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ハーヴァンは確かにスカーレット・キャストールを知っていた。しかしそれはハーヴァンが見聞きし、自分の中で作り上げたスカーレット・キャストール。本当にそれで知っていたと言い表すことが出来るのだろうか。しかも、その作り上げられた印象の上に今のキャロルを積み上げてしまっている。
これでは駄目だ。知っていると思い込むのではなく、知ろうとしなければ。
トビアスがみんなの避けていた質問を出来たのは、スカーレットから遠い存在だからだ。それは距離が遠いということではなく、スカーレットを中心に円を描いた時に、離れているという意味で。だからその円では、ジョイスはスカーレットに近くハーヴァンは遠い。付け加えるなら、デズモンドはトビアス並みに遠かった。
皮肉なことに円の中心、スカーレットに近かった者程今は遠い。アルフレッドが良い例だろう。そして家族のダニエルも。けれど、ジョイスはどうにかしてその円を出ようと藻掻いた。
デズモンドがファルコールで暮らすキャロルを簡単に受け入れることが出来たのは遠かったから。ナーサ達もまた、今のキャロルを受け入れるにはそれなりに葛藤があったから、呼び方一つ本人の希望になかなか応えられなかったのだろう。
ハーヴァンはここでトビアスとキャロルが続ける会話を聞くだけで良いのかと自分に問い質した。答えを考えるまでもなく、ハーヴァンもトビアスの様に積極的にスカーレットを知るべきだ。
「スカーレット様、今はそう呼ばせて下さい。わたしはあなたのことを全く違う視点で見ていた方達の側にいました。だから様々な事実が上手く繋がりません。ですので、二度とスカーレット様への理解を間違わない為にも、わたしも知りたいです、どうしてここでキャロルとして暮らすのか」
傍観者になってはいけないというハーヴァンの決心は、言葉になった。しかし、ハーヴァンの決心は薫がこれからしようとしていた説明のハードルを上げるもの。何故働いているのかというトビアスの疑問だけでなく、過去と今が繋がらないというハーヴァンの言葉にも適切に答えなくてはいけなくなってしまったのだ。
けれど考えようによっては、良かったのかもしれないと薫は思った。ここでハーヴァンの疑問にも答えれば、みんなが心の中で思っていることがクリアになるだろうから。
「上手く伝えられるか分からないけれど、トビーとハーヴァンの疑問に答えるわね。先ず、トビーの言う通り。わたしが働く必要はない。でも、それじゃあ詰まらないし、過去のわたしが無駄になってしまうわ」
「無駄?」
薫はこの路線で行けば上手く二人の疑問に答えられるかもしれないと微笑んだ。その表情は薫の満足感から出たものだったが、話し手をしっかりと見つめていた者達、それはトビアスやハーヴァンだけではなく同席していたスコットの心も鷲掴みにするものだった。
これでは駄目だ。知っていると思い込むのではなく、知ろうとしなければ。
トビアスがみんなの避けていた質問を出来たのは、スカーレットから遠い存在だからだ。それは距離が遠いということではなく、スカーレットを中心に円を描いた時に、離れているという意味で。だからその円では、ジョイスはスカーレットに近くハーヴァンは遠い。付け加えるなら、デズモンドはトビアス並みに遠かった。
皮肉なことに円の中心、スカーレットに近かった者程今は遠い。アルフレッドが良い例だろう。そして家族のダニエルも。けれど、ジョイスはどうにかしてその円を出ようと藻掻いた。
デズモンドがファルコールで暮らすキャロルを簡単に受け入れることが出来たのは遠かったから。ナーサ達もまた、今のキャロルを受け入れるにはそれなりに葛藤があったから、呼び方一つ本人の希望になかなか応えられなかったのだろう。
ハーヴァンはここでトビアスとキャロルが続ける会話を聞くだけで良いのかと自分に問い質した。答えを考えるまでもなく、ハーヴァンもトビアスの様に積極的にスカーレットを知るべきだ。
「スカーレット様、今はそう呼ばせて下さい。わたしはあなたのことを全く違う視点で見ていた方達の側にいました。だから様々な事実が上手く繋がりません。ですので、二度とスカーレット様への理解を間違わない為にも、わたしも知りたいです、どうしてここでキャロルとして暮らすのか」
傍観者になってはいけないというハーヴァンの決心は、言葉になった。しかし、ハーヴァンの決心は薫がこれからしようとしていた説明のハードルを上げるもの。何故働いているのかというトビアスの疑問だけでなく、過去と今が繋がらないというハーヴァンの言葉にも適切に答えなくてはいけなくなってしまったのだ。
けれど考えようによっては、良かったのかもしれないと薫は思った。ここでハーヴァンの疑問にも答えれば、みんなが心の中で思っていることがクリアになるだろうから。
「上手く伝えられるか分からないけれど、トビーとハーヴァンの疑問に答えるわね。先ず、トビーの言う通り。わたしが働く必要はない。でも、それじゃあ詰まらないし、過去のわたしが無駄になってしまうわ」
「無駄?」
薫はこの路線で行けば上手く二人の疑問に答えられるかもしれないと微笑んだ。その表情は薫の満足感から出たものだったが、話し手をしっかりと見つめていた者達、それはトビアスやハーヴァンだけではなく同席していたスコットの心も鷲掴みにするものだった。
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