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王宮では54 ノーマンが運んだもの

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様々なことが判明し、事後処理や同じことを繰り返さない為の手立てを講じたところでどうにもならないことがある。その一つが、貴族学院当時のスカーレットの心を知ること。事実ばかりが分かったところで、それは抜け落ちたまま。最も寄り添うべきだったアルフレッドがあの調子だったのだ、今となってはスカーレット本人しかそれは分かりようがない。だから、この一件に関しては常に何かが欠けているのに、その上に対策が乗せられているとアルフレッドが感じ続けるのは仕方がないことだろう。
そしてスカーレットがファルコールへ向かったと知った日から、アルフレッドからも何かが欠けた。

そんなことをアルフレッドが頭の片隅で考えてしまうくらい、この日の会議の議題はたいしたことのないものばかりだった。その証拠に次期当主候補がちらほら出席している。彼らにとっても、今日は今後を見越し横の繋がりを作る良い機会になることだろう。但し、心にゆとりを持てているならばという前提が必要だろうが。

その次期当主候補一人、ダニエルの様子を窺う為アルフレッドは何気なく視線を動かした。残念ながらダニエルの表情にはゆとりなど感じられない。しかしそれは、ダニエルが最年少で会議に参加しているからではなく、別に理由があるからだ。いつものダニエルなら議題がもう少し難しい内容でもあんな表情を浮かべたりはしない。それは会議前に顔を合わせた時にアルフレッドが感じたことがほぼ正しいということを意味しているのだろう。

態とダニエルがその雰囲気を出したのか、それともアルフレッド自身の他者の表情を読む力が増したのかは分からない。しかしこの分で行けば、アルフレッドはダニエルに希望することを上手く与えられそうだった。

「どうだ、学業と平行しての会議参加は?」
予定時刻よりも会議が早めに終わったことを利用して、アルフレッドはダニエルに声を掛けた。

「時間があるなら、茶でも飲んでいくか」
会議が早く終わった分時間はある。それに王族からの誘いは、特別な理由がない限り断れない。だから、ダニエルの答えは決まっているのだか、それでもアルフレッドが問うた姿勢を見せれば、周囲は勝手に想像する。拗れた王家とキャストール侯爵家との関係改善の為、アルフレッドがそう見せているのだと。

「ありがとうございます」

だから、ダニエルが言うべき言葉は決まっていた。周囲に聞こえるように喜びの言葉を発すればいい、まだ年若い青年貴族らしく。そこは、理解出来るようにはなっているのかとアルフレッドは思いながら執務室へ向かって静かに歩き出したのだった。

執務室に入ると、アルフレッドは侍従に茶を持ってくるよう命ずるとすぐさまダニエルに『それで、何を預かってきた』と質問した。

この会議内容にダニエルを当ててきたこと自体がキャストール侯爵の計算ならば、アルフレッドが言うべきことは決まっている。無駄な駆け引きは不要ということだ。この部屋で二人きりになる時間など限られているのだし。

「これを預かって参りました」

前回キャストール侯爵が持ってきたのはスカーレットからの手紙。だからなのか、アルフレッドとしては期待していた、同じ差出人であることを。しかし、残念ながら差出人にはついこの間までアルフレッドの側近だったジョイスの名が書かれていたのだった。
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