オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではございますが~

五十嵐

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297 豆乳を飲む隣国

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トビアスが帰国の為ファルコールを去る前日、薫はささやかながら送別会を開くことにした。名前は送別会だが、送るだけではなく再びここで会う為の約束の会でもある。即ちトビアスは本国へ帰った後、再びここへ戻って来るのだ。しかも、次に来る時には物珍しいものを沢山持って。要求したわけでもないのに、そういう気を回してくれるトビアスに薫の好感度が急上昇したのは言うまでもない。だから、送別会は薫にとってトビアスが早くやって来てくれることを心待ちにしているという意味合いが強いものだった。

それに薫は忘れていない。乾燥キノコの大切なプロモーションを。軽くて夏でも問題なく持ち運びが出来る乾燥キノコをトビアスの手土産に持たせることは既に決まっている。上手く行けば、物珍しいもの以外に受注という知らせもトビアスは持って来てくれるだろう。


「キャ、ロル、君達はこの状態でこれを?」
この日、薫は送別会に向けピザ用の具材として夏野菜を調達していた。その中にはデズモンドに試験的に作ってもらっている『大粒枝豆が出来る大豆』があったのだが…。それがトビアスの目に留まったのだ。

「塩ゆでするだけでも美味しいのだけれど、今日はこれをピザの具材の一つにするのよ。ファルコールの美味しいチーズとも相性がいいはずだわ」
前世の薫はとろけるチーズに枝豆をまき、それをパリパリに焼いて食べるのが好きだった。だからピザの具材としてもいけるだろうと考えたのだ。しかしそんな薫のワクワク感を他所にトビアスは怪訝顔。

「トビーはこの豆が嫌い?」
「そういう訳ではなく、食べたことがないんだ。自分の国ではこれは飲むものだから」
「これを飲む?」

話が上手くかみ合わない二人を見て、サブリナが助け舟を出してくれた。

「キャロル、トビーの国では乾燥したこの豆を茹でて濾してから飲み物にするのよ。この豆は一房に2~4粒入るでしょう、それが縁起の良いことだとされて好まれているわ」
「縁起が良い?」
「ええ、女性が産む子供の数よ」

サブリナが出産の話題を何の抵抗もなくしてくれたことに薫は安堵しつつも、隣国では豆乳を縁起物として飲む習慣があることに驚いた。話を聞く限り飲むだけで、味噌や醤油といった加工品はないようだが。それに味噌や醤油や枝豆にばかり気が行っていたが、豆乳は薫にとり盲点だった。よくよく思い出せば、確か醤油メーカーが豆乳製品を出していたはず。豆腐そのものはにがりの存在がどうなっているのか分からないだけに直ぐには無理だろうが、豆腐擬きというか台湾の朝食のおぼろ豆腐みたいなものはイケるはずだ。バーデンバーデンで朝食におぼろ豆腐を食べる習慣はない可能性の方が高いが、ここはファルコール。だったら試してみようと薫は思ったのだった。

豆乳を作るには、大豆と水は一対五だったはず。問題は時間。午前中から水につけて間に合うかだ。駄目だったら、明日の朝食にすればいいと薫はジョイとハーヴァンに大豆の調達を依頼したのだった。どういう豆か分からなければ、デズモンドのところへ一度向かうようにと伝え。
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