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王都リッジウェイ子爵家2
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サブリナの手紙を持って来たキャストール侯爵家の遣いの者が面会を求めているという執事の言葉に、前リッジウェイ子爵夫妻それぞれに言い様のない不安が過った。
離縁が成立したとはいえ、様々な辛さをサブリナに与え続けた六年という長い月日は直ぐに忘れられるものではない。その中で一筋の光のようだと思わされていたジャスティンという存在が胸に深く刻まれていたことも事実だ。サブリナが不安定な状況にあると考える二人に、不安が募るは当然のことだった。
何より離縁という言葉は残念ながらこの国では、男が突き付け、女は突き付けられる側。だから事実がどうであれ前リッジウェイ子爵夫妻はサブリナの為にオランデール伯爵家からの一方的に浴びせられる言葉を全て受け止めた。サブリナに同じ言葉が向かうよりはこの方が何百、否、何千倍もマシと。しかも理由が理由なだけに、スカーレットやキャストール侯爵が言うようサブリナを王都へは戻さずファルコールに滞在させると最終的決めたのは二人だ。本当は心に大きな傷を負った娘の傍にいたいというのが二人の親としての心情だったにもかかわらず。
前リッジウェイ子爵夫妻二人が受け取りたかったのは、心が落ち着いたというサブリナからの近況報告だけだった。それが、態々遣いの者までやって来るとは…。大なり小なり何か起こったのではないかと思うのは、心配する親として当然のことだった。
「あなたは…」
前リッジウェイ子爵夫人、カルメーラはファルコールの館でスカーレットの傍にいた者の一人が目の前に現れたことでより一層不安が募った。ファルコールにいた、しかもスカーレット付きの者が直接訪ねて来るとはと。
「こちらがサブリナお嬢様からお預かりしてきた手紙です。まずはこちらをどうぞ」
前リッジウェイ子爵、バルラトルはサブリナが自分達を安心させる為に書いた手紙を、目の前の人物が訂正するのだろうかと思いながら封を開いた。即ちそれはサブリナが悪い状況にあるということだ。
そして封から取り出した便箋には、サブリナらしい美しい文字で近況が綴られていた。ファルコールの館で知り合ったサラとはツェルカを交えて服のデザインや、刺繍を楽しんでいると書いてある。それだけではない、今まで行ったこともなかった料理を始めたとも。夫妻がツェルカを迎えに来る時には、特別な一品をサブリナの手で作る予定だから、楽しみにして欲しいという文章のところではバルラトルもカルメーラも目頭が熱くなってしまった。サブリナはこんなことを書いてまで、二人を喜ばせようと、心配はいらないと伝えようとしているのではないかと。
「それで、君が来たということは、何かを伝える為だと思うが…、娘はこの手紙にあるように楽しく過ごしているのだろうか」
「手紙にはサブリナお嬢様がどのようにファルコールの館で過ごしているか記されているのではないかと思います。わたしの口からはこちらに伺う前にあった出来事をお伝えさせて下さい」
やはり態々目の前の人物が来てまで伝えなければならないことがあったのかと夫妻は覚悟した。しかし聞こえてきた内容は腹立たしいものの、サブリナがしっかりと対応したことで過去を過去とし、乗り越えたものだった。
「オリアナはオランデール伯爵家のご令嬢に使われただけですが、彼女の父親の商会へはキャストール侯爵家から正式に抗議致します。オランデール伯爵家との取引で色々あり痛手を負ったようなので、追い打ちを掛けておくべきでしょう。その方が取り込みやすくなる、それがスカーレット様の考えです。オランデール伯爵家には特に何もしませんが、内情はガタガタのようですから様子見で良いかと、領民に被害が出ない限りは」
「ありがとう。サブリナが自ら気持ちに区切る手伝いに、見えない部分へのことも」
「それともう一つ、わたしが本日こちらに伺った理由を…」
それまで淡々と報告をしていた人物が言い淀むとは、やはり悪いことがあるのだろうと二人は次の言葉を待ったのだった。
離縁が成立したとはいえ、様々な辛さをサブリナに与え続けた六年という長い月日は直ぐに忘れられるものではない。その中で一筋の光のようだと思わされていたジャスティンという存在が胸に深く刻まれていたことも事実だ。サブリナが不安定な状況にあると考える二人に、不安が募るは当然のことだった。
何より離縁という言葉は残念ながらこの国では、男が突き付け、女は突き付けられる側。だから事実がどうであれ前リッジウェイ子爵夫妻はサブリナの為にオランデール伯爵家からの一方的に浴びせられる言葉を全て受け止めた。サブリナに同じ言葉が向かうよりはこの方が何百、否、何千倍もマシと。しかも理由が理由なだけに、スカーレットやキャストール侯爵が言うようサブリナを王都へは戻さずファルコールに滞在させると最終的決めたのは二人だ。本当は心に大きな傷を負った娘の傍にいたいというのが二人の親としての心情だったにもかかわらず。
前リッジウェイ子爵夫妻二人が受け取りたかったのは、心が落ち着いたというサブリナからの近況報告だけだった。それが、態々遣いの者までやって来るとは…。大なり小なり何か起こったのではないかと思うのは、心配する親として当然のことだった。
「あなたは…」
前リッジウェイ子爵夫人、カルメーラはファルコールの館でスカーレットの傍にいた者の一人が目の前に現れたことでより一層不安が募った。ファルコールにいた、しかもスカーレット付きの者が直接訪ねて来るとはと。
「こちらがサブリナお嬢様からお預かりしてきた手紙です。まずはこちらをどうぞ」
前リッジウェイ子爵、バルラトルはサブリナが自分達を安心させる為に書いた手紙を、目の前の人物が訂正するのだろうかと思いながら封を開いた。即ちそれはサブリナが悪い状況にあるということだ。
そして封から取り出した便箋には、サブリナらしい美しい文字で近況が綴られていた。ファルコールの館で知り合ったサラとはツェルカを交えて服のデザインや、刺繍を楽しんでいると書いてある。それだけではない、今まで行ったこともなかった料理を始めたとも。夫妻がツェルカを迎えに来る時には、特別な一品をサブリナの手で作る予定だから、楽しみにして欲しいという文章のところではバルラトルもカルメーラも目頭が熱くなってしまった。サブリナはこんなことを書いてまで、二人を喜ばせようと、心配はいらないと伝えようとしているのではないかと。
「それで、君が来たということは、何かを伝える為だと思うが…、娘はこの手紙にあるように楽しく過ごしているのだろうか」
「手紙にはサブリナお嬢様がどのようにファルコールの館で過ごしているか記されているのではないかと思います。わたしの口からはこちらに伺う前にあった出来事をお伝えさせて下さい」
やはり態々目の前の人物が来てまで伝えなければならないことがあったのかと夫妻は覚悟した。しかし聞こえてきた内容は腹立たしいものの、サブリナがしっかりと対応したことで過去を過去とし、乗り越えたものだった。
「オリアナはオランデール伯爵家のご令嬢に使われただけですが、彼女の父親の商会へはキャストール侯爵家から正式に抗議致します。オランデール伯爵家との取引で色々あり痛手を負ったようなので、追い打ちを掛けておくべきでしょう。その方が取り込みやすくなる、それがスカーレット様の考えです。オランデール伯爵家には特に何もしませんが、内情はガタガタのようですから様子見で良いかと、領民に被害が出ない限りは」
「ありがとう。サブリナが自ら気持ちに区切る手伝いに、見えない部分へのことも」
「それともう一つ、わたしが本日こちらに伺った理由を…」
それまで淡々と報告をしていた人物が言い淀むとは、やはり悪いことがあるのだろうと二人は次の言葉を待ったのだった。
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