年に一度の旦那様

五十嵐

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ロイはあれから何度か御者としてノアと伯爵家を訪れている。そのいずれも、ノアはレイチェルを連れ出した後アレクと花街へ繰り出していった。宝飾店に寄ったのはあの一度きり。その後はロイがノアの訪問に合わせて事前に宝飾店へ包みを取りに行っているからだ。

「微々たる額のものでいいとは安い女だな」
「元々何も持っていないご令嬢のようです。価値など分からないでしょう」
「それもそうだな。おまえが毎回大きめの包みを用意するから、伯爵家へのパフォーマンスは上々だろうし」
「はい、ノア様がご令嬢を大切にしているということは、伯爵家へしっかり伝わっていることかと存じます」

ロイは毎回同じ注文を宝飾店でしていたのだ。イミテーションと小さくても価値のある宝石という組み合わせの。ノアにとっては微々たる額でも、いくつかあればそれなりの額にはなる。



そしてとうとう待っていた時が来た。侯爵がレイチェルと伯爵家の様子を確認したいと行ってきたのだ。

「ノア様とご令嬢の親睦は進んでいるように見えます」
「そうか」

「訪問時には必ずノア様がご令嬢に贈り物をされていますから、伯爵家側にもいかに大切に扱っているか伝わっているかと」
「ノアが、延いては侯爵家が大切にしている娘なら以前のように扱いはしないだろう。多少は肌艶や髪質が良くなってもらわんとな」
「そこまでは難しいかと。探ったところによりますと、邸に来ている家庭教師も以前と変わりません。それと、もう一つ気になることが。ノア様がお渡しになった贈り物はいつも執事が部屋へ届けると言ってご令嬢から預かってしまいます」
「確かか?」
「はい。ノア様はいつもご令嬢が好みそうな大きなリボンの付いた包みを用意しています。ですから印象に残っていたのですが、そういえば、毎回執事の手に渡ると思いまして」
「侯爵家で組んでいる婚約者用の予算は妻になるものの為であって、その家族や使用人のものではない」
「いかがでしょう、結婚まであと半年です。ご令嬢にはこちらに滞在いただいて様々な勉強をしてもらっては。先ほども申しましたように、家庭教師も期待できません」
「しかし、あの二人がここにはいる」
「それも含めて勉強してもらいましょう。ご令嬢が奥様になられた暁には、あのお二人の管理もしなくてはいけないのですから。何より、結婚式でノア様の隣に立つお方です。ノア様の為にも、侯爵家の為にも、今からでも容姿は磨いていただかないと」

ロイが蒔いた種の一部はもう少しで芽吹くだろう。
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