オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではございますが~

五十嵐

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王都リプセット公爵家19

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出発を前にキャストール侯爵への挨拶、アイスブルーダイヤのネックレスの受け取り、そしてこの後の両親との昼食。これで本当にファルコールへ向かうことが出来るとジョイスは思った。今度こそスカーレットの心を守り続ける為に。

そう、今度こそ。
キャストール侯爵の言葉は出発前の最後の意思確認だった。何もこの間際でと思わずにはいられないが、だからこそ確認したのだろう、引き返すならば今しかないと。

子供の頃は、自分の心を守ったジョイス。あの頃はそれが一番良い方法だと信じ、最悪の選択をしてしまった。もしも、報われないことよりもスカーレットの心を優先出来ていたならば…、『今』は大きく違っていただろう。そして出来なかったから、違ってしまうことがる。それはこれからのスカーレットとジョイスの関係。以前のアルフレッドを中心に将来の王子妃と側近ではない。幼馴染であることは変わらないかもしれないが、雇用する側の家族と雇用される側になるのだ。

明確な立場の違い。雇用主であるキャストール侯爵はジョイスにスカーレットの心を守るという任務を課した。ジョイスの気持ちを知りながら敢えて義務として。
それはキャストール侯爵からの問いであるとジョイスには分かる。今度は本当に自分の感情に封をしてでもスカーレットを優先出来るのかという。無理なら王都を出るなということだ。

「ジョイス様、昼食の準備が整いました」
そろそろ両親との昼食の為に食堂へ向かおうとしていたジョイスの部屋に執事がやって来た。そしてジョイスの格好を見るや否や、珍しく少しだけ表情を変えた。

「出発前ということでお二人にはこのような格好になることは許可を得ている」
「承知いたしました。それと、食堂へ向かう前にこれを。使用人一堂からです」

執事が差し出したのは、平民が着るような服とナイフ。これからのジョイスを思って用意してくれたようだ。

「ファルコールまでの道中、お気を付け下さい。ナイフならば常に忍ばせておけます。それに果物の皮も剥けますので」
「そうだな、ありがとう。実はキャストール侯爵から徽章を頂戴してきた。だからただでさえ安全な街道の上、問題なくキャストール侯爵領とその周辺を進めるだろう。これは果物の皮を剥くのに使わせてもらうよ。それと皆に感謝を伝えておいてくれ。次にわたしが戻るときは土産を持ってくるとも。では、食堂へ向かおう」

執事は服を用意して正解だと思った。ジョイスは貴族に見えないよう簡易な旅装を選んだのだろうが、その当ては見事に外れている。旅装が悪いのではない、ジョイスの身についてしまった雰囲気が簡易な服ですら高貴な方のお召し物へと引っ張ってしまうのだ。

執事はこのような雰囲気を持つジョイスに、既にスカーレットや社交界で有名なデズモンド・マーカム子爵までがいるファルコールとはどんなところだろうかとつい好奇心を抱いてしまったのだった。
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