46 / 90
45 変わらない
しおりを挟む
「かおるさん、いらっしゃい。」
インターフォンからは前回同様、奏絵の明るい声が響いた。
そしてその声は、不思議とかおるに先週のことが奏絵の意思だと気付かせた。
今なら分かる、奏絵は先週意図的に大河ではなく大地を指名したのだ。
二人の性格、言動を知る奏絵なら理由は簡単に後付け出来る。話の流れを上手く誘導しつつも、自然な流れで奏絵の意思を通したということだ。
そして、大地はあの時それに気付いていた。奏絵が何を望み自分がどうすべきかも。
思い返してみると、自分の家のことを大地はとても冷静に客観的に話してくれた。恐らく、運転中に思いついたのではなく、奏絵の意思を汲み取った瞬間から話す内容をまとめていたのだろう。
では、大地に若林家のことを伝えさせ、次に奏絵は何を望んでいるのだろうか。
大地の話通りなら、一番大切な息子である恭祐に仕えるかおるに一体何を。
「中へどうぞ。今日は和菓子教室よ。」
玄関まで出迎えに来てくれた奏絵の笑顔は前回と同じものだった。
大地が言った、ただ知って欲しいというのはこういうことなのかも知れない。知ったからと言って何も変わらない、むしろそのままであり続けるという。
奏絵は大地がかおるに何かを話したことは分かっていても、内容の報告までは求めていないのが窺える。
それは大地の考えを尊重していると同時に信用していることの表れ。
かおると恭祐の間に生まれなかった信用があるということだ。どうしてまたどうにもならないことを考えてしまうのかと落ち込む心を奮い立たせる為に、かおるは奏絵に質問した。
「和菓子、ですか?」
「まずは、中に入ってちょうだい。」
聞いただけ、知っただけ。それだけのことなのだから、かおるも前回同様に振る舞えばいいのだろう。これが、正解なのかもしれない。
先週同様リビングに通されると、そこにはこれまた先週同様フィンガーフードと紅茶がテーブルの上に並んでいる。
これらはかおるが出した答えが正しかったと裏付けているようだった、何も変わる必要はないという。
「どうぞ、召し上がって。今日はこれから和菓子作りを頑張ってもらわないといけないから、たくさん食べてね。それと、先週は、大丈夫だったかしら、お洋服。どこか汚れなかった?」
「いえ、特に。」
「今日は粉をたくさん使うから、これに着替えてちょうだい。ついでにかおるさん用のエプロンも用意したから、付けてみて。」
「…あの、」
「着替える場所は後で案内するから、まずはお腹を満たしてね。」
「違うんです。こんなにまでしていただいたら、」
「楽しかったわ、女の子のお洋服選ぶの。やっぱり気に入ってもらえなかったかしら…」
「いえ、そんなことは、」
「じゃあ、この話はここまで。みんなが喜べばいいのだから。それより、何か良いことあった?肌の色も艶もとってもいいわ。」
「えっ、良いことですか?…特には。」
「そうなの?残念。肌は正直だから、良い事があったのかと思ったのに。」
寝不足なのに、肌艶がいいなんて…考えるまでもなく、昨日のことが影響しているのだろう。女として今までに経験したことのない刺激が。
もしかして、恭祐にも何か感じ取られたのだろうか。いや、恭祐がかおるの変化に気付くことなどあるはずがない。
かおるはすぐにそう結論付けた。どんな会話をしていても、恭祐のことを考えてしまう癖が捨てられない自分に呆れながら。
インターフォンからは前回同様、奏絵の明るい声が響いた。
そしてその声は、不思議とかおるに先週のことが奏絵の意思だと気付かせた。
今なら分かる、奏絵は先週意図的に大河ではなく大地を指名したのだ。
二人の性格、言動を知る奏絵なら理由は簡単に後付け出来る。話の流れを上手く誘導しつつも、自然な流れで奏絵の意思を通したということだ。
そして、大地はあの時それに気付いていた。奏絵が何を望み自分がどうすべきかも。
思い返してみると、自分の家のことを大地はとても冷静に客観的に話してくれた。恐らく、運転中に思いついたのではなく、奏絵の意思を汲み取った瞬間から話す内容をまとめていたのだろう。
では、大地に若林家のことを伝えさせ、次に奏絵は何を望んでいるのだろうか。
大地の話通りなら、一番大切な息子である恭祐に仕えるかおるに一体何を。
「中へどうぞ。今日は和菓子教室よ。」
玄関まで出迎えに来てくれた奏絵の笑顔は前回と同じものだった。
大地が言った、ただ知って欲しいというのはこういうことなのかも知れない。知ったからと言って何も変わらない、むしろそのままであり続けるという。
奏絵は大地がかおるに何かを話したことは分かっていても、内容の報告までは求めていないのが窺える。
それは大地の考えを尊重していると同時に信用していることの表れ。
かおると恭祐の間に生まれなかった信用があるということだ。どうしてまたどうにもならないことを考えてしまうのかと落ち込む心を奮い立たせる為に、かおるは奏絵に質問した。
「和菓子、ですか?」
「まずは、中に入ってちょうだい。」
聞いただけ、知っただけ。それだけのことなのだから、かおるも前回同様に振る舞えばいいのだろう。これが、正解なのかもしれない。
先週同様リビングに通されると、そこにはこれまた先週同様フィンガーフードと紅茶がテーブルの上に並んでいる。
これらはかおるが出した答えが正しかったと裏付けているようだった、何も変わる必要はないという。
「どうぞ、召し上がって。今日はこれから和菓子作りを頑張ってもらわないといけないから、たくさん食べてね。それと、先週は、大丈夫だったかしら、お洋服。どこか汚れなかった?」
「いえ、特に。」
「今日は粉をたくさん使うから、これに着替えてちょうだい。ついでにかおるさん用のエプロンも用意したから、付けてみて。」
「…あの、」
「着替える場所は後で案内するから、まずはお腹を満たしてね。」
「違うんです。こんなにまでしていただいたら、」
「楽しかったわ、女の子のお洋服選ぶの。やっぱり気に入ってもらえなかったかしら…」
「いえ、そんなことは、」
「じゃあ、この話はここまで。みんなが喜べばいいのだから。それより、何か良いことあった?肌の色も艶もとってもいいわ。」
「えっ、良いことですか?…特には。」
「そうなの?残念。肌は正直だから、良い事があったのかと思ったのに。」
寝不足なのに、肌艶がいいなんて…考えるまでもなく、昨日のことが影響しているのだろう。女として今までに経験したことのない刺激が。
もしかして、恭祐にも何か感じ取られたのだろうか。いや、恭祐がかおるの変化に気付くことなどあるはずがない。
かおるはすぐにそう結論付けた。どんな会話をしていても、恭祐のことを考えてしまう癖が捨てられない自分に呆れながら。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
雨宮課長に甘えたい
コハラ
恋愛
仕事大好きアラサーOLの中島奈々子(30)は映画会社の宣伝部エースだった。しかし、ある日突然、上司から花形部署の宣伝部からの異動を言い渡され、ショックのあまり映画館で一人泣いていた。偶然居合わせた同じ会社の総務部の雨宮課長(37)が奈々子にハンカチを貸してくれて、その日から雨宮課長は奈々子にとって特別な存在になっていき……。
簡単には行かない奈々子と雨宮課長の恋の行方は――?
そして奈々子は再び宣伝部に戻れるのか?
※表紙イラストはミカスケ様のフリーイラストをお借りしました。
http://misoko.net/
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
昨日、課長に抱かれました
美凪ましろ
恋愛
金曜の夜。一人で寂しく残業をしていると、課長にお食事に誘われた! 会社では強面(でもイケメン)の課長。お寿司屋で会話が弾んでいたはずが。翌朝。気がつけば見知らぬ部屋のベッドのうえで――!? 『課長とのワンナイトラブ』がテーマ(しかしワンナイトでは済まない)。
どっきどきの告白やベッドシーンなどもあります。
性描写を含む話には*マークをつけています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる