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296 具体的に動き出すトビアスの事業
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ノーマンより先にファルコールの館へ戻ってきたのはトビアス。出かけた先は隣国と言ってもケレット辺境伯領、山さえ越えてしまえば目と鼻の先なのだから寧ろ予定よりも随分時間が掛かったと言える。
しかしそれには理由があった。
「良かったわね、トビアス。伯父様も平和な世の中に、自領に鍛冶屋が多すぎることを気にされていたのね」
トビアスはケレット辺境伯領で、なんと馬車鉄道のレールモデルが出来上がるのを待ったのだった。簡単な見本を作成しそれを隣国の公爵家に送る為に。
「鍛冶屋だけでなく、抱える騎士の多さにも。だからこちらのキャストール侯爵家同様、街道、行く行くは馬車鉄道の安全を管理する業務を請け負いたいのだろう。そうすれば、騎士として他領にも堂々と駐在し国の安全の為の情報をしっかりと把握することが出来るだろうから」
トビアスの話を逸早く進めることで、ケレット辺境伯領が持つ人的能力等を有効に使えるとケレット辺境伯は考えたようだ。そこで、最初はトビアスの計画書の写しを隣国の二つの公爵家へ送ることになったのだが、どうせなら馬車鉄道のレールモデルも作ることになったそうだ。井戸の水が滑車で以前より楽に汲めるのは事実だが、それが馬車鉄道に応用出来るかは分からない。机上の空論にならない為にも、簡単でいいから目に見えるサンプルがあったほうがいいだろうということになったそうだ。
「簡単でいいとケレット辺境伯は言ったけれど、鍛冶職人達は自分達の仕事に誇りがあるから」
「伯父様と鍛冶職人達が考える簡単に開きがあったのね」
「その通り。それで、自分はここに、キャ、ロルの元に戻るのが遅れてしまった」
トビアスとスカーレットが楽しそうに話す姿を横目で見ながら、ジョイスはまたもや他者の話す力を羨ましく思った。今までの自分が如何に会話へ工夫を怠っていたのかを思い知らされる。トビアスの家、セーレライド侯爵家は隣国で力を持つ貴族家の一つ。その家の次男のトビアスだって、女性に対しさらっと好意を示すことを忘れない。『あなたの元に帰りたかった』と言うのではなく、二つのことを並べて重くならないようにするとは。しかもトビアスにとっては普段使わない外国語だというのに。ジョイスに母がペンダントを選んだ理由は伝えない方が良いと言った理由が漸く分かった気がする。まあ、既にスカーレットには伝えてしまった後だが。
「ねえ、ジョイ、あちらは二つの公爵家が絡んでくれる。わたし達はあなたの実家と我が家、そしてキャリントン侯爵家が良いと思わない?」
「キャリントン侯爵家?」
「殿下の元婚約者と元側近の家、凄く意味のあることだと思わない?それにテレンスが頑張ったんですもの、だから」
「リプセット公爵家は俺がどうにか出来る。しかし、キャリントン侯爵家となると政治的働きかけをそれなりの人物に頼んだ方がいいだろう。その時にはセーレライド侯爵家の力も。トビアス、この話、更に具体的に煮詰めて新たな計画書を作ろう。それを本国で一度侯爵と話し合ってくれないだろうか」
「分かった。キャ、ロルと離れるのは残念だが、更なる繋がりを持つ為だ、一度国へ戻ろう。良い知らせを持ってくる、それと我が国の日持ちする特産も。キャ、ロル、それまで待っていて」
「ええ、勿論」
トビアスに一度本国へお戻り頂けるのは嬉しいが、スカーレットを喜ばせるモノ、コトを持参してまた戻ってくるかと思うとジョイスの心境は複雑だった。大切なのは、スカーレットが喜ぶことなのだから。
しかしそれには理由があった。
「良かったわね、トビアス。伯父様も平和な世の中に、自領に鍛冶屋が多すぎることを気にされていたのね」
トビアスはケレット辺境伯領で、なんと馬車鉄道のレールモデルが出来上がるのを待ったのだった。簡単な見本を作成しそれを隣国の公爵家に送る為に。
「鍛冶屋だけでなく、抱える騎士の多さにも。だからこちらのキャストール侯爵家同様、街道、行く行くは馬車鉄道の安全を管理する業務を請け負いたいのだろう。そうすれば、騎士として他領にも堂々と駐在し国の安全の為の情報をしっかりと把握することが出来るだろうから」
トビアスの話を逸早く進めることで、ケレット辺境伯領が持つ人的能力等を有効に使えるとケレット辺境伯は考えたようだ。そこで、最初はトビアスの計画書の写しを隣国の二つの公爵家へ送ることになったのだが、どうせなら馬車鉄道のレールモデルも作ることになったそうだ。井戸の水が滑車で以前より楽に汲めるのは事実だが、それが馬車鉄道に応用出来るかは分からない。机上の空論にならない為にも、簡単でいいから目に見えるサンプルがあったほうがいいだろうということになったそうだ。
「簡単でいいとケレット辺境伯は言ったけれど、鍛冶職人達は自分達の仕事に誇りがあるから」
「伯父様と鍛冶職人達が考える簡単に開きがあったのね」
「その通り。それで、自分はここに、キャ、ロルの元に戻るのが遅れてしまった」
トビアスとスカーレットが楽しそうに話す姿を横目で見ながら、ジョイスはまたもや他者の話す力を羨ましく思った。今までの自分が如何に会話へ工夫を怠っていたのかを思い知らされる。トビアスの家、セーレライド侯爵家は隣国で力を持つ貴族家の一つ。その家の次男のトビアスだって、女性に対しさらっと好意を示すことを忘れない。『あなたの元に帰りたかった』と言うのではなく、二つのことを並べて重くならないようにするとは。しかもトビアスにとっては普段使わない外国語だというのに。ジョイスに母がペンダントを選んだ理由は伝えない方が良いと言った理由が漸く分かった気がする。まあ、既にスカーレットには伝えてしまった後だが。
「ねえ、ジョイ、あちらは二つの公爵家が絡んでくれる。わたし達はあなたの実家と我が家、そしてキャリントン侯爵家が良いと思わない?」
「キャリントン侯爵家?」
「殿下の元婚約者と元側近の家、凄く意味のあることだと思わない?それにテレンスが頑張ったんですもの、だから」
「リプセット公爵家は俺がどうにか出来る。しかし、キャリントン侯爵家となると政治的働きかけをそれなりの人物に頼んだ方がいいだろう。その時にはセーレライド侯爵家の力も。トビアス、この話、更に具体的に煮詰めて新たな計画書を作ろう。それを本国で一度侯爵と話し合ってくれないだろうか」
「分かった。キャ、ロルと離れるのは残念だが、更なる繋がりを持つ為だ、一度国へ戻ろう。良い知らせを持ってくる、それと我が国の日持ちする特産も。キャ、ロル、それまで待っていて」
「ええ、勿論」
トビアスに一度本国へお戻り頂けるのは嬉しいが、スカーレットを喜ばせるモノ、コトを持参してまた戻ってくるかと思うとジョイスの心境は複雑だった。大切なのは、スカーレットが喜ぶことなのだから。
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