年に一度の旦那様

五十嵐

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15 侯爵の決定

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レイチェルが話してくれたデビュタントボールが行われた次の日、ロイは侯爵から呼び出しを受けた。

必然的にこの日のノアに対する従者業務は全てアレクとなる。侯爵邸では誰の命令が優先されるべきかなど聞くまでもなく決まっているのだ。それでもアレクは不満気な顔でロイに言った。
「おまえの今日の仕事は全部代わってやるんだから、その分他の日で返せよ」

代わるも何も、侯爵家のノアの専属従者は貴族であるアレク。ロイは侯爵から言われて補佐程度だというのに、アレクの勘違いは甚だしい。いい加減ロイが調べたことをちらつかせて黙らせたいところだが、今はまだその時ではない。個人の鬱憤で情報を使うのではなく、大局を見なくてはとロイは踏みとどまった。

そこでロイは気づいた。普段なら感情を殺してアレクと接することなど容易いのに、今日はそれが出来ないのだ。
虫の知らせなのか、侯爵からの呼び出し以降悪い未来が頭を擡げる。レイチェルの美しさが、全ての調査内容を無駄にしたのだろうと。


侯爵の執務室に入ると直ぐに言われた。『コリンス伯爵家の娘にする』と。
悪い予感ほど良く当たるものだとロイが思う横で、侯爵が理由とこれからのロイの動きを話した。

「細い腰のせいかドレスは既製品ではなく仕立てたんだろうが、デザインも生地も大したものではなかった。しかし、そんなことはどうでもいいくらい本人が全てをカバーしてしまう娘だった。優雅な身のこなしに、表情、何より美しさがな。おまえはこの書状を届け、返事をもらって来るんだ。待っている時間は勿論無駄にするなんて馬鹿なことはしないだろうが、一応言っておく。侯爵家にとり、今後有用になるであろう伯爵家の様子をしっかり観察しろ」
「承知致しております。使用人達の言葉も今後の為に漏らさず聞き取って参ります」

侯爵家の紋章を付けた馬車でコリンス伯爵家へ向かう、ロイとしてはこんなことはしたくなかった。しかし、この体裁で臨むということが何を意味するのか伯爵も執事も書状を確認すれば直ぐに理解するだろう。断ることの出来ない婚姻の申込みを受けたのだと。

返事を待つまでもなく、答えは決まっている。それでも、貴族として婚姻は契約なのだから書面でそれ相当の内容を書き連ねなくてはならない。伯爵及び仕える者達がどれくらいの程度の頭を持っているのかは今の経済状況からすると『それなり』。だから、返事を待つロイにある時間は『かなり』だ。

ロイはノアの愛人二人との馬鹿な日々を思い浮かべ、この状況でもレイチェルを助ける為に何かを積み重ねなくてはならないと決めたのだった。
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