年に一度の旦那様

五十嵐

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1 春の訪れ

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「春が来たのね~」
この邸の女主人であるレイチェルがのほほんと呟いた一言に、手紙を差し出したこの邸を取り仕切る執事のロイは苦い顔をする。
そして一言。
「左様でございますね」
「大変だと思うけれど準備をお願いね。。」
「畏まりました」

レイチェルはもうすぐ二十二歳となる、マクレナン侯爵家長男の妻だ。十八歳で結婚したが、その間この地を出たことがない。社交シーズンですら。代わりに年に一度、夫であるノア・マクレナンがこの地へやって来る。

ー レイチェルの誕生日を祝うかのように ー

ノアの日程は、これまた恒例で三泊四日。
レイチェルが言った準備とは、当然ノアを迎えることも指すのだがもう一つ重要なことがある。邸の動線の管理だ。レイチェルはノアの滞在中、その視界に入らないよう過ごす必要がある。普段は手入れが行き届いた過ごし易い小さな邸だが、文字通り広さはない。だからこそ、ノアの行動を知り上手く過ごさなくては、うっかり視界に入ってしまう恐れがあるのだった。

そもそもどうして元コリンス伯爵家長女であるレイチェルがこんな寂しいところに幽閉のように閉じ込められているのか。
十六歳でデビュタントボールに参加し、成人となったレイチェルをノアが見初めて美しさのあまり閉じ込めたなどということはない。伯爵家で先妻の子であるレイチェルは厄介払い同然でマクレナン侯爵家に嫁がされただけだった。
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