上 下
455 / 586

247

しおりを挟む
トビアスの三国を結ぶ物流計画。実現すれば大きな利益を生む足掛かりになることは間違いない。何故なら、この国と自国では言語もビジネスに対する考え方も違うせいか、あまり事業での交流が無かったのだ。

しかしセーレライド侯爵家はオランデール伯爵家と既に数年取引を行ってきたことで、それなりに情報を蓄積してきた。商業法や、輸送費に対する考え等を。
たった一貴族との取引で得る情報は少ないが、そこから周辺のことを知るには『輸送』は丁度良かった。オランデール伯爵家は輸送に出入りの商家を使っていたが、セーレライド侯爵家は違う。出入りの商家という点では同じだが、そこに侯爵家の手の者もしっかり紛れ込ませていたのだ。

その者から時折書類を確認する為にオランデール伯爵家からやって来る女性がいると聞いていた。しかもその女性は言葉や書類作成能力に長けていて、取引に穴など開かないよう取り計らっていると。
折角この国を公式に訪問することになったのでその女性に会ってみたいと思っていたが、まさかファルコールで会うことになるとはキャストール侯爵家へ向かうまでトビアスは全く予想もしていなかった。

それだけではない、キャリントン侯爵の腹心と呼ばれるデズモンド・マーカム子爵までいるとは。しかも昨夜の様子からするに、マーカム子爵はトビアスを心から歓迎などしてくれていない。表情は男性でも恋に落ちてしまうのは仕方がないと思えるほどキラキラしいが。
序に厩舎の案内を快く引き受けている体を取っているこの男も。

「この三頭は駿馬です。と言っても内二頭は療養中のようなものですが。そして、その内もう一頭やって来ます。そしてこちらの二頭は隣国のケレット辺境伯領から来た山岳用の馬。脚の太さが全く違うのが見て取れると思います。これらは皆雌雄ですから、これから繁殖を目指すつもりです。医師のスコットさんは馬の出産も対応出来るので、繁殖に際しては力を借りれます」
「この山岳用の馬がこれから増える予定は?自分の計画ではこの山越えが輸送ルートにおける一番の問題だと思っています」
「ファルコールの馬も足が太めなガタイの良いタイプですので、山越えは問題ありません。今もキャストール侯爵領から隣国のケレット辺境伯領までの定期馬車の運行はこの馬達が担っています。それにその警備はキャストール侯爵家の私兵が。まあ、キャストール侯爵領とケレット辺境伯領間では既に輸送体制は出来上がっているようなものです」

人当たりの良さそうな顔で馬について説明するハーヴァンが言った最後の言葉は、もう出来上がっていることだからおまえは不要だと言っていると受け取るのが正解なのだろうかとトビアスは考えながら注意深く馬の脚を見た。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

役立たずの私はいなくなります。どうぞお幸せに

Na20
恋愛
夫にも息子にも義母にも役立たずと言われる私。 それなら私はいなくなってもいいですよね? どうぞみなさんお幸せに。

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

あなたの妻にはなりません

風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。 彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。 幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。 彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。 悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。 彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。 あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。 悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。 「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

「きみは強いからひとりでも平気だよね」と婚約破棄された令嬢、本当に強かったのでモンスターを倒して生きています

猫屋ちゃき
恋愛
 侯爵令嬢イリメルは、ある日婚約者であるエーリクに「きみは強いからひとりでも平気だよね?」と婚約破棄される。彼は、平民のレーナとの真実の愛に目覚めてしまったのだという。  ショックを受けたイリメルは、強さとは何かについて考えた。そして悩んだ末、己の強さを確かめるためにモンスター討伐の旅に出ることにした。  旅の最中、イリメルはディータという剣士の青年と出会う。  彼の助けによってピンチを脱したことで、共に冒険をすることになるのだが、強さを求めるためのイリメルの旅は、やがて国家の、世界の存亡を賭けた問題へと直結していくのだった。  婚約破棄から始まる(?)パワー系令嬢の冒険と恋の物語。

処理中です...