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キッチンに現れたサブリナを見て、薫は違和感を覚えた。まるで、そう、サブリナも中身が別人になったのではないかと思える程に。昨日、ファルコールで今後取り組みたいことを話してくれたサブリナとは何かが違ったのだ。

イービルは通常、彼らは人間の世界に必要以上に干渉することはないと言っていた。スカーレットに想いを寄せてしまったイービルが例外なのだと。だからイービルがスカーレットに飽きて、サブリナに浮気をしない限り薫のようなことが起こるなんてあり得ない。第一、そんなことこそあり得ないと言い切れるくらいイービルはスカーレットを大切にしている。それにサブリナはしっかり前を向いたばかり。生を手放す理由がない…。でも、それは薫が思うだけで、実はまだ心の中に大きな闇があるのだろうか。

心にモヤモヤする何かはあるが、立ち止まって考えられるほど大所帯の朝食作りに時間的余裕はない。結局表面上はいつもと同じ朝が、朝食の片付けを終わらせるまでは流れていったのだった。

そして薫は考えた。サブリナにジョイスを交えて昨日の話をしてはどうかと今提案すべきか否かを。切っ掛けは何でもいい、サブリナと向かい合う時間はいつでもあると伝えたかったのだ。
ところが、それは別の人物により機会を逸した。しかもこちらはこちらで重要な話のようで、ノーマンが敢えてキャロルとは呼ばず『スカーレットお嬢様にお話しがあります』と話し掛けてきたのだった。

「食堂の片隅よりは、応接室の方がいいかしら?」
話したい内容の重要度合を計る為、薫はノーマンに扉があった方がいいのか確認した。

「はい。応接室で。お茶は俺が用意しますので、十分後くらいにお越し頂けますか」
「分かったわ」

ノーマンがこのファルコールの館に暮らす他の誰かに聞かれたく内容とは何か。キャストール侯爵が大切な娘、スカーレットに付けた者だけに、改めて密室で時間が欲しいと言われてしまうと薫は緊張せずにはいられなかった。ノーマンが少しだけ見せた躊躇うような表情。十分後にはその理由は分かるはず。けれど、待っている間、薫はノーマンが何を話すのか考えずにはいられなかった。


残念ながら薫は十分を待てなかった。ノーマンもそれは予想していたのだろう、薫が応接室に入るとセンターテーブルには既にお茶菓子とティーコゼーに覆われたティーポットが用意されていた。

そして少し早くやっていた薫を迎えてくれたのはノーマンともう一人、サブリナだった。用意されたティーカップの数から、この三人で話をするということだ。ケビンが遅れてやってくることもなければ、昨日町へ一緒に行ったジョイスが合流することもない。応接室をノーマンが要求したということは、いつもの料理に関するちょっとした話し合いでもないだろうし。
では、この三人で何を話すのだろうと思った時だった、ノーマンが深々と薫に頭を下げた。しかも下げた頭をそのままで謝罪の言葉を述べたのだった。

「大変申し訳ございません。前リッジウェイ子爵夫妻からお預かりしているサブリナお嬢様をわたしは傷付けてしまいました」

しかし、不思議なことに傷付けられたサブリナもノーマンと共に頭を下げたのだった。
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