オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではございますが~

五十嵐

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ハーヴァンを前に薫は思った、デズモンドやジョイスの様にずば抜けたイケメンではないが『馬と草原と青年』という風景の中に溶け込み、そよ風が似合う雰囲気を持っていると。だからだろうか、そのそよ風が薫にもふわっと感をそっと届け、心を穏やかにしてくれる。

前回ハーヴァンがファルコールの舘にやって来たのはたまたま。不幸な出来事が重なり、意識が朦朧としている中連れられて来た。そして、目覚めてから状況を把握したのだ、様々なことに警戒していたことだろう。しかし、今回ハーヴァンがここにいるのは自分の意思。リプセット公爵家に代々仕えるクロンデール子爵家の息子という立場ではなく、薫がキャロルと名乗るようにただのハーヴァンとしてやって来たのだ。況してやアルフレッドの側近であったジョイスの侍従として王宮に出入りする立場からは全く遠い存在として。

何が言いたいかというと、目の前のハーヴァンは本当に自然体なのだ。服装も乗馬用のブーツくらいがしっかりしたもので、到着した時に身に着けていた簡易プロテクターとチャップスを取り払ったらファルコールの町中の平民と変わりないように思える。

「どうかしましたか。やっぱりこの格好は失礼でしたか?」
「ううん、そんなことない。誉め言葉として捉えて欲しいのだけれど、自然体のハーヴァンらしくていいわ。ここは王都でもないし、あの特別な場所でもない。だから自由に過ごして。ただし、ホテルにお客様がいらしている時は別よ」
「ありがとうございます」
「もう、ちょっと離れている間に話し方がすごく畏まっているわ」
「あ、すみませ…、そうだった、ごめん。それと、ありがとう。これから長い付き合いになると思うから、前よりもっと気楽な関係になれるよう言葉から変えていくよ」

ハーヴァンが届けてくれたふわっとしたそよ風。久し振りの再会でお茶もその雰囲気で進むのかと思いきや、実際は違った。

「待って、ジョイが来るまでに計画案を七割方固めなくてはいけないの。しかも近々っていうだけでいつ来るかは分からないのに」
「キャストール侯爵からそう言付かってる」
「それは、ハーヴァンが来たら直ぐに取り掛かれということね。お父様らしいわ。既に二貴族家から資金提供の話を受けたとケビンが教えてくれたけど、ハーヴァンの役目はその額面をわたしに知らせることかしら?だから計画を具体的に考えることが出来るのだろうし」
「流石だね、キャロル。でも、君は自由な発想でアイデアを出せばいいだけだ。馬に掛かる費用の見積もりは、わたし…、俺が全部やるから。ジョイがそれを含め、全体像を纏める。資金提供者にとりこれは投資案件。だからジョイはどういう旨味を返せるか考えなければならないんだ」
「それがあなた達へのご両親の課題なのね?」
「やっぱりそこも分かってたんだ」
「分からない方がおかしいでしょ」


この時点でちょっと紙に落とし込みを始めただけの計画が、数日後にはプレゼンよろしく隣国のトビアス・セーレライドに説明することになるとはこの時の薫もハーヴァンも思いもしなかった。そして、その時ハーヴァンはキャストール侯爵のタイミングを見逃さない力に驚き、アルフレッドがスカーレットではなくキャストール侯爵令嬢を失ってしまったのだと痛感したのだった。
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