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いつかは過去の行いに対し、けじめをつける為にも謝罪をしなければならないと思っていた。常にそのことは頭にあった。だからなのか、ジョイスはつい呼び止めてしまったスカーレットに、慣れない焦りという感情も手伝いその機会を与えて欲しいと口にしていた。

そしてその機会の前にハーヴァンから重要な話を聞けたことはいい。しかし、それによってジョイスは何をどう謝罪すればいいのか方向性を失ってしまったのだった。

過去の言動、それとも約束されていた未来を奪うことへの加担。どちらも謝ったからといって、過去は無かったことにならないし、いくら待ってもスカーレットが本来歩むはずだった道が現れることもない。ただどうしようも出来ないことに対し、申し訳ないというありきたりな言葉を言うだけだ。

ああ、だからか。
前回公の場で頭を下げる機会を持たせて欲しいといった時に『要りませんわ。下げられても困りますもの』とスカーレットが言ったのは。
あの時のジョイスは公の場で謝罪をすれば、スカーレットが悪かったのではなく、過去が間違っていたと多くの人に伝わると思っていた。それによりスカーレットが噂されていたような女性ではないと理解されるのだと。しかしそれは訂正の為の謝罪。公の場でと言った時点でポーズになってしまっていたのだ。謝罪というより、自分が頭を下げることでそこにいる者達への認識を変えてあげようという上から目線の申し出。しかも、侯爵家のスカーレットは公の場でなされてしまった謝罪は絶対に受け入れなくてはならない。立場的にも、度量が狭いと思われない為にも。
ファルコールで貴族社会とは関係なく暮らすキャロルには、本当にそんな申し出など必要ない。そもそも公の場に出向くこともしたくないだろうから、困るだけだ。

事が明らかになった時にキャストール侯爵が公爵である父の謝罪だけを受け入れたのも、貴族社会においてそうしなければいけなかったから。ジョイスはスカーレットに対し同じことをしようとしていただけ。実に貴族らしい。

では、どうしてスカーレットはその機会を今回は与えてくれたのだろう。考えるまでもない。どこまでも優しいスカーレットはジョイスに心を軽くする機会を与えてくれたのだ。今後ここで働き易いように。しかしそれでは、謝罪はジョイスの為のものであって、スカーレットには何にもならない。それどころか被害を受けたスカーレットに全てを水に流すよう要求するようなものだ。ちょっと肩が触れてしまったからと謝るのとは、あまりにも違い過ぎる。

ジョイスはこの先過去の自分を思い返しては後悔すればいい。それが罪に対する罰だ。しかし、スカーレットが過去を思い返し涙することはあってはならない。実現しなかった未来に絶望を抱くなど以ての外。けれどジョイスの存在自体がスカーレットに辛い過去を思い出させ、やって来なかった未来を連想させてしまう。それなのに、傍にいたいとは矛盾もいいところだ。

どう謝罪したらいいのか分からない。それでもスカーレットから与えられた貴重な時間。ジョイスは上手い言葉や方向性など関係なく、自分の気持ちを伝えることに専念しようと思ったのだった。
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