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トビアス達の感情など気にすることなく、薫としてはしめた感満載で話を続けた。
「そう、無駄。わたしは十年近く、様々なことを学ぶ機会を得た。それは国の未来に役立つようにと。結果的にその必要はなくなってしまったけど、学んだことは頭に入っている。だからキャストール侯爵家の娘としてキャストール侯爵領と領民の為にそれを使いたいと思ったの。ただ何をするにしても、殿下とシシリア様の視界に入ることは避けなければならなかった。だからキャストール侯爵領の中で王都から一番遠いファルコールを選んだ、という流れかしら、簡単に言うと」
本当はスカーレットの記憶の中から良さそうだと思い選んだファルコール。働きづめだった薫には、のんびり過ごせる場所に見えたのだ。それに島国にはない国境の町というのにも憧れてしまった。そして、この世界にやって来たばかりだったせいか変に盛り上がり、国境を守る私兵とのロマンスもあるかもなんて思っていた。序にナーサにも。
「今の流れに、諸事情をわたしの視点で加えると恨み言のようになってしまう。それでも聞きたいようならば、話すけど」
「分かっている。事の次第を関わった人間の一人だけから聞くことが好ましくないことは。しかし、君は話を捏造して誰かの関心を集めたい人間ではないだろうから、教えて欲しい。仮に君がそういうタイプなら、国境の町でこんな風に暮らしていないし、反対側の視点にいた人物の元従者がここにはいないだろう」
「大丈夫、ハーヴァン?わたしはあなたの元主を悪く言うつもりは毛頭ないわ。けれど、感じ方は人それぞれ。わたしがそう思わなくても、あなたがどう思うかは分からない」
「大丈夫です。寧ろあなたの言葉を今まで聞くことがなかったので、教えていただきたい。トビアス様が言う通り、過去のわたしは一方の人物からの話だけしか聞いていないという好ましくない状況でしたので」
薫は王都を出る時のことから再び話し始めた。あの時はいずれアルフレッドとシシリアが結婚するものだと思っていいたのだと。そこに前世で聞いたことがある話を混ぜながら。
「殿下達にとってもわたしが王都から遠く離れたファルコールへ移り住むことは都合が良かったと思う。でも、これはわたし自身を守る為でもあった。十年近く王家から教育を受けてきたのだもの、知り過ぎているからとどこかの離宮に幽閉されることは避けたかったから。そしてもっと避けたかったのは、側妃となるよう命が下されること。あの時点ではシシリア様は学院で成績が良かったことになっていたけれど、それは学院生として。王子妃としては、難しかったはず」
「キャ、ロル、話の腰を折って申し訳ないが、シシリアという女性がこの国の王子が愛した者だとは分かるのだが、少し彼女について補足をして欲しい。どうも、頭の中で話を繋げようにも情報が足りないようで」
「それは…」
薫からシシリアのことをトビアスに話せば事実を言えば言う程、恨み言になってしまう。
「トビアス様、お優しいスカーレット様は彼女の話をし辛いことでしょう。わたしが聞いていた話、そしてスカーレット様がファルコールに移り住んでから分かった事実をお話ししてもよろしいでしょうか」
「ああ、自分としてはより話が分かり易くなればいいだけだ。その女性に関しては誰が話してくれてもいい」
有り難いことに、シシリアに関してはハーヴァンが請け負ってくれた。そして、話される内容にどうやってスカーレットが優しくか弱いシシリアを虐げた令嬢へと印象を作り上げられたのか薫は理解したのだった。
トビアスが言うように、一方からの情報は本当に危険だ。優しいスカーレットからの情報だけでは、話がどんどん拗れていく過程があまりにもソフト過ぎた。
「そう、無駄。わたしは十年近く、様々なことを学ぶ機会を得た。それは国の未来に役立つようにと。結果的にその必要はなくなってしまったけど、学んだことは頭に入っている。だからキャストール侯爵家の娘としてキャストール侯爵領と領民の為にそれを使いたいと思ったの。ただ何をするにしても、殿下とシシリア様の視界に入ることは避けなければならなかった。だからキャストール侯爵領の中で王都から一番遠いファルコールを選んだ、という流れかしら、簡単に言うと」
本当はスカーレットの記憶の中から良さそうだと思い選んだファルコール。働きづめだった薫には、のんびり過ごせる場所に見えたのだ。それに島国にはない国境の町というのにも憧れてしまった。そして、この世界にやって来たばかりだったせいか変に盛り上がり、国境を守る私兵とのロマンスもあるかもなんて思っていた。序にナーサにも。
「今の流れに、諸事情をわたしの視点で加えると恨み言のようになってしまう。それでも聞きたいようならば、話すけど」
「分かっている。事の次第を関わった人間の一人だけから聞くことが好ましくないことは。しかし、君は話を捏造して誰かの関心を集めたい人間ではないだろうから、教えて欲しい。仮に君がそういうタイプなら、国境の町でこんな風に暮らしていないし、反対側の視点にいた人物の元従者がここにはいないだろう」
「大丈夫、ハーヴァン?わたしはあなたの元主を悪く言うつもりは毛頭ないわ。けれど、感じ方は人それぞれ。わたしがそう思わなくても、あなたがどう思うかは分からない」
「大丈夫です。寧ろあなたの言葉を今まで聞くことがなかったので、教えていただきたい。トビアス様が言う通り、過去のわたしは一方の人物からの話だけしか聞いていないという好ましくない状況でしたので」
薫は王都を出る時のことから再び話し始めた。あの時はいずれアルフレッドとシシリアが結婚するものだと思っていいたのだと。そこに前世で聞いたことがある話を混ぜながら。
「殿下達にとってもわたしが王都から遠く離れたファルコールへ移り住むことは都合が良かったと思う。でも、これはわたし自身を守る為でもあった。十年近く王家から教育を受けてきたのだもの、知り過ぎているからとどこかの離宮に幽閉されることは避けたかったから。そしてもっと避けたかったのは、側妃となるよう命が下されること。あの時点ではシシリア様は学院で成績が良かったことになっていたけれど、それは学院生として。王子妃としては、難しかったはず」
「キャ、ロル、話の腰を折って申し訳ないが、シシリアという女性がこの国の王子が愛した者だとは分かるのだが、少し彼女について補足をして欲しい。どうも、頭の中で話を繋げようにも情報が足りないようで」
「それは…」
薫からシシリアのことをトビアスに話せば事実を言えば言う程、恨み言になってしまう。
「トビアス様、お優しいスカーレット様は彼女の話をし辛いことでしょう。わたしが聞いていた話、そしてスカーレット様がファルコールに移り住んでから分かった事実をお話ししてもよろしいでしょうか」
「ああ、自分としてはより話が分かり易くなればいいだけだ。その女性に関しては誰が話してくれてもいい」
有り難いことに、シシリアに関してはハーヴァンが請け負ってくれた。そして、話される内容にどうやってスカーレットが優しくか弱いシシリアを虐げた令嬢へと印象を作り上げられたのか薫は理解したのだった。
トビアスが言うように、一方からの情報は本当に危険だ。優しいスカーレットからの情報だけでは、話がどんどん拗れていく過程があまりにもソフト過ぎた。
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