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全ての報告が終わり、薫の中で色々なことが結び付いた。キャストール侯爵家が国境を守る為に、敢えてファルコールか手前の町で最低一泊は滞在しないと隣国へ行けない街道作りをしたことなども説明されたので。
それぞれからの報告を聞く限り、本当に見事な連係プレーだと薫は感じた。オリアナの父の商会で働くキャストール侯爵家の手の者は勿論素性を明かして働いてなどいない。
サブリナ、ノーマン、ジョイスのそれぞれの視点からの報告。そしてケビンの全体像の説明。これらのお陰で薫はサブリナとオリアナの一件以外のことも随分知ることが出来た。
思い返してみれば、デズモンドがファルコールにやって来た時も隣町には午前中に到着し一泊していたはず。馬車でなく馬でやって来た者でもそういう移動になるよう考えられているようだ。そして隣町を巡回している私兵により報告が上げられるようになっている。ジョイスが隣国へ向かう時も隣町に滞在しファルコールを通過したと言っていたが、ケビン達はその報告も受けていたことだろう。キャストール侯爵家は、そういうシステムを作り上げ国境を守ってきたのだ。
陸続きの国境のない国からやって来た薫には、ケビンの説明は本当に興味深いものだった。その内キャストール侯爵家を継ぐダニエルはケビンがしてくれた以上の説明を侯爵から直接受ける日が来ることだろう。それは管理者として、また発展させる者として。国境を抱える領地を持つ貴族の役割は重要且つ大変なものなんだと薫は改めて思ったのだった。
スカーレットの記憶からなんとなく選びやって来たファルコール。けれど、今となっては薫にあの時あった選択肢の中で、限りなく正解に近いものを選べた気がする。
薫がそんなことをしみじみ思っていると、サブリナがこの後少し話せないかと尋ねてきた。恐らくみんなの前では話せない何か、それも女同士で話したいことがあるのだろう。きっとそれはサブリナの中で今日区切りをつけられた何か。話すことで気持ちの整理に役立つならと、薫は『ええ』と頷いたのだった。
そしてサブリナが口にしたことは過去の謝罪と同意。サブリナはファルコールの館にやって来たばかりで気持ちが不安定だった頃に言ってしまった『伯爵家の役立たずを見て、世の中には自分よりもっと不幸な人間がいるって思いたかったの?ねえ、そうなの?』というあの発言を謝罪し取り消したいと薫に伝えたのだった。
「今日、オリアナにアイリスのことを伝えたのは決して悪意からではなかった」
「分かってる、そんなことは」
「そうでしょうね。あなたがあの時わたしに色々言葉を掛けてくれたのも悪意ではないと今は分かるもの。ごめんなさい、あの時は。それにね、あなたが言った今が幸せなら過去が一瞬になって霞むというのも、何となくだけれど、分かり始めた。もっと霞むよう、幸せを掴みたいと思うわ。それでね」
サブリナは幸せを掴む為に、ここで自分のやりたいことに挑戦したいとも薫に伝えたのだった。
「それはジョイのいるところでもう一度話してもらえるかしら。直ぐに検討に入る為に」
「いいの?」
「だって凄くファルコールの為になるもの」
「ありがとう、キャロル!」
「こちらこそありがとう」
笑顔を見せてくれたサブリナを見て、薫はもう大丈夫だと思ったのだった。翌日、キッチンでサブリナの顔を見るまでは。
それぞれからの報告を聞く限り、本当に見事な連係プレーだと薫は感じた。オリアナの父の商会で働くキャストール侯爵家の手の者は勿論素性を明かして働いてなどいない。
サブリナ、ノーマン、ジョイスのそれぞれの視点からの報告。そしてケビンの全体像の説明。これらのお陰で薫はサブリナとオリアナの一件以外のことも随分知ることが出来た。
思い返してみれば、デズモンドがファルコールにやって来た時も隣町には午前中に到着し一泊していたはず。馬車でなく馬でやって来た者でもそういう移動になるよう考えられているようだ。そして隣町を巡回している私兵により報告が上げられるようになっている。ジョイスが隣国へ向かう時も隣町に滞在しファルコールを通過したと言っていたが、ケビン達はその報告も受けていたことだろう。キャストール侯爵家は、そういうシステムを作り上げ国境を守ってきたのだ。
陸続きの国境のない国からやって来た薫には、ケビンの説明は本当に興味深いものだった。その内キャストール侯爵家を継ぐダニエルはケビンがしてくれた以上の説明を侯爵から直接受ける日が来ることだろう。それは管理者として、また発展させる者として。国境を抱える領地を持つ貴族の役割は重要且つ大変なものなんだと薫は改めて思ったのだった。
スカーレットの記憶からなんとなく選びやって来たファルコール。けれど、今となっては薫にあの時あった選択肢の中で、限りなく正解に近いものを選べた気がする。
薫がそんなことをしみじみ思っていると、サブリナがこの後少し話せないかと尋ねてきた。恐らくみんなの前では話せない何か、それも女同士で話したいことがあるのだろう。きっとそれはサブリナの中で今日区切りをつけられた何か。話すことで気持ちの整理に役立つならと、薫は『ええ』と頷いたのだった。
そしてサブリナが口にしたことは過去の謝罪と同意。サブリナはファルコールの館にやって来たばかりで気持ちが不安定だった頃に言ってしまった『伯爵家の役立たずを見て、世の中には自分よりもっと不幸な人間がいるって思いたかったの?ねえ、そうなの?』というあの発言を謝罪し取り消したいと薫に伝えたのだった。
「今日、オリアナにアイリスのことを伝えたのは決して悪意からではなかった」
「分かってる、そんなことは」
「そうでしょうね。あなたがあの時わたしに色々言葉を掛けてくれたのも悪意ではないと今は分かるもの。ごめんなさい、あの時は。それにね、あなたが言った今が幸せなら過去が一瞬になって霞むというのも、何となくだけれど、分かり始めた。もっと霞むよう、幸せを掴みたいと思うわ。それでね」
サブリナは幸せを掴む為に、ここで自分のやりたいことに挑戦したいとも薫に伝えたのだった。
「それはジョイのいるところでもう一度話してもらえるかしら。直ぐに検討に入る為に」
「いいの?」
「だって凄くファルコールの為になるもの」
「ありがとう、キャロル!」
「こちらこそありがとう」
笑顔を見せてくれたサブリナを見て、薫はもう大丈夫だと思ったのだった。翌日、キッチンでサブリナの顔を見るまでは。
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