けずに包みを大切そうに執事に渡していますし。もしかしたら夜にでも部屋で喜びのあまり包みをずっと見ているかもしれません」
「そうか」
それから数日後だった、ロイが伯爵家へ侯爵からのレイチェルの花嫁修行に関する書状を届けたのは。
書状が伯爵家に到着してから一週間後、急なことにもかかわらずレイチェルは嫁入り前の勉強をする為に侯爵家へ移り住むこととなった。半年後には結婚式を挙げるのだから、ちょうど良い頃合いだろうということで。
伯爵家からは短期間で都合がつかなかったと一人の侍女も寄越すことはなかったが、そんなことは侯爵もロイも言い訳に過ぎないと承知の上だった。寧ろ、侯爵家内に他所の家の者が入り込まないことを喜んだ。
レイチェル付きの侍女はメイドが一人格上げされ対応することとなった。勿論レイチェルの荷物をしまう時には点検は欠かさない。品物の質、真新しさは特に。
そして全てが侯爵へ報告される。
嫁入りということで、新しい物が多いのは頷ける。しかし、いずれ侯爵夫人になるレイチェルへの質としては些かいただけないものばかりだった。こちらは適当に間に合わせたであろうことがこういうところから窺えるのであった。
「宝飾品は、どういう物を持たされてきたのだ?」
「はい。ワンピースに付ける程度のブローチと髪飾りくらいです。それもどちらも銀細工。宝飾品と言うには小さ過ぎる石が髪飾りに付いているだけでした」
「そうか。こちらでそれなりに見えるよう整えないといけないな」
「はい」
「レイチェルは早めに家から出れた上に、身支度も万全に整えて貰えるのだ、我が侯爵家に誠心誠意努める妻になるだろう」
侯爵は伯爵家を何年後くらいに掌中に収めるべきか考えた。レイチェルに使う金は最終的には伯爵家が担うべきなのだから。持ちかけた共同事業だっていずれは侯爵家の取り分を更に増やす予定でいる。伯爵家は程々に生かされればいいだけの家なのだ。無くしてしなったら、何も生まなくなってしまうので。
持参金なしという一見親切そうな申し出が、どれだけ危険だったかはいつか気付くだろう。否、あの伯爵でもは無理かもしれないと侯爵は思った。それはそれで一生知らぬが幸せかとも。
12
*ご訪問ありがとうございました*
長い間更新しませんで…申し訳ございませんでした。感想をいただいていたのに、漸く気付き心を入れ替えようと思ったところです。
長い間更新しませんで…申し訳ございませんでした。感想をいただいていたのに、漸く気付き心を入れ替えようと思ったところです。
お気に入りに追加
200
あなたにおすすめの小説

前世と今世の幸せ
夕香里
恋愛
【商業化予定のため、時期未定ですが引き下げ予定があります。詳しくは近況ボードをご確認ください】
幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。
しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。
皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。
そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。
この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。
「今世は幸せになりたい」と
※小説家になろう様にも投稿しています

王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます

白い結婚がいたたまれないので離縁を申し出たのですが……。
蓮実 アラタ
恋愛
その日、ティアラは夫に告げた。
「旦那様、私と離縁してくださいませんか?」
王命により政略結婚をしたティアラとオルドフ。
形だけの夫婦となった二人は互いに交わることはなかった。
お飾りの妻でいることに疲れてしまったティアラは、この関係を終わらせることを決意し、夫に離縁を申し出た。
しかしオルドフは、それを絶対に了承しないと言い出して……。
純情拗らせ夫と比較的クール妻のすれ違い純愛物語……のはず。
※小説家になろう様にも掲載しています。

悪役令嬢になったようなので、婚約者の為に身を引きます!!!
夕香里
恋愛
王子に婚約破棄され牢屋行き。
挙句の果てには獄中死になることを思い出した悪役令嬢のアタナシアは、家族と王子のために自分の心に蓋をして身を引くことにした。
だが、アタナシアに甦った記憶と少しずつ違う部分が出始めて……?
酷い結末を迎えるくらいなら自分から身を引こうと決めたアタナシアと王子の話。
※小説家になろうでも投稿しています

生まれ変わり令嬢は、初恋相手への心残りを晴らします(と意気込んだのはいいものの、何やら先行き不穏です!?)
夕香里
恋愛
無実の罪をあえて被り、処刑されたイザベル。目を開けると産まれたての赤子になっていた。
どうやら処刑された後、同じ国の伯爵家にテレーゼと名付けられて生まれたらしい。
(よく分からないけれど、こうなったら前世の心残りを解消しましょう!)
そう思い、想い人──ユリウスの情報を集め始めると、何やら耳を疑うような噂ばかり入ってくる。
(冷酷無慈悲、血に飢えた皇帝、皇位簒だ──父帝殺害!? えっ、あの優しかったユースが……?)
記憶と真反対の噂に戸惑いながら、17歳になったテレーゼは彼に会うため皇宮の侍女に志願した。
だが、そこにいた彼は17年前と変わらない美貌を除いて過去の面影が一切無くなっていて──?
「はっ戯言を述べるのはいい加減にしろ。……臣下は狂帝だと噂するのに」
「そんなことありません。誰が何を言おうと、わたしはユリウス陛下がお優しい方だと知っています」
徐々に何者なのか疑われているのを知らぬまま、テレーゼとなったイザベルは、過去に囚われ続け、止まってしまった針を動かしていく。
これは悲恋に終わったはずの恋がもう一度、結ばれるまでの話。

貴方を捨てるのにこれ以上の理由が必要ですか?
蓮実 アラタ
恋愛
「リズが俺の子を身ごもった」
ある日、夫であるレンヴォルトにそう告げられたリディス。
リズは彼女の一番の親友で、その親友と夫が関係を持っていたことも十分ショックだったが、レンヴォルトはさらに衝撃的な言葉を放つ。
「できれば子どもを産ませて、引き取りたい」
結婚して五年、二人の間に子どもは生まれておらず、伯爵家当主であるレンヴォルトにはいずれ後継者が必要だった。
愛していた相手から裏切り同然の仕打ちを受けたリディスはこの瞬間からレンヴォルトとの離縁を決意。
これからは自分の幸せのために生きると決意した。
そんなリディスの元に隣国からの使者が訪れる。
「迎えに来たよ、リディス」
交わされた幼い日の約束を果たしに来たという幼馴染のユルドは隣国で騎士になっていた。
裏切られ傷ついたリディスが幼馴染の騎士に溺愛されていくまでのお話。
※完結まで書いた短編集消化のための投稿。
小説家になろう様にも掲載しています。アルファポリス先行。

親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる