オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではございますが~

五十嵐

文字の大きさ
上 下
547 / 656

308

しおりを挟む
食事の後、薫はデズモンドと共にお茶の時間を持った。デズモンドのリクエスト通りとは言い難いが、なんとなく二人きりで。まあ、少し離れたところにリアムとジョイスが向かい合って座りお茶を飲むという不思議な光景はあるものの。

「これから暫く二、三日おきにゲストを迎えるのは大変だろうけど、もし俺が話し相手として息抜きになるのならいつでも呼んで。それはわざわざ夕食への招待でなくていいから」
「ありがとう。優しいのね」
「優しいのは女性にだけ。中でも特別に優しいのは、キャロル、君にだけ」

デズモンドに色気切れの日はないようで、『君にだけ』と見つめられた瞬間に薫は何故か頷き、その雰囲気に当てられるように頬が火照った。離れたところに古くからの友人のリアムがいようとデズモンドはお構いなしだ。

「でも、夕食は約束だから」
「もういいよ、律儀に守らなくて。俺はもう十分約束を守ってもらったと思っているから。それに俺達の関係はあの頃と変わった。だから、これからは友人、出来れば未来を共に歩むかもしれない異性の友人を招くと思って欲しい」

なかなか際どい、そして頷き辛い表現をデズモンドは使ってくる。でも、解釈のしようによってはデズモンドの言葉は事実。何も間違ったことは言っていない。だから薫は正直な言葉で返事をした。

「そうね、あなたとは今以上に良い関係を築き、これから先もずっと付き合っていきたい」

デズモンドは気付くだろう。薫が敢えて友人とは言わず、良い関係という言葉を用いたことを。話の表面だけではなく、その深部まで聞こうとするデズモンドがそのサインを見逃すはずがない。その証拠に、目の前で色気が丁度良い温度で仕上がった。デズモンドの誰をも惑わす瞳に、熱が帯び始めたのだ。これでは折角話をしようと思ったのに、薫はただデズモンドを見つめるだけになりかねない。だから薫は雰囲気を変える為に言葉を絞り出した。

「これからは約束を果たす為ではなく、楽しいひと時を共有する為に食事に招くわね」
「ありがとう。同じ食事にお邪魔するのでも、意味合いが変わるのが堪らなく嬉しいよ。これからは約束を果たす為の義務ではなく、キャロルの気持ちになる」

これもデズモンドが言っていることに間違いはないが、『キャロルの気持ち』と言われると何だか恥ずかしい。実年齢はデズモンドより上な薫なのに、会話は上手くリードされっぱなしだ。けれどもそこに嫌な感じはなく、不思議なドキドキ感があるのが心地良い。このままこういう遣り取りを続けるのも楽しいだろが、薫はデズモンドにこそ聞いてもらいたい内容を話すことにしたのだった。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

【完結】公女さまが殿下に婚約破棄された

杜野秋人
恋愛
突然始まった卒業記念パーティーでの婚約破棄と断罪劇。 責めるのはおつむが足りないと評判の王太子、責められるのはその婚約者で筆頭公爵家の公女さま。どっちも卒業生で、俺のひとつ歳上だ。 なんでも、下級生の男爵家令嬢に公女さまがずっと嫌がらせしてたんだと。 ホントかね? 公女さまは否定していたけれど、証拠や証言を積み上げられて公爵家の責任まで問われかねない事態になって、とうとう涙声で罪を認めて謝罪するところまで追い込まれた。 だというのに王太子殿下は許そうとせず、あろうことか独断で国外追放まで言い渡した。 ちょっとこれはやりすぎじゃねえかなあ。公爵家が黙ってるとも思えんし、将来の王太子妃として知性も教養も礼儀作法も完璧で、いつでも凛々しく一流の淑女だった公女さまを国外追放するとか、国家の損失だろこれ。 だけど陛下ご夫妻は外遊中で、バカ王太子を止められる者などこの場にはいない。 しょうがねえな、と俺は一緒に学園に通ってる幼馴染の使用人に指示をひとつ出した。 うまく行けば、公爵家に恩を売れるかも。その時はそんな程度しか考えていなかった。 それがまさか、とんでもない展開になるなんて⸺!? ◆衝動的に一晩で書き上げたありきたりのテンプレ婚約破棄です。例によって設定は何も作ってない(一部流用した)ので固有名詞はほぼ出てきません。どこの国かもきちんと決めてないです(爆)。 ただ視点がちょっとひと捻りしてあります。 ◆全5話、およそ8500字程度でサラッと読めます。お気軽にどうぞ。 9/17、別視点の話を書いちゃったんで追加投稿します。全4話、約12000字………って元の話より長いやんけ!(爆) ◆感想欄は常に開放しています。ご意見ご感想ツッコミやダメ出しなど、何でもお待ちしています。ぶっちゃけ感想もらえるだけでも嬉しいので。 ◆この物語も例によって小説家になろうでも公開しています。あちらも同じく全5話+4話。

かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました

お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

ロザムンドの復讐 – 聖女を追放した愚か者たちへ

ゆる
恋愛
聖女ロザムンド・エステルは、神聖な力で人々を癒し、王国の希望として崇められていた。だが、王太子レオナルドの誤った決断と陰謀によって、彼女は「偽りの聖女」と断じられ、無慈悲にも追放される。信頼していた人々からの裏切りに絶望しながらも、ロザムンドは静かに決意する――この手で、真実の奇跡を取り戻すのだと。 一方、ロザムンドを失った王国は、偽りの聖女カトリーナを迎えたことで、次第に荒廃していく。民衆の不満は募り、疫病と飢饉が国を蝕く。王太子レオナルドは、やがて自らの過ちを悟り、真実の聖女を取り戻すために旅立つ。彼が再会したロザムンドは、かつての純粋な少女ではなく、自らの運命を受け入れ、覚悟を決めた強き聖女へと生まれ変わっていた――。 「私は、もう二度と誰にも裏切られない――!」 これは、追放された聖女が奇跡を取り戻し、かつての王国に復讐する物語。 後悔と贖罪に苦しむ王太子、かつて彼女を見捨てた貴族たち、偽りの聖女を操る陰謀者たち――彼らすべてが、ロザムンドの復活を前に震え上がる! 果たして、彼女は王国に真実の光を取り戻し、民衆の信頼を再び得ることができるのか? そして、彼女を追放した王太子レオナルドの想いは届くのか――?

婚約破棄で見限られたもの

志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。 すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥ よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。

やり直し令嬢は本当にやり直す

お好み焼き
恋愛
やり直しにも色々あるものです。婚約者に若い令嬢に乗り換えられ婚約解消されてしまったので、本来なら婚約する前に時を巻き戻すことが出来ればそれが一番よかったのですけれど、そんな事は神ではないわたくしには不可能です。けれどわたくしの場合は、寿命は変えられないけど見た目年齢は変えられる不老のエルフの血を引いていたお陰で、本当にやり直すことができました。一方わたくしから若いご令嬢に乗り換えた元婚約者は……。

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

訳ありヒロインは、前世が悪役令嬢だった。王妃教育を終了していた私は皆に認められる存在に。でも復讐はするわよ?

naturalsoft
恋愛
私の前世は公爵令嬢であり、王太子殿下の婚約者だった。しかし、光魔法の使える男爵令嬢に汚名を着せられて、婚約破棄された挙げ句、処刑された。 私は最後の瞬間に一族の秘術を使い過去に戻る事に成功した。 しかし、イレギュラーが起きた。 何故か宿敵である男爵令嬢として過去に戻ってしまっていたのだ。

処理中です...