上 下
526 / 586

296 具体的に動き出すトビアスの事業

しおりを挟む
ノーマンより先にファルコールの館へ戻ってきたのはトビアス。出かけた先は隣国と言ってもケレット辺境伯領、山さえ越えてしまえば目と鼻の先なのだから寧ろ予定よりも随分時間が掛かったと言える。
しかしそれには理由があった。

「良かったわね、トビアス。伯父様も平和な世の中に、自領に鍛冶屋が多すぎることを気にされていたのね」

トビアスはケレット辺境伯領で、なんと馬車鉄道のレールモデルが出来上がるのを待ったのだった。簡単な見本を作成しそれを隣国の公爵家に送る為に。

「鍛冶屋だけでなく、抱える騎士の多さにも。だからこちらのキャストール侯爵家同様、街道、行く行くは馬車鉄道の安全を管理する業務を請け負いたいのだろう。そうすれば、騎士として他領にも堂々と駐在し国の安全の為の情報をしっかりと把握することが出来るだろうから」

トビアスの話を逸早く進めることで、ケレット辺境伯領が持つ人的能力等を有効に使えるとケレット辺境伯は考えたようだ。そこで、最初はトビアスの計画書の写しを隣国の二つの公爵家へ送ることになったのだが、どうせなら馬車鉄道のレールモデルも作ることになったそうだ。井戸の水が滑車で以前より楽に汲めるのは事実だが、それが馬車鉄道に応用出来るかは分からない。机上の空論にならない為にも、簡単でいいから目に見えるサンプルがあったほうがいいだろうということになったそうだ。

「簡単でいいとケレット辺境伯は言ったけれど、鍛冶職人達は自分達の仕事に誇りがあるから」
「伯父様と鍛冶職人達が考える簡単に開きがあったのね」
「その通り。それで、自分はここに、キャ、ロルの元に戻るのが遅れてしまった」

トビアスとスカーレットが楽しそうに話す姿を横目で見ながら、ジョイスはまたもや他者の話す力を羨ましく思った。今までの自分が如何に会話へ工夫を怠っていたのかを思い知らされる。トビアスの家、セーレライド侯爵家は隣国で力を持つ貴族家の一つ。その家の次男のトビアスだって、女性に対しさらっと好意を示すことを忘れない。『あなたの元に帰りたかった』と言うのではなく、二つのことを並べて重くならないようにするとは。しかもトビアスにとっては普段使わない外国語だというのに。ジョイスに母がペンダントを選んだ理由は伝えない方が良いと言った理由が漸く分かった気がする。まあ、既にスカーレットには伝えてしまった後だが。

「ねえ、ジョイ、あちらは二つの公爵家が絡んでくれる。わたし達はあなたの実家と我が家、そしてキャリントン侯爵家が良いと思わない?」
「キャリントン侯爵家?」
「殿下の元婚約者と元側近の家、凄く意味のあることだと思わない?それにテレンスが頑張ったんですもの、だから」
「リプセット公爵家は俺がどうにか出来る。しかし、キャリントン侯爵家となると政治的働きかけをそれなりの人物に頼んだ方がいいだろう。その時にはセーレライド侯爵家の力も。トビアス、この話、更に具体的に煮詰めて新たな計画書を作ろう。それを本国で一度侯爵と話し合ってくれないだろうか」
「分かった。キャ、ロルと離れるのは残念だが、更なる繋がりを持つ為だ、一度国へ戻ろう。良い知らせを持ってくる、それと我が国の日持ちする特産も。キャ、ロル、それまで待っていて」
「ええ、勿論」

トビアスに一度本国へお戻り頂けるのは嬉しいが、スカーレットを喜ばせるモノ、コトを持参してまた戻ってくるかと思うとジョイスの心境は複雑だった。大切なのは、スカーレットが喜ぶことなのだから。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

役立たずの私はいなくなります。どうぞお幸せに

Na20
恋愛
夫にも息子にも義母にも役立たずと言われる私。 それなら私はいなくなってもいいですよね? どうぞみなさんお幸せに。

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

【完結】あなたは知らなくていいのです

楽歩
恋愛
無知は不幸なのか、全てを知っていたら幸せなのか  セレナ・ホフマン伯爵令嬢は3人いた王太子の婚約者候補の一人だった。しかし王太子が選んだのは、ミレーナ・アヴリル伯爵令嬢。婚約者候補ではなくなったセレナは、王太子の従弟である公爵令息の婚約者になる。誰にも関心を持たないこの令息はある日階段から落ち… え?転生者?私を非難している者たちに『ざまぁ』をする?この目がキラキラの人はいったい… でも、婚約者様。ふふ、少し『ざまぁ』とやらが、甘いのではなくて?きっと私の方が上手ですわ。 知らないからー幸せか、不幸かーそれは、セレナ・ホフマン伯爵令嬢のみぞ知る ※誤字脱字、勉強不足、名前間違いなどなど、どうか温かい目でm(_ _"m)

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

処理中です...