オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではございますが~

五十嵐

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ハーヴァンがジョイスの要望により話してくれた内容。それは、過去と今を繋ぐ話だった。ジョイスがアルフレッドを中心とした物語の中にいると思っていた時に、そこから押し出されたスカーレットに関する。

悔しいことにスカーレットからその話を引き出したのは、無関係だったからこそ質問出来たトビアス。けれどそれは、これからの関係を築く為にトビアスがスカーレットという人物を知ろうとしたからだ。

「アルの為にキャロルが王都から遠く離れたファルコールにやって来た…か。側妃として召し上げられることを避ける為にも」
「はい。キャロルはお二人の未来を考えながら、予防線を張っていたのだと」
「でも、別の見方も出来ないか?あの時点で二人がいずれ結婚するのだと思っていたなら、キャロルがその仲睦まじい姿を見たくなかったという。側妃になどなって、最も近くで見なければならないことを避けたかったと」

貴族学院内だけではなく、子供の頃からのスカーレットを知るジョイスにはその可能性もあるように思えた。それに過去のスカーレットを無駄にしないよう、今のキャロルが知識などを使うことは回りまわって国の為になる。いつかアルフレッドが治める国の為に。

子供の頃からの十年。それはスカーレットにとって人生の半分以上。だからスカーレットにはアルフレッドに対し様々な想いがあって然りだ。しかし本当のことは、これこそスカーレット本人から聞かなければ正解は誰にも分かりようがない。
事実は確かめなければならない。想像だけでは事実に辿り着かないことは良く分かっている。しかし、そんなデリカシーのないことをジョイスはするつもりはない。それに、ジョイスと同じようなことをトビアスも多少は考えた筈だ。しらばっくれてでもそのことに触れなかったのは、トビアスのスカーレットへの思い遣りだろう。ジョイスの居なかった空間にトビアスにそうさせるスカーレットの表情や声音、そして雰囲気があったということだ。

「過去の俺はどうして…」
「それは俺も思いました。ジョイからたまに聞く話で勝手に傲慢なスカーレット・キャストールを作り上げてしまうとは」
「ハーヴァンにそのイメージを持たせてしまった責任は俺にある。あの頃は誰もがスカーレットの悪い噂を伝播させていた、それが当然のように。だからと言って俺がそうしたことが許される訳ではないが」
「聞いたことを鵜呑みにしていた俺にも問題があった。本来ならば真実かどうか確かめ、その上でジョイに全てを伝えなければならない立場だったのに」
「それはアルフレッドに仕えていた身として俺も同じ。この後改めてキャロルに謝罪する時間を貰っている。その前にハーヴァンの話が聞けて良かった、ありがとう。それと、その後ハーヴァンも交えて今後のことを話し合うことになっている。過去は変えられない。だからキャロルが希望することが少しでも早くより良い状況で実現するよう力を貸してくれ」
「言われなくてもそのつもりです。そうでなければ、俺がここにいる価値はありませんから」


専門分野があり、それをスカーレットに必要とされているハーヴァンすらここにいる為の価値を示そうとしている。キャストール侯爵に何とか雇ってもらいここまでやって来たジョイスとは既に雲泥の差があるように思えるハーヴァンだというのに。

ジョイスは増長しようとする焦りを抑える為に、謝罪の言葉を考えようとハーヴァンと別れ厩舎を後にしたのだった。
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