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7 ロイの出自
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ロイはマクレナン侯爵の弟であるグルーバー子爵の落胤。結婚が控えているというのに、子爵はメイドに手をつけ孕ませてしまったのだ。ロイとその母であるアリエルの存在は輿入れしてくる令嬢に知られる訳にはいかないと子爵が泣きついたのが兄であるマクレナン侯爵だった。
グルーバー子爵位とはマクレナン侯爵家の持つ爵位の一つ。領地のないただ貴族というだけの爵位だった。その為、当時の侯爵はグルーバー子爵となった次男にそれなりの金を持たせた。投資や事業を行い、金を生み出せと。しかし、グルーバー子爵はそのどちらにも秀でていなかった。当然、金は無くなっていく。そんな折、新たな事業付き持参金と共に嫁いで来ることになったのが、アーミテージ子爵家の長女、クレアだった。
グルーバー子爵にとってクレアは大切な金蔓。クレアに臍を曲げられ婚姻に関わる条件の変更などあってはならない。その為、結婚前にアリエルとロイの存在などクレアに知られる訳にはいかなかったのだった。
侯爵は弟の出来を理解していた。クレアが嫁いで来なければグルーバー子爵家はマクレナン侯爵家の金に集る害虫にしかならない。そこで侯爵は弟を思いやる兄の顔をし助けたのだった。当然、助けたのは表向きで、手に入れた駒を今後どのように使うか考えながら。
困ったことに、何かあったら弟を突き放す為の切り札にしようと考えていたアリエルは美しい女だった。兄弟だから趣味が似る等ということではなく、たとえ弟の手付きでも惹かれてしまう程。
そこで、侯爵は直様アリエル達を王都の商業区の一角にあるアパートメントに住まわせた。人を隠すなら、人の中というセオリー通りに。出産後、ロイの育児の為に外出し辛いアリエルの元へは必要なものを届けるよう手配もした。その点でも商業区は便利で、物も配達人も時間制の掃除員も簡単に手配出来る。親切に見えるが、侯爵の狙い通りアリエルは外との繋がりが断たれた。やって来る配達人の女性も掃除の女性も侯爵の息が掛かった人物だったのだから当然だ。
そしてロイが深い眠りについている時、今までの親切から侯爵を信頼してしまっていたアリエルは簡単に組み敷かれてしまったのだった。
「そろそろお前とわたしが何をしているのか、息子も理解するのではないか」
「…」
「声を聞かせないよう、外で遊ばせておくのも危険だしな。アリエル、ロイが侯爵家の使用人となるべく教育を施してあげようではないか。食事も着るものもある。ここでまともな教育も受けず読み書きが出来ないよりは良いだろう。まあ、お前次第だ」
グルーバー子爵家には、娘が二人産まれたが男児は出来ていない。
「子爵夫人がロイの存在を知ったら生かしておくか怪しいものだ」
庶子とはいえ、男であるロイは子爵には価値あるものだ。しかし、子爵夫人にとっては自分の大切な娘の存在を脅かす存在。今後必ず男児が産まれるかの保証もない。
「侯爵家で使用人見習いから叩き上げられる方が安全なのは分かるだろう。いくら弟の嫁とはいえ、勝手に侯爵家には入って来れない」
侯爵は言葉巧みにアリエルから六歳になったばかりのロイを取り上げたのだった。それが双方にとって互いの足枷になるだろうことを見越して。大切なロイの為に自分の出来ることはなんでもしようとする母、アリエル。いつかその思いを汲み取って、アリエルの為ならば侯爵家のどんな仕事でもするようになるロイ。
侯爵にとってアリエルの体を貪る楽しみが無くなる頃には、ロイが役に立つようになっているはずだった。
グルーバー子爵位とはマクレナン侯爵家の持つ爵位の一つ。領地のないただ貴族というだけの爵位だった。その為、当時の侯爵はグルーバー子爵となった次男にそれなりの金を持たせた。投資や事業を行い、金を生み出せと。しかし、グルーバー子爵はそのどちらにも秀でていなかった。当然、金は無くなっていく。そんな折、新たな事業付き持参金と共に嫁いで来ることになったのが、アーミテージ子爵家の長女、クレアだった。
グルーバー子爵にとってクレアは大切な金蔓。クレアに臍を曲げられ婚姻に関わる条件の変更などあってはならない。その為、結婚前にアリエルとロイの存在などクレアに知られる訳にはいかなかったのだった。
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そこで、侯爵は直様アリエル達を王都の商業区の一角にあるアパートメントに住まわせた。人を隠すなら、人の中というセオリー通りに。出産後、ロイの育児の為に外出し辛いアリエルの元へは必要なものを届けるよう手配もした。その点でも商業区は便利で、物も配達人も時間制の掃除員も簡単に手配出来る。親切に見えるが、侯爵の狙い通りアリエルは外との繋がりが断たれた。やって来る配達人の女性も掃除の女性も侯爵の息が掛かった人物だったのだから当然だ。
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「そろそろお前とわたしが何をしているのか、息子も理解するのではないか」
「…」
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グルーバー子爵家には、娘が二人産まれたが男児は出来ていない。
「子爵夫人がロイの存在を知ったら生かしておくか怪しいものだ」
庶子とはいえ、男であるロイは子爵には価値あるものだ。しかし、子爵夫人にとっては自分の大切な娘の存在を脅かす存在。今後必ず男児が産まれるかの保証もない。
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侯爵は言葉巧みにアリエルから六歳になったばかりのロイを取り上げたのだった。それが双方にとって互いの足枷になるだろうことを見越して。大切なロイの為に自分の出来ることはなんでもしようとする母、アリエル。いつかその思いを汲み取って、アリエルの為ならば侯爵家のどんな仕事でもするようになるロイ。
侯爵にとってアリエルの体を貪る楽しみが無くなる頃には、ロイが役に立つようになっているはずだった。
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*ご訪問ありがとうございました*
長い間更新しませんで…申し訳ございませんでした。感想をいただいていたのに、漸く気付き心を入れ替えようと思ったところです。
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