オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではございますが~

五十嵐

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293 幸せとは言わず、見てもらいたい

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みんな最終的には幸せになりたい。
デズモンドの言った通りだと薫は思った。

この苦労の先に良いことが待っている。
長い努力が必要だろうけど、いつか報われる。
今は我慢の時だとしても、それが過ぎれば…等と、人は今の状況がどんなに辛くてもその先に良いことがあると信じているから踏ん張れるのかもしれない。その信じるものが一かけらも無くなったら、転がり落ちるだけだ。

薫が自分は結婚しないと思っていたのは、そうなる未来が見えなかったから。いつかこの男に女性関係を清算させれば結婚に辿り着けるという未来への踏ん張りはなかった。だから都合の良い女として転がり落ちた。

では、神の前で誓いあえるような人と教会にいられたなら、薫はどうして誰かを招待するのだろうか…。

「幸せな自分を見てもらいたいから。お父様やダニエル、わたしの周りにいる人に、もう大丈夫だから安心してって言う代わりに、見てもらいたい。誰かに幸せを見せるなんて、傲慢かしら?」
「いいんじゃないかな、それで。その発想でいけば、良い案が出ると思う。見せたいんだろ、見てもらいたいんだろ?じゃあ、どうすればいい?」
「ウエディングドレスだけではなく…、そうだ、今サビィとサラに進めてもらっているあのスタイルに着替えるってどうかしら、ね、ナーサ?」
「あれですね!」
「あれ?」
「前、デズにも見せたでしょ。あなたが贈ってくれたリボンに合わせた格好よ。なんとなくファルコールの雰囲気に合っていると思えない?だからあのスタイルをすることで、ここで結婚したことを見せられるでしょ」

前世の花嫁のお色直し。女性陣はトイレに行く絶好の機会だけれど、タイミングを逃すと新郎新婦の再入場で直ぐに会場に入れてもらえなくなることもあれば、係の人に暗くなっている中席へ行くよう急かされたあれだ。それに…、友人や親戚のおばちゃんが、後でトイレや控室でお色直しのドレスがどうとかと散々辛口批評をする機会を与えるイベントでもある。でも、結婚する当人にとってはそんな辛口批評などどうでもいい。『向日葵の花になりたかったのかしら、それとも妖精?』そんなことを陰で言われようと、その姿を見て心から『ああ、幸せなんだ』と思ってくれる人さえいればいいのだ。そう思う、共にその日を待っていてくれた人がいれば。

「ウエディングドレスで式を挙げて、その後可愛らしく着飾ってガーデンパーティをすれば気兼ねなく食事も出来るでしょ。白くて、腰を絞ったドレスでは食事がし辛いもの」
「あの教会のサイズならば、親しい間柄の者だけのパーティで丁度いいんじゃないかな。でも、雨の場合も考えておかないと」
「そうね」
「そこで一つ提案がある。金は掛かるけど、君の財力なら簡単だと思うよ」

そう言いながら、笑うデズモンドは正しく堕天使の悪巧み顔のよう。まるで誰にでも悪は有っていいと、エロスの天使が説いてくれているように。

ジョイスはその性別を問わず引き込む恐ろしい表情を見ながら、確かに自分がデズモンドと同じことを言っても無意味だと理解した。それに…贈り物が導く結果もここまで違うとは。首に下げ服の下にあるペンダントと、スカーレットを彩る為のリボン。しかもそのリボンはジョイスが未だ見たことのない服装をスカーレットにさせたとは。
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