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267 守る目
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「とっても綺麗…」
「それなら指や手首ではないから邪魔にならないと思って。母上に店を紹介してもらい、俺が選んだ。気に入ってもらえると嬉しい」
ジョイスがペンダントを選んだのは今のスカーレット、即ちファルコールで手を使って生きているキャロルを思ってだ。料理等の作業の時に邪魔にならないよう気遣ってくれたのだろう。
『何か贈ればいい』、ではなく、『何を贈ればいい』かあのジョイスが相手の立場を考えたということだ。
ハーヴァンという従者が居なくなったとはいえ、ジョイスの家は公爵家。いくらでも居る使用人に命じたのではなく、ジョイスが自ら用意した贈り物、それも政治的なことを抜きにしてスカーレットに喜んでもらう為に。薫は複雑に絡む気持ちはさておき、ジョイスの心に対しお礼を先ずは言うことにした。このペンダントは今のスカーレットに対して贈られたものなのだから。
「ありがとう。色もデザインもとっても素敵。大切にするわ」
「普段から身に着けてもらえると嬉しい」
「作業の邪魔にならないようペンダントを選んでくれたのは分かるけど、日常使いにはあまりにも綺麗過ぎて勿体ないわ」
「そんなことはない。普段に使えるよう小さなダイヤモンドを選んだから」
「ダイヤモンド?」
「ああ、アイスブルーダイヤ。小さいけれど輝きが良いものを選んだ。それに、光を幾重にも反射するよう繊細な加工をしてもらった」
随分輝いているので、そうだろうとは思っていたがペンダントに付いていたのはやっぱりダイヤモンだった。それもアイスブルーダイヤ。しかもジョイスは小さいと言ったが、そんなことはない。十分存在感のある小指の爪サイズ大きさだ。公爵夫人が紹介したという宝飾店でジョイスはいくら使ったのやら。
「アイスブルーダイヤなんて、尚更大切にするわ」
「大切にするものが必要なら、もっと大きな石を用意するよ」
「ううん、その必要はない」
「だったら、それを仕舞わず、今から着けて欲しい。いいえ、ご令嬢、どうかわたしにそれを着ける栄誉を与えて下さいませんか?」
改まった物言いをするジョイスはまるで王子様。前世で枯れ気味だった薫には心拍数急上昇案件だ。ひっくり返りそうなぐらいドキドキするのに、あまりにジョイスがはまり役過ぎて頷くことしか出来なかった。
国境沿いの町にいようと、何を着ていようと、序に髪を纏め縛っていなくても、王子様は王子様ということだ。
そして男性から指輪を嵌めてもらうという経験すらなかった薫はうっかりしていた。宝飾品を男性に付けてもらうことがどれだけ緊張するのか知らなかったのだ。王子様のようなジョイスに背後に立たれ、髪をかき分け項を晒すという行為に薫の体は小刻みに震えた。これだったら項に触れられない分、暗殺者に背後に立たれる方がマシなのではないかと思うほど。
ジョイスが器用かそうでないのかは分からない。それに、人がペンダントを着けるのに必要とされる平均時間も。けれど薫はこれだけは確実に言えると思った、『時間の感覚が分からない』と。
その不思議な時間を終わらせてくれたのはジョイス。
恐らくペンダントの留め金に軽く口付けたのだろう、リップ音の後に『これはあなたを守る為の目です』とジョイスは言ったのだった。
**************************
あともう少しで500話になってしまいそうです。お付き合いいただいている皆様には本当に感謝して
おります。ただ、下に下にスクロールするのが面倒ではないかと…。第一部とか二部とか区切りは
ありませんが、続きをあらたに別にしたほうが読みやすいようならお知らせ下さい。
「それなら指や手首ではないから邪魔にならないと思って。母上に店を紹介してもらい、俺が選んだ。気に入ってもらえると嬉しい」
ジョイスがペンダントを選んだのは今のスカーレット、即ちファルコールで手を使って生きているキャロルを思ってだ。料理等の作業の時に邪魔にならないよう気遣ってくれたのだろう。
『何か贈ればいい』、ではなく、『何を贈ればいい』かあのジョイスが相手の立場を考えたということだ。
ハーヴァンという従者が居なくなったとはいえ、ジョイスの家は公爵家。いくらでも居る使用人に命じたのではなく、ジョイスが自ら用意した贈り物、それも政治的なことを抜きにしてスカーレットに喜んでもらう為に。薫は複雑に絡む気持ちはさておき、ジョイスの心に対しお礼を先ずは言うことにした。このペンダントは今のスカーレットに対して贈られたものなのだから。
「ありがとう。色もデザインもとっても素敵。大切にするわ」
「普段から身に着けてもらえると嬉しい」
「作業の邪魔にならないようペンダントを選んでくれたのは分かるけど、日常使いにはあまりにも綺麗過ぎて勿体ないわ」
「そんなことはない。普段に使えるよう小さなダイヤモンドを選んだから」
「ダイヤモンド?」
「ああ、アイスブルーダイヤ。小さいけれど輝きが良いものを選んだ。それに、光を幾重にも反射するよう繊細な加工をしてもらった」
随分輝いているので、そうだろうとは思っていたがペンダントに付いていたのはやっぱりダイヤモンだった。それもアイスブルーダイヤ。しかもジョイスは小さいと言ったが、そんなことはない。十分存在感のある小指の爪サイズ大きさだ。公爵夫人が紹介したという宝飾店でジョイスはいくら使ったのやら。
「アイスブルーダイヤなんて、尚更大切にするわ」
「大切にするものが必要なら、もっと大きな石を用意するよ」
「ううん、その必要はない」
「だったら、それを仕舞わず、今から着けて欲しい。いいえ、ご令嬢、どうかわたしにそれを着ける栄誉を与えて下さいませんか?」
改まった物言いをするジョイスはまるで王子様。前世で枯れ気味だった薫には心拍数急上昇案件だ。ひっくり返りそうなぐらいドキドキするのに、あまりにジョイスがはまり役過ぎて頷くことしか出来なかった。
国境沿いの町にいようと、何を着ていようと、序に髪を纏め縛っていなくても、王子様は王子様ということだ。
そして男性から指輪を嵌めてもらうという経験すらなかった薫はうっかりしていた。宝飾品を男性に付けてもらうことがどれだけ緊張するのか知らなかったのだ。王子様のようなジョイスに背後に立たれ、髪をかき分け項を晒すという行為に薫の体は小刻みに震えた。これだったら項に触れられない分、暗殺者に背後に立たれる方がマシなのではないかと思うほど。
ジョイスが器用かそうでないのかは分からない。それに、人がペンダントを着けるのに必要とされる平均時間も。けれど薫はこれだけは確実に言えると思った、『時間の感覚が分からない』と。
その不思議な時間を終わらせてくれたのはジョイス。
恐らくペンダントの留め金に軽く口付けたのだろう、リップ音の後に『これはあなたを守る為の目です』とジョイスは言ったのだった。
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あともう少しで500話になってしまいそうです。お付き合いいただいている皆様には本当に感謝して
おります。ただ、下に下にスクロールするのが面倒ではないかと…。第一部とか二部とか区切りは
ありませんが、続きをあらたに別にしたほうが読みやすいようならお知らせ下さい。
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