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12 婚約者の条件
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侯爵がアナベルとナタリアの存在を知った時の怒りとも呆れとも言えない顔は見ものだった。ロイが知る中で一番の無様な顔だった。
優秀なノア。それは侯爵の誇りであり、未来だ。
「出来が良過ぎて狙われるとは」
侯爵の呟きにロイは『あんたは買い被り過ぎだ』と心の中で悪態をついた。心の中でせせら笑っていても、ロイの顔つきは真剣そのもの。
心と裏腹に神妙な面持ちを保ち続けることなど、ロイには息をすることと同じだった。そして、侯爵がどういう手を打つのか、命令を待つのだった。
「あの二人はこの邸でノアに囲わせる。別れさせたとしても、次の女を見つけるだけかもしれない。だったら、監視も兼ねてここに置いておく方が手を打ちやすい」
「承知いたしました」
しかしロイの予想と異なる命令を侯爵は下した。てっきり二人を排除するのかと思いきや、別のことを考えていたのだ。
ロイとしては排除しろと言われれば、既に握っている情報だけでどうとでも出来るというのに。寧ろ暇つぶしの娯楽に股の緩い二人に男を充てがって、ノアに目撃させるという寸劇作りくらいしてもいいと思っていたくらいだ。
「それでだ、おまえはここにあるリストの家の最近の状況と娘の出来を探れ」
「畏まりました。侯爵様、一点確認させて下さい。ご令嬢の出来とはしっかり躾けられているかどうかを優先しますか、それとも頭の良さでしょうか」
「見栄えが良くそれなりの頭を持ち、従順そうな娘がいい。なにせ、愛人が住む邸に嫁いでくるのだからな」
侯爵は息子の嫁にまで教育を施すつもりかとロイは理解した。愛人の管理も出来る正妻を作るのだと。
渡されたリストからもそれが窺える。
そこには四つの伯爵家と一つの侯爵家の名前が記されていた。どこの家に対してもマクレナン侯爵家が優位に立てる。つまり娘には愛人を容認させられるというわけだ。
更に侯爵の思惑が明からさまにロイには分かった。
どこの家もずば抜けて裕福ということはなく、どちらかと言えば収支トントンにおまけが少しあるくらいの家なのだ。仮に領地や商売で不測の事態でも起きれば、直ぐに借金を背負うだろう。
侯爵はこの五家の中からノアの妻を選ぶ。それは、選ばれた娘の家には早かれ遅かれ不測の事態が起こることを意味している。侯爵は起きるはずのない不測の事態が作られた時、善人面で手を差し伸べその家の実権を手にするということだ。
ノアなど馬鹿な女に入れ上げて身を滅ぼせばいいとロイは思うが、流石にどの家であってもそのとばっちりを受けるのは不幸だ。しかし、その不幸へ導くのはロイの調査内容だと思うとやるせない。それでも、ロイはロイの為に命令に従うしかない。
リストにあるコリンス伯爵家の娘を自分の目で確認するまでロイはそう思っていた。
優秀なノア。それは侯爵の誇りであり、未来だ。
「出来が良過ぎて狙われるとは」
侯爵の呟きにロイは『あんたは買い被り過ぎだ』と心の中で悪態をついた。心の中でせせら笑っていても、ロイの顔つきは真剣そのもの。
心と裏腹に神妙な面持ちを保ち続けることなど、ロイには息をすることと同じだった。そして、侯爵がどういう手を打つのか、命令を待つのだった。
「あの二人はこの邸でノアに囲わせる。別れさせたとしても、次の女を見つけるだけかもしれない。だったら、監視も兼ねてここに置いておく方が手を打ちやすい」
「承知いたしました」
しかしロイの予想と異なる命令を侯爵は下した。てっきり二人を排除するのかと思いきや、別のことを考えていたのだ。
ロイとしては排除しろと言われれば、既に握っている情報だけでどうとでも出来るというのに。寧ろ暇つぶしの娯楽に股の緩い二人に男を充てがって、ノアに目撃させるという寸劇作りくらいしてもいいと思っていたくらいだ。
「それでだ、おまえはここにあるリストの家の最近の状況と娘の出来を探れ」
「畏まりました。侯爵様、一点確認させて下さい。ご令嬢の出来とはしっかり躾けられているかどうかを優先しますか、それとも頭の良さでしょうか」
「見栄えが良くそれなりの頭を持ち、従順そうな娘がいい。なにせ、愛人が住む邸に嫁いでくるのだからな」
侯爵は息子の嫁にまで教育を施すつもりかとロイは理解した。愛人の管理も出来る正妻を作るのだと。
渡されたリストからもそれが窺える。
そこには四つの伯爵家と一つの侯爵家の名前が記されていた。どこの家に対してもマクレナン侯爵家が優位に立てる。つまり娘には愛人を容認させられるというわけだ。
更に侯爵の思惑が明からさまにロイには分かった。
どこの家もずば抜けて裕福ということはなく、どちらかと言えば収支トントンにおまけが少しあるくらいの家なのだ。仮に領地や商売で不測の事態でも起きれば、直ぐに借金を背負うだろう。
侯爵はこの五家の中からノアの妻を選ぶ。それは、選ばれた娘の家には早かれ遅かれ不測の事態が起こることを意味している。侯爵は起きるはずのない不測の事態が作られた時、善人面で手を差し伸べその家の実権を手にするということだ。
ノアなど馬鹿な女に入れ上げて身を滅ぼせばいいとロイは思うが、流石にどの家であってもそのとばっちりを受けるのは不幸だ。しかし、その不幸へ導くのはロイの調査内容だと思うとやるせない。それでも、ロイはロイの為に命令に従うしかない。
リストにあるコリンス伯爵家の娘を自分の目で確認するまでロイはそう思っていた。
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*ご訪問ありがとうございました*
長い間更新しませんで…申し訳ございませんでした。感想をいただいていたのに、漸く気付き心を入れ替えようと思ったところです。
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