上 下
433 / 569

王宮では50

しおりを挟む
「お時間ありがとうございます」
敬われ、礼をされているのはアルフレッド。言葉も態度もそれを表している。しかし、そう単純ではない。目の前の人物には独特の何かがあるとアルフレッドは思わざるを得なかった。スカーレットが婚約者だった時には感じなくて良かった何かが。

身内ならば有り難いが、そうではなくなってしまった今はただただ厄介な人物としか言いようがない。訪問伺いには尤もらしいことが書いてあったが、本当のところどういう要件なのか…。
探る、尋ねる、誘導する、どれが正解で、どれならアルフレッドが出来ることなのか、そしてどこまでならばキャストール侯爵はそれを許し応えてくれるのだろうか。
相手は決まりきった挨拶しかしていない。だから先に進む切っ掛けはアルフレッドが作り、その様子から本当の訪問理由を窺わなければならないだろう。

「隣国の珍しい茶葉が手に入ったので、どうだろうか侯爵、味わってみては」
「ありがとうございます」

アルフレッドは視線で侍従に指示を出すと、再びキャストール侯爵を見た。表情を変えないところを見ると、茶は飲むということだ。即ちダニエルに関しての礼程度ではなく、話をするのだろう。しかし手紙には、忙しいアルフレッドに余計な移動時間を使わせない為に執務室を訪問したいと書いてあった。それはジョイスが居ても構わないということだ。

「殿下、もしお許しいただけるならばどのような茶葉か拝見しても」
「勿論だ」
アルフレッドはもう一人の侍従に今度は茶葉の入れ物を持ってくるよう伝えた。

何だろう、この一つ一つが試験のような緊張感は。合否は何によってきまるのか、その基準を先に知りたいとアルフレッドは思ってしまった。

直ぐに戻ってきた侍従はアルフレッドの指示に従い、茶葉の入った缶筒をトレイのまま侯爵の前に置くと再び扉横まで下がった。音を立てることもなく、王宮で働く者として十分な立ち居振る舞い。しかし、侯爵が侍従の動きを確認しに来たとは考え難い。もっと言ってしまうと、本当に茶葉を見たいと思ったのかもだ。

「ありがとうございます、殿下。では、拝見させていただきます」
侯爵はそう言うと流れるような所作で服の内ポケットからハンカチを取り出し手を拭き、缶筒に触れた。缶の装飾、次に蓋を開けて香を楽しむと、また元の状態に戻したのだった。しかし一点だけ違うことがあった。
缶筒の下に封筒が置いてあるのだ。
目の前にいるアルフレッドですらこうなのだ、扉横の侍従もこの部屋にいるジョイスもこの手紙の存在には気付けてはいないだろう。

何も言わずに置かれた手紙。答えは簡単だ。誰にも気付かれることなく、受け取れということ。

「殿下はこの茶筒のデザインをどう思われますか?」
しかも見事な助け舟を出してくれた。侯爵に異国の茶を出すと事前には伝えていない。だから全てはその場で侯爵が行っていること。ここまでお膳立てしてくれたのは、この手紙が重要だからだ。

「キャストール侯爵、ダニエルの報告内容に質問があるのだが執務机の引き出しにしまってある。少しここで待っていてくれ」
「申し訳ございません。愚息な故、至らぬ点ばかりで」
「否、良くやってくれた」

そう言うとアルフレッドは執務机に戻り、引き出しから書類を数枚取り出した。そして何食わぬ顔で封筒から手紙を抜き取り、書類の一番上に置き目を通したのだった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

お認めください、あなたは彼に選ばれなかったのです

めぐめぐ
恋愛
騎士である夫アルバートは、幼馴染みであり上官であるレナータにいつも呼び出され、妻であるナディアはあまり夫婦の時間がとれていなかった。 さらにレナータは、王命で結婚したナディアとアルバートを可哀想だと言い、自分と夫がどれだけ一緒にいたか、ナディアの知らない小さい頃の彼を知っているかなどを自慢げに話してくる。 しかしナディアは全く気にしていなかった。 何故なら、どれだけアルバートがレナータに呼び出されても、必ず彼はナディアの元に戻ってくるのだから―― 偽物サバサバ女が、ちょっと天然な本物のサバサバ女にやられる話。 ※頭からっぽで ※思いつきで書き始めたので、つたない設定等はご容赦ください。 ※夫婦仲は良いです ※私がイメージするサバ女子です(笑)

愛人がいらっしゃるようですし、私は故郷へ帰ります。

hana
恋愛
結婚三年目。 庭の木の下では、旦那と愛人が逢瀬を繰り広げていた。 私は二階の窓からそれを眺め、愛が冷めていくのを感じていた……

ある公爵の後悔

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
王女に嵌められて冤罪をかけられた婚約者に会うため、公爵令息のチェーザレは北の修道院に向かう。 そこで知った真実とは・・・ 主人公はクズです。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

後悔はなんだった?

木嶋うめ香
恋愛
目が覚めたら私は、妙な懐かしさを感じる部屋にいた。 「お嬢様、目を覚まされたのですねっ!」 怠い体を起こそうとしたのに力が上手く入らない。 何とか顔を動かそうとした瞬間、大きな声が部屋に響いた。 お嬢様? 私がそう呼ばれていたのは、遥か昔の筈。 結婚前、スフィール侯爵令嬢と呼ばれていた頃だ。 私はスフィール侯爵の長女として生まれ、亡くなった兄の代わりに婿をとりスフィール侯爵夫人となった。 その筈なのにどうしてあなたは私をお嬢様と呼ぶの? 疑問に感じながら、声の主を見ればそれは記憶よりもだいぶ若い侍女だった。 主人公三歳から始まりますので、恋愛話になるまで少し時間があります。

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

塩対応の公子様と二度と会わないつもりでした

奏多
恋愛
子爵令嬢リシーラは、チェンジリングに遭ったせいで、両親から嫌われていた。 そのため、隣国の侵略があった時に置き去りにされたのだが、妖精の友人達のおかげで生き延びることができた。 その時、一人の騎士を助けたリシーラ。 妖精界へ行くつもりで求婚に曖昧な返事をしていた後、名前を教えずに別れたのだが、後日開催されたアルシオン公爵子息の婚約者選びのお茶会で再会してしまう。 問題の公子がその騎士だったのだ。

婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。

桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。 「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」 「はい、喜んで!」  ……えっ? 喜んじゃうの? ※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。 ※1ページの文字数は少な目です。 ☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」  セルビオとミュリアの出会いの物語。 ※10/1から連載し、10/7に完結します。 ※1日おきの更新です。 ※1ページの文字数は少な目です。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年12月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

処理中です...