年に一度の旦那様

五十嵐

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9 偶然という名の意図

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従者としてノアに付き添うロイは、様々な場所へ同行することが出来た。

控室での従者同士の会話。
立ち入った先の出入り業者らの会話。

ロイは自分の見た目や口調を利用し多くの話を聞き出した。
どこへ行っても様々な会話が溢れているが、真実と噂を見極めるのは難しい。しかし、侯爵の持つ経験豊富な間諜達から見極める方法を徐々に教えられたロイが一見識を持つ迄には長い時間など不要だった。

ロイが図書館へ通っていたのも、事実を見極めるのに必要な過去を得る為だ。国立図書館には過去の新聞が保管してある。貴族間の揉め事と裁判結果。領地の問題。陞爵や褫爵には必ず何らかの理由があり、そこにある恨み辛みは大抵根深い。更には貴族だけではなく商人の取引高やルートも調べられる限り探っていた。

ロイにはあの日、レイチェルが取ろうとしていた本を読むつもりなど毛頭なかった。ただ、いつも見掛けるレイチェルとの接点を作る為に装っただけだ。本来は調べなくてはいけないことがあるというのに、気付けばそんな馬鹿なことをしていたのだった。

早くから自分の立場を知り賢く生きることを選択したロイ。常にどう立ち回るのか考え動いていた。それなのに、何度となく見掛ける美しい翡翠の瞳を持つ少女がいつもより近くで本を探しているという事実に何かが狂った。あまりの距離の近さに、つい少女が伸ばした腕の先の本にロイも触れてしまったのだった。

ロイが送るのは侯爵邸で繰り広げられるくだらない毎日。アリエルと共にこの毎日から抜け出せたとしても、この先に何があるのかは分からない。場合によっては、侯爵邸を抜け出したとたん破滅が待っているかもしれないことくらい分かっている。

けれど、ロイは美しい翡翠のような瞳からは逃げられないことに気づいた。寧ろ、捉えられたい。捉えてもらう為に手を伸ばした。

それに予感がした、翡翠のような瞳は何かを教えてくれると。
ロイが知らない何かを。
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