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王都とある修道院13 クリスタルの唯一の日
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この詰まらない毎日の中でクリスタルが唯一楽しみにしていた日が漸くやって来た。アルフレッドが馬車から降りて、その姿を目にした時にクリスタルの心は喜びで震えた。
数日前のことだった、クリスタルが修道院長に呼ばれたのは。そこでアルフレッドが訪問する日時を知らされたのだ。更に、当日修道院長と共にアルフレッドをアテンドして欲しいと言われた。それはそうだろう、今この修道院にいる貴族の娘で最も爵位が高くエレガントに振る舞えるのは自分しかいないとクリスタルは思った。場所柄華美な装いが出来なくても、持って生まれた美しさがあるのだからアルフレッドのアテンド役に選ばれて当然だと。
クリスタルは体に染み付いた貴族女性としての美しい所作でアルフレッドの視線を奪う為に、最上級の礼をして見せた。修道院長を含め、周囲の修道女は皆修道服に身を包んでいるのだ、仮令ワンピース姿でもこれだけの淑女の礼を行えばクリスタルは名前の通りアルフレッドに光り輝いて見えることだろう。
しかしアルフレッドの反応はクリスタルが思い描いたものとは違っていた。クリスタルはお芝居の様に、二人の視線がぶつかり暫し見つめ合うことを期待していたというのに。
修道院長の言葉にアルフレッドは礼を伝えると、先ずはバザーの安全と成功を祈る為に礼拝堂へ行きたいと言ったのだ。クリスタルへ特別な言葉を掛けることなく。特別といかないまでも、貴族学院で同じ学年だったのだ、せめて久し振りを表す何らかの言葉があってもいいようなものを。まるで視界にすら入っていないかのように、アルフレッドはクリスタルの前を修道院長と共に過ぎていった。
これでは困る、クリスタルはそう思わずにはいられなかった。貴族学院で時間を共に過ごし、アルフレッドから声を掛けてもらえるクリスタルでなければならないというのに。しかし、声をこちらから掛けるわけにはいかず、クリスタルは着飾りもしていない修道服姿のもう一人の修道女と共にアルフレッド一行の後を付いて行くしかなかった。そして礼拝堂に到着すると修道院長から建物の説明がなされた後中へと進んだった。
そこでもクリスタルは大勢の中の一人。アルフレッドが祈りを捧げている間は、護衛の後ろに下がりその後ろ姿を見つめるだけだった。貴族学院での距離感とはまるで違い。しかし、クリスタルはアルフレッドに次ぎここにいる中では特別な存在。だから隣の冴えない修道女のようにその他大勢になどなってはいけない。それを示す為にも、機会を窺い続けそれを逃してはいけないとクリスタルは自分に言い聞かせたのだった。
数日前のことだった、クリスタルが修道院長に呼ばれたのは。そこでアルフレッドが訪問する日時を知らされたのだ。更に、当日修道院長と共にアルフレッドをアテンドして欲しいと言われた。それはそうだろう、今この修道院にいる貴族の娘で最も爵位が高くエレガントに振る舞えるのは自分しかいないとクリスタルは思った。場所柄華美な装いが出来なくても、持って生まれた美しさがあるのだからアルフレッドのアテンド役に選ばれて当然だと。
クリスタルは体に染み付いた貴族女性としての美しい所作でアルフレッドの視線を奪う為に、最上級の礼をして見せた。修道院長を含め、周囲の修道女は皆修道服に身を包んでいるのだ、仮令ワンピース姿でもこれだけの淑女の礼を行えばクリスタルは名前の通りアルフレッドに光り輝いて見えることだろう。
しかしアルフレッドの反応はクリスタルが思い描いたものとは違っていた。クリスタルはお芝居の様に、二人の視線がぶつかり暫し見つめ合うことを期待していたというのに。
修道院長の言葉にアルフレッドは礼を伝えると、先ずはバザーの安全と成功を祈る為に礼拝堂へ行きたいと言ったのだ。クリスタルへ特別な言葉を掛けることなく。特別といかないまでも、貴族学院で同じ学年だったのだ、せめて久し振りを表す何らかの言葉があってもいいようなものを。まるで視界にすら入っていないかのように、アルフレッドはクリスタルの前を修道院長と共に過ぎていった。
これでは困る、クリスタルはそう思わずにはいられなかった。貴族学院で時間を共に過ごし、アルフレッドから声を掛けてもらえるクリスタルでなければならないというのに。しかし、声をこちらから掛けるわけにはいかず、クリスタルは着飾りもしていない修道服姿のもう一人の修道女と共にアルフレッド一行の後を付いて行くしかなかった。そして礼拝堂に到着すると修道院長から建物の説明がなされた後中へと進んだった。
そこでもクリスタルは大勢の中の一人。アルフレッドが祈りを捧げている間は、護衛の後ろに下がりその後ろ姿を見つめるだけだった。貴族学院での距離感とはまるで違い。しかし、クリスタルはアルフレッドに次ぎここにいる中では特別な存在。だから隣の冴えない修道女のようにその他大勢になどなってはいけない。それを示す為にも、機会を窺い続けそれを逃してはいけないとクリスタルは自分に言い聞かせたのだった。
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