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王宮では57

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修道院へ行ったのはスカーレットのバザー運営手腕を今更ながら辿る為。しかしアルフレッドが辿ることになったのそれだけではなかった。
スカーレットが孤児院の子供達に対し行っていたこと。そして未来の王になるアルフレッドの為にしていたことまで知ってしまった。貴族学院で一方的に追い詰め続けたアルフレッドにどうしてそこまで出来たのか。その疑問にスカーレット本人から答えてもらえる日がやって来るのかは分からない。けれど、その日が来ることを願いながら、アルフレッドは問いだけではなくスカーレットが喜ぶ報告も出来るよう今は最善を尽くすしかない。

ジョイスの置き土産であるアルフレッドの知らないスカーレットの活動報告。どうして一つしか置いていかないのかと多少腹立たしく思ったが、これで良かった。教えてもらうのではなく、アルフレッドが自ら知る努力を続けなければならない。そして、今回の様にスカーレットが如何にアルフレッドのことを考えていたのかも気付かなくては。それを今後何度アルフレッドは繰り返すのだろうか。分かるのはそれと同じ回数、後悔と反省をするであろうこと。けれどアルフレッドには立ち止まる暇はない。

「明日の午後、孤児院の子供達に焼き菓子が届くよう手配してくれ。予算はわたし個人のもので。出来れば王都に暮らす子供達が手に入れられる…、否、手紙を直ぐに書くから、キャストール侯爵家へ行って侯爵令嬢がどのようなものを孤児院に差し入れていたか確認して同じものを調達してくれ」

アルフレッドは修道院へ同行していた事務官に菓子の手配を依頼した。
子供は正直だ。最初にスカーレットをお姫様みたいに綺麗なお姉ちゃんと表し、話を進めるうちにクリスタルと区別する為お姫様と呼ぶようになっていた。スカーレットだって修道院へお忍びで行った時にはドレスではなくワンピースだったはず。それなのに、クリスタルにはお姫様なのかとは聞かなかった。
子供が本能的にお姫様だと思っているスカーレットと同じ菓子を渡す方がきっと喜ばれる。そう思いアルフレッドは侯爵家の者に教えて欲しい旨の手紙を書くことにしたのだった。

「どうせなら一度で済むよう石けんに関しても尋ねるとしよう」
「殿下、そちらは不要です。修道院で実物を確認しておきました。ラベンダーの精油が入った石けんで、キャリントン侯爵領で作られているものでした」

同行した事務官はキャリントン侯爵家の派閥に属する家門の者だ。だから包み紙を見ただけで分かったのだろう。どうやらこの事務官も言葉にしないものの、スカーレットのバランス感覚に気付いたようだ。キャストール侯爵家の娘が敢えてキャリントン侯爵領で作られた物を納入していたという事実に。

「ところで殿下、あのように一人のご令嬢を王宮に招くようなことを言ってしまい大丈夫だったのでしょうか。変に勘違いされたら」
「その心配は不要だ。彼女がわたしを訪ねる為の理由は出来上がらないと分かっている」

事務官はアルフレッドの言葉を不思議に思いながら『承知いたしました』とだけ言い執務室を去ったのだった。
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