オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではございますが~

五十嵐

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薫は最初に貴族学院で何があったのか、スカーレットの目線で話した。
「勿論これからする話はわたしの目線、元婚約者のアルフレッド殿下や側近のジョイス様、テレンス様が見て感じていたこととは違うという前提で聞いてちょうだい」

事実は一つでも、面白いことに人によって見え方は違う。そこに好意や嫌悪が混じれば尚更のこと。しかも貴族学院ではいいも悪いもなくそれぞれの感情の方向性は決まっていた。抗ったスカーレットが例外に過ぎなかったのだ。しかし、その例外が与える影響は大筋に淘汰されるものではなく、話が着地してからを狂わせた。

「まるで数年を掛けた演劇のようだった。それでも、わたしはその舞台が終わった後、再び本当の現実がやって来てくれるとどこかで信じて、ううん、期待していた。多少予定が変わったとしても」

大筋を知っていたスカーレットは、自分という例外がいるように話が変わることをどこかで信じていた。アルフレッド、ジョイス、そしてテレンスもいつか何かが違うと気付いてくれると心の片隅でいつも願っていたのだ。しかし終わりが近づくにつれ、どんなに抗っても結果が変わることはないと理解し始めた。

「予定とは?」
「アルフレッド殿下が恋したシシリア様を、わたしの侍女として王宮へ連れていくことも考えた。それはわたしが思い描いていた殿下と二人でこの国をより良くしていくとは違ってしまうとしてもね。愛はシシリア様、政治はわたしが担えば良いと…、実は殿下にもそれは伝えたの」

トビアスがつい尋ねてしまった『多少』。しかし返ってきた内容は多少と言えるものではなかった。国を治める為に未来の国王、王妃という立場の二人には多少と考えなければいけないことなのかもしれないが、目の前のキャロルにはそんな言葉で片付けられる問題ではなかったはずだ。長い時間を共に過ごし、二人の関係を築いてきたというのに結婚と同時に夫の愛情は他人へ譲るだなんて。

「もう、みんな、そんな表情を浮かべないで」

薫はその後も出来るだけ淡々と当時のことをスカーレット目線で話し続けた。何をどうしても状況は良くならなかったと。

「殿下が学院生達とはいえ、多くの貴族の前で宣言したことは覆らない。だから、わたしは自分に非がない以上、婚約破棄への違約金を求めたわ。そこには請求額への理由と明確な基準を設けた。あっては欲しくないけれど、今後双方が合意していない一方的な婚約破棄や解消が起きた時の基準になればいいと思ってね」
「君は自分のことすら、そうやって利用する人なんだね」
「わたしという人間を良く見るのならそうでしょうね。でも、お金をしっかり出させることで、わたしに非はないということを証明した狡賢さもあるということよ。しかも、かなり高額の違約金をね」
「だから余計分からなくなる。君が働く必要はないだろう?」

そう、その通り。この後の説明が重要なところだと薫は思った。婚約破棄の直前、本物のスカーレットと薫が入れ替わったことなど話せない以上、ここを上手く伝えなければならない。
スカーレットから渡されたバトンをしっかり握った薫が新たに自身のゴールを目指しているのだと。
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